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部下の「やらされ感」を払拭し、やる気を高めるヒント

研修の仕事をしていると、管理職の方から「やらされ感」というキーワードを耳にすることが多いです。

ここで言っている「やらされ感」とは「指示待ち状態」「受け身状態」のことを指していて、要は主体性のない部下のマネジメントに悩んでいるということのようです。

もう少し具体的に言うなら、

・言われたことはやるが、それ以上の工夫はしない。
・チャレンジングな仕事や責任が重い仕事は避ける。
・期待するとプレッシャーだと言われる。
・ミスしたことについて改善策を聞いても黙り込む。
・報連相することなく一人で抱え込み自爆する。
・だからといって仕事の進捗に介入するとウザがられる。
・いくら褒めても反応が薄い。

こうした部下の姿勢の背景に「やらされ感」があると訴えるのです。

こうした話を聞く度に「でも、上司から言われたことはやってくれているわけで……。だとすると、本当はもっと上司を立てて欲しいみたいなことが言いたいのかな?」などと、勝手に色々と勘ぐりながら話を聞いていたりするのですが、今回はそうした管理職の方の「腹の内」の話ではなく、ズバリ「やらされ感」について、動機づけ(モチベーション)という切り口から考えてみたいと思います。


どんなときに「やらされ感」を感じるのか?


私たちは「誰かの役に立っている」「自分のしていることに価値がある」「成長している」「自分の主体的な意志で決定し行動している」と思える時、充実感や満足感を感じます。言い換えるなら「やりがい」を感じることができます。

裏返せば、「誰の役にも立っていない」「自分のしていることに価値を感じない」「強要されている」「成長していると思えない」こうしたときには、やりがいの対極にある「やらされ感」を感じるといえるかと思います。

実際、頑張っていても誰も褒めてくれなかったり、頑張りに気づいてくれない状況であれば、やる気は減退するでしょう。
また、自分が取り組んでいることに価値を感じていなかったり、成長していると思えなかったりしても、やる気は減退すると思います。

つまり「他者への貢献実感」「価値があると思える行為」「自由意志による決定感」「成長実感」が、やり甲斐とやらされ感を分岐する際の重要なキーワードになっているということが言えるかと思います。

そして、これらのキーワードが全て包含されているのが動機です。


辞書で動機を引いてみると、

1 人が意志を決めたり、行動を起こしたりする直接の原因。「犯行の―」「タバコをやめた―」
2 《motive》心理学で、人間や動物に行動を引き起こし、その行動に持続性を与える内的原因。
3 倫理学で、行為をなすべく意志する際、その意志を規定する根拠。義務・欲望・衝動など。

デジタル大辞泉(小学館)

とあります。

誤解を恐れずに要約すれば、動機とは人に行動を生じさせ、かつ、その行動を継続させる理由のことで、その動機を与えることが動機づけですね。

一般的に動機づけには、「内発的動機づけ」「外発的動機づけ」の2つがあると言われています。

 内発的動機づけ

「やること自体が楽しいからやる」「価値を感じるからやる」など、自分の内面に沸き起こった刺激(興味・関心・意欲・欲求)に基づいているもので、「自らの能力を存分に発揮できている(有能感)」や「自らの意志で決定して実行している(自己決定感)」が強く影響し、持続性が比較的高い動機と言われています。

 外発的動機づけ

懲罰を避ける、あるいは報酬を求めるなど、外部からの刺激に基づいたもので、短期的には効果が高いものの持続性が比較的低い動機と言われています。

そして多くの場合、これらの2つが、複合的、階層的に動機を形成しているようです。

例えば、転職を考えているAさんに「どうして転職したいの?」と転職の動機を尋ねたとき、「現状の収入では生活で精一杯で将来の貯金どころじゃないと妻に言われているから」と答えたとします。

このとき「収入を増やして家計状況を改善したい=外発的動機付け」「妻と揉めたくない=内発的動機付け」の2つが入り混じっていることがわかります。

とはいえ、動機は言語化できているものが全てとは限りません。
むしろ、言語化できていないものに「やる気」の種が隠れていることは少なくないのです。

例えば、

・収入は今よりもグンとアップするけど、忙しすぎて休日も仕事漬けで、最悪、家族関係が悪化したり体を壊す恐れがある仕事

・収入はこれまでと同じで生活で精一杯の状況は変わらないけど、職場の人間関係も良好で、マイペースで健康的に働き続けられる仕事

どちらに転職したい?と尋ねてみたとき、Aさんが「……いくら収入が増えても、人間関係が悪いのはちょっと……。おまけに夫婦関係が悪化したり体を壊すくらいなら、無理して稼がなくてもいいかな……」と言ったとします。

つまりAさんにとっては「生活で精一杯の状況を改善して将来の蓄えを増やしたい」といった言語化できていた動機よりも、言語化されていない「人間関係が良好な職場」「マイペースで働ける」「健康的な暮らし」「夫婦円満」という動機の方が実はより重要だったというわけです。

