ユメ喰い:2話
第2話です。
ご覧いただけると嬉しいです。
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1. 新たな転校生
朝の光が教室の窓から差し込み、生徒たちが次々と席につく中、如月暖人(きさらぎ はると)は、いつもと変わらない日常を過ごしていた。だが、彼の心にはまだ昨夜の出来事が鮮明に残っており、どこか落ち着かない気分だった。
「はると、どうした? ぼーっとしてるぞ。」
隣の席に座る佐藤直紀(さとう なおき)が声をかけてきた。直紀の無邪気な笑顔を見ると、暖人は無理にでも気分を切り替えようと努めた。
「いや、なんでもないよ。ちょっと寝不足でさ。」
暖人は苦笑いを浮かべながら返事をしたが、その表情には明らかに疲れが見て取れた。そんな彼の様子を見て、直紀は少し心配そうに眉をひそめた。
その時、教室のドアが開き、教師が新しい転校生を連れて教室に入ってきた。静かになった教室の中、教師が話し始める。
「みんな、今日は新しいクラスメイトを紹介する。彼女は今日転校してきた霧島玲奈さんだ。お父さんの都合で急な転校になったようだが、みんな仲良くしてくれ。」
その名前が呼ばれた瞬間、暖人の胸が高鳴った。彼は急いで前を見ると、そこには病院で出会った霧島玲奈が立っていた。玲奈は冷静で落ち着いた表情を浮かべながら、教室を見渡していた。
「霧島玲奈です。よろしくお願いします。」
玲奈は静かに自己紹介をし、その声ははっきりと教室中に響き渡った。クラスメイトたちは新しい転校生に興味津々で、さまざまな反応を示していたが、暖人はただ驚きと戸惑いで固まっていた。
「彼女が……同じクラスに……?」
暖人は自分の目を疑った。
玲奈が教室の後方にある空席に座ると、直紀が暖人に顔を寄せ、小声で話しかけてきた。
「なあ、はると。霧島さん、すごくかわいくないか?」
直紀の言葉に、暖人は一瞬返事に困った。
「う、うん……そうだな。かわいいかもね。」
暖人は適当な返事をしながら、心の中で再び混乱していた。彼の言葉に満足したのか、直紀は笑顔を浮かべながら席に戻った。
「どうして……彼女がここに……?」
暖人は再び心の中で問いかけたが、答えは出なかった。ただ一つ確かなのは、彼の日常が再び非日常に引き戻されつつあることだった。
玲奈が何を考えているのか、なぜこの学校に転校してきたのか――その全てが謎に包まれていた。
2. 友人
昼休みになり、教室は再び賑やかさを取り戻していた。生徒たちはそれぞれのグループで集まり、ランチを楽しんだり、おしゃべりに花を咲かせたりしている。暖人もいつものように、佐藤直紀や他の友人たちと一緒に昼食を取っていた。
「なあ、はると、霧島さんってあの時病室にいた子だよな?」
大塚翔太(おおつか しょうた)がふと思い出したように言うと、暖人は軽く頷いた。「うん、そうだ。直紀の病室に座ってた子だ。」
高坂翔(こうさか しょう)が興味津々な表情で付け加えた。「でも、なんで直紀の病室にいたんだろうな? あの時は何も言わなかったけど……気になるよな。」
直紀は話題にされた玲奈のことを思い出そうとするが、病室で彼女を見た覚えがなかったため、首をかしげた。「病室で……霧島さん? でも、俺は覚えてないな……」
その時、霧島玲奈が教室に入ってきて、友人たちの輪の中に自然に入ってきた。彼女は明るい笑顔を浮かべながら、直紀たちに話しかけた。
「お昼ご飯、みんなで食べてるんだね! 私も一緒にいいかな?」
そのフレンドリーな態度に、友人たちはすぐに打ち解け、彼女を歓迎した。
「もちろん! 霧島さんもどうぞ。」翔が笑顔で答え、玲奈がみんなの隣に座る。
「霧島さん、前に直紀の病室で見かけたけど、あの時どうしていたの?」翔太が直接質問すると、玲奈は少し微笑んで、さらりと答えた。
「あの時はね、先生のお手伝いをしていただけなの。」
玲奈は軽く言い流すように答えたが、その言葉にはどこか含みがあるように感じられた。だが、そのフレンドリーで親しみやすい態度に、友人たちは特に深く追求しなかった。
「先生のお手伝いかぁ……なんでもできるんだな。」翔が感心したように言うと、玲奈は笑顔を浮かべて肩をすくめた。
その後、みんなで楽しくおしゃべりしながら昼食を取った。玲奈の明るい態度に、友人たちもすっかり打ち解け、自然と彼女を受け入れていた。しかし、暖人は玲奈の言葉の裏に何か隠されているように感じ、気になって仕方がなかった。
