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日本人を襲う近代化の闇(829字)自我の追求が自我を滅ぼす

東大・京大・共通テストすべての現代文入試において、「人間を覆う殻」をテーマとする文章が出題された。

●2023年京大現代文
福田恆存『芸術とは何か』(1950年)

●2024年東大・京大・共通テスト
菅原百合絵『クレリエール』
奈倉有里『夕暮れに夜明けの歌を
  --文学を探しにロシアに行く』
牧田真有子『桟橋』

(PDFファイルにリンクしています)

偶然なのか必然なのか、真偽は不明だが、現代日本社会に巣食う根深い問題であることは間違いない。

福田恆存(つねあり)の『芸術とは何か』は1950年の出版であるが、戦後80年となる今、日本人がいまだに近代合理主義の弊害に苦しめられていることがよく分かる。

「個人とは何か」「自己とは何か」という西洋合理主義・自由主義・個人主義が、明治初期の文明開化の一環として日本に入ってきたことをきっかけに、我々日本人にとっては悪い意味での「自我」が暴走を始めた。

「今だけ・金だけ・自分だけ」という言葉があるように、人は自己のエゴの追求に走り出し、他者との関係性は薄れ、他者を出し抜いてでも自己を浮上させることに懸命となった。

自己と他者との間に「硬い殻」を作り、「孤立化」し、自ら自分の首を絞め、結果、一番大切にしたいはずの「自己」の精神的成長を自ら捨てて堕落していくという、最悪の閉塞状況を自ら招いた。

しかも、人々のほとんどはその愚行に気づいてすらいない。

このような悪循環に陥っている現代日本社会の構造的欠陥が、すでに1950年時点で叫ばれていたわけで、そこから80年経った今、日本人はこれまで一体何をやってきたのか、その根本的な疑問を我々に投げかけたのが今回の京大の出題意図であり、京大から現代日本社会に訴えかける強烈なメッセージである。

核家族化・少子化・スマホ依存など、「人間の孤立」に関する現象をあげればキリがないが、今後ますます進む「孤立化社会」の中で、我々はどう生きていくべきか。

これらの文章を読んで、もう一度深く考えたい。

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