ここに「やらされ感」と「やる気」の違いを生み出す要素が見えます。

<やる気のある状態>
・行動の動機が言語化できている
・自身の価値基準の中で優先順位の高いものが動機になっている
・外的、内的に限らず「〜したい」という目的志向の動機を持っている

<やらされ感の状態>
・行動の動機が曖昧できちんと言語化できていない
・言語化できても自分以外の価値基準が動機になっている
・外的、内的に限らず「〜を避けたい」「〜は困る」といった回避志向の動機を持っている

動機に影響を与える価値基準と2つの志向性


価値基準とは、そのとき、なぜそのような行動をとったのか。逆になぜそのような行動をとらなかったのか。行動を起こすか起こさないかを決定する際の、その人の判断基準になるもののことで、その人が何を望み、何を目指しているのか。あるいは何を避けようとしているのか。こうした志向性を示す羅針盤のようなものだと言っていいでしょう。

自分の価値基準を知るヒントは、自分の人生で重大と思える選択や行動の中に実はたくさん隠れています。
これまで自分にとって大きな決断をした場面をいくつか振り返り、「なぜそのとき、その選択をしたのか?」について書き出してみると、いくつかの共通点が見つかるはず。
その共通点が、あなたが行動を起こす際の判断基準となるもの、つまり価値基準と言えます。

例えば、僕自身の価値基準をいくつか書いてみると……

<目的志向性の価値基準>
誠実であること、成長すること、自分らしくあること、俯瞰し構造化すること、挑戦すること、相互に尊重すること、調和すること、貢献すること、感謝すること、絆を育むこと、健康であること、柔軟性を高めること、選択肢を増やすこと ……などなど。
そして、これらのものを手に入れようとするときにやる気になるし、手に入れることを邪魔されるとイライラします^^
また、どうしても手に入れられないとわかると途端にやる気を失います^^

<回避志向性の価値基準>
縛られること、決めつける(決めつけられる)こと、退屈な時間を過ごすこと、変化がないこと、独創的でないこと、分断すること、自分を偽ること、ワンパターンなこと ……などなど。
これらを避けようとするとき行動のエネルギーが湧き上がります。つまりやる気になります。一方、どうしても避けられないとわかると途端にやる気を失います^^

このように、目的に自ら向かおうとして行動を起こすのか、それとも何かを避けようとして行動を起こすのか、価値基準には真逆の方向性があり、その方向性はそのまま動機形成に大きな影響を与えています。

これらを踏まえ、どうすれば部下の「やらされ感」を払拭できるのかについて考えてみたいと思います。

やらされ感を払拭するヒント1「功利的動機を明確にする関わり」

これは、
・それをやることで生じる、自分や周りにとってのメリット
・それをやらないことで生じる、自分や周りにとってのデメリット
これらを洗い出して、部下にとっての「功利的動機=外発的動機」を明確にすることです。

例えば、
それに主体的に取り組むことで……
・部下自身の評価が高まる
・結果を残すことで昇進が早くなる
・上司にアピールできる
それに主体的に取り組まないと……
・「やる気がないやつだ」と部下自身の評価が下がる
・他の誰かに仕事のしわ寄せがいく
……などなど。

やらされ感を払拭するヒント2「相手の価値基準で動機を強化する関わり」

例えば、いくら「賞与」「評価」といった功利的動機(外発的動機)で部下のやる気を掻き立てようとしても、その部下の価値基準の中で「お金」「昇進」「評価」といったものの優先順位が低ければ、部下はまるでピンとこないはずです。

そこで部下の価値基準にヒットする動機を考える必要があります。そのためには、普段、1on1のコミュニケーション時に、部下自身が大切にしている目的志向の価値基準、回避志向の価値基準をそれぞれ把握しておくことがおすすめです。

相手の価値基準を引き出すには「◯◯で大切なものはなにか?」を聞いてみることです。
例えば、仕事をする上で大切にしていることは? チームワークで大切にしていることは? キャリア形成で大切にしていることは? こうしたことを普段から聞き、部下の価値基準をいくつも把握しておくのです。

やらされ感を払拭し動機を強化するヒント

例えば、部下の仕事の価値基準に「周囲との調和」「協調性」「成長」「達成感」があることを把握していたとします。
そうしたら、「◯◯さんは、いつも周囲の人と調和することを大切にしながらも、自分が成長することに果敢にチャレンジしているよね。そんな◯◯さんだからこそ、ぜひこの仕事をお願いしたい。この仕事をすることで◯◯さんにとって……」と、価値基準と功利的理由を織り交ぜた業務指示を出していくのです。

また、「周りと調和する上で何か懸念材料はあるかな?」「どうすれば今回の仕事を通して成長実感や達成感を得ることができるだろう?」など会話すれば、さらに動機は爆上がりすると思います^^

このように行動する上での動機を多面的、かつ具体的に強化していくことで「やらされ感」を払拭するだけでなく、やる気を持って取り組んでもらえるはずです。

なお、これは自分自身の動機を強化する際も同じことが言えるので、まずは自身で試してみるのもいいかと思います^^

最後までご覧いただきありがとうございます。何か一つでも参考になれば嬉しいです。


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