その時、玲奈がふと暖人の方に近づいてきた。彼女は微笑みながら、暖人の制服の襟元を指差した。
「ねえ、暖人君、ボタンが少し外れてるよ。直してあげるね。」
玲奈はそう言いながら、自然な動作で暖人の胸元に手を伸ばした。
「はい、これで大丈夫。」玲奈は満足げに微笑んで、暖人の視線を避けるようにして席に戻った。
暖人はその時は何も気づかず、彼女の行動を特に深く考えなかった。しかし、昼休みが終わりに近づくと、ふと胸ポケットの違和感に気づいた。何気なくポケットに手を入れてみると、そこには小さなメモ用紙が入っていた。
何気なく取り出してみると、それには短いメッセージが書かれていた。
「屋上で待っています――霧島玲奈」
その瞬間、暖人の心臓が一瞬止まりそうになった。どうして彼女が自分にこんなメモを? 昨日の出来事と関係があるのか――暖人の頭の中で様々な考えが渦巻いた。
「どうした、はると?」直紀が不思議そうに尋ねたが、暖人はメモを隠しながら曖昧に返事をした。
「いや、なんでもないよ。ちょっと考えごとしてたんだ。」
3. 屋上
昼休みが終わると同時に、教室内の喧騒が静まり、次の授業が始まろうとしていた。しかし、暖人の心は玲奈からのメモに占められ、授業に集中することができなかった。彼は胸ポケットのメモを何度も確かめながら、授業終了のチャイムが鳴るのを待っていた。
ようやくチャイムが鳴り、暖人は机の中の教科書をそそくさと片付けると、誰にも気づかれないように教室を出た。廊下を歩きながら、彼は心の中で様々な考えが巡る。
「玲奈が僕を屋上に呼び出した理由は……何だろう?」
階段を登り、屋上に続くドアを静かに開けると、そこにはすでに玲奈が待っていた。彼女は風に吹かれる長い髪を抑えながら、暖人が来るのを見守っていた。
「暖人、来てくれてありがとう。」
玲奈は静かに微笑みながら暖人に歩み寄り、屋上のフェンスのそばに立つよう促した。暖人は彼女の様子にどこか緊張を感じながら、彼女の隣に立った。
「玲奈……どうして僕をここに呼んだんだ?」
暖人が問いかけると、玲奈は一瞬黙り込み、遠くの景色を見つめた。その視線はどこか悲しげで、何かを決意したようにも見えた。
「暖人、まず……話しておかなきゃならないことがあるの。」
玲奈はそう切り出すと、暖人の方に向き直り、真剣な表情で続けた。
「私は……私の家は、代々神社の家系で……特別な使命を持っている。」
彼女の言葉に、暖人は驚きの表情を浮かべた。「神社の家系……それってどういうこと?」
玲奈は少し息をついて、さらに続けた。「私たちの家族は、夢と現実の境界を守るための役割を持っているの。特に、夢の中で悪さをする存在、つまり『夢喰い』を退治する使命があるの。」
暖人は玲奈の言葉に動揺しながらも、彼女の話に引き込まれていった。「夢喰い……それって、昨日の夢で戦ったあの化け物のことだよね?」
玲奈はゆっくりと頷いた。「そう、あれが夢喰い。そして、私が持っている『断界刀』は、その夢喰いを倒すための特別な武器。でも……」
玲奈は少し言葉を詰まらせた後、続けた。「でも、昨夜、あなたが断界刀と契約してしまったことで、私はもうその力を使えなくなった。あなたが断界刀の新しい契約者になってしまったの。」
玲奈は暖人の肩に手を置き、厳しい口調で続けた。「あなたは、私と同じで夢の世界に入る特別な力がある。そしてそれは私より強い。断界刀の契約者を変えられるのは契約者の死か契約者よりその力が強い者が契約するかの2つ。今は、その契約を解除することができない。」
暖人は困惑しながらも、次第に自分の置かれた状況を理解し始めた。「じゃあ、僕がこれから……夢喰いと戦わなきゃならないってこと?」
玲奈は一瞬の沈黙の後、冷静な声で言った。「そう。今は私がサポートするしかないけれど、これからはあなたがその使命を果たさなきゃならない。」
しかし、暖人はその言葉を聞いても、すぐには納得できなかった。彼は深く息を吐き、眉をひそめながら言った。「ごめん、玲奈。でも、僕は自分の身を危険にさらして他人を助けるようなやつじゃない。昨日のことだって、どうにか乗り切れただけで……またあんな恐ろしい化け物と戦うなんて……」
玲奈の表情が一瞬厳しくなった。彼女は暖人の目をじっと見つめ、冷静だが鋭い口調で言い放った。「それでも、あなたしかいないの。夢喰いを倒せるのは、断界刀を持つあなただけなのよ。」
暖人はその言葉に息を呑んだが、まだ納得できない様子だった。「でも、どうして僕が……他の誰かじゃだめなの?」
玲奈はさらに続けた。「実は、新たに夢から覚めない子どもが病院に入院しているの。その子も、夢喰いに囚われている。助けられるのはあなただけなのよ、暖人。」
暖人はその言葉に動揺し、心の中で葛藤が生まれた。自分の身を危険にさらすことを恐れていたが、無力な子どもが夢喰いに囚われているという事実を知り、胸が痛んだ。彼はしばらく黙り込んだ後、静かに口を開いた。
「……わかったよ。」
玲奈は暖人の返事に頷き、安心したように言った。「ありがとう、私が必ずサポートするから。」
暖人は自分の中に芽生えた決意を感じながら、玲奈の言葉を受け入れた。これから始まる戦いに備え、彼は心を引き締めた。
「わかった……僕、やるよ。」
玲奈は暖人の決意を感じ取り、静かに微笑んだ。「今夜、その病院に行こう。準備をしておいてね。」
暖人は頷き、これから始まる新たな戦いに向けて気を引き締めた。玲奈の隣で、彼は自分の使命を受け入れ、立ち向かう覚悟を固めた。
4. 夜の病院
その夜、暖人は自分の部屋で鏡に映る自分を見つめながら、心を落ち着かせようとしていた。だが、胸の奥に渦巻く不安は消え去らない。今夜、自分が直面しなければならないもの――夢喰いとの戦いが、彼の心を重くしていた。
「本当に……僕にできるのかな……」
暖人は自問自答しながら、昨夜の戦いを思い出した。あの恐ろしい姿、無数の赤い目、鋭い牙――夢喰いの存在はただの夢とは思えないほどリアルで、恐ろしいものだった。
約束の時間が近づき、暖人は意を決して部屋を出た。夜の静けさが町を包み、風が冷たく頬を撫でる。家を出てから、彼は街灯の下を通りながら、玲奈との待ち合わせ場所へと向かった。
病院の前に到着すると、すでに玲奈がそこに立っていた。
「来たね、暖人。準備はいい?」
玲奈の問いかけに、暖人は小さく頷いた。「うん、なんとか……でも、やっぱり少し怖い。」
玲奈は真剣な表情で言った。「その気持ちはわかる。でも、今夜はあの子を救うために戦わなきゃならない。夢喰いを倒せるのは君だけなんだから。」
暖人はその言葉を胸に刻み込み、意を決して病院の中へと足を踏み入れた。静まり返った廊下を二人で歩きながら、玲奈は状況を説明し始めた。
「数日前から眠り続けている子どもが入院している。原因は夢喰いがその子を捕らえているから。私たちは、その子の夢の中に入り込んで、夢喰いを倒さなければならない。」
「でも、どうやって夢の中に入るんだ?」
暖人は不安げに尋ねた。昨日のように自分がまた夢に引きずり込まれるのか、それとも何か別の方法があるのか、それが気になっていた。
「大丈夫。君がその子の頭に触れれば、自然と夢の世界に入り込むことができる。それに、断界刀が君を守ってくれるはず。」
「断界刀……でも、今、僕は持ってないんだけど……」暖人はふと気づき、自分の手元を確認したが、そこには断界刀は見当たらなかった。
玲奈は冷静に説明を続けた。「断界刀は、夢の世界でのみ現れる。現実では目に見えないし、触れることもできない。だから心配しないで。夢の中に入れば、自然と君の手に現れるわ。」
「そうなのか……」暖人は玲奈の言葉に不安そうに、病室のドアの前に立った。ドアを開けると、中には小さな子どもが静かに眠っている姿が見えた。
「この子が……」
暖人はベッドの傍に立ち、眠る子どもの顔をじっと見つめた。その顔には苦しそうな表情が浮かび、まるで悪夢に囚われているようだった。
玲奈が暖人の隣に立ち、彼の手を取って子どもの頭に優しく触れさせた。「さあ、暖人。行こう、この子を助けに。」
暖人は深呼吸をし、恐怖を押し殺しながら、目を閉じた。次の瞬間、彼の意識が揺らぎ、足元がぐらつくような感覚に襲われた。まるで底なしの闇に引きずり込まれるような感覚――そして、目を開けると、そこには再び夢の世界が広がっていた。
しかし、今度の夢の世界は、以前の直紀の夢とはまったく異なるものだった。目の前には巨大な積み木や、ブリキの兵隊、そして巨大なぬいぐるみが立ち並ぶ、まるでおもちゃの世界が広がっていた。
「ここは……一体?」
暖人は驚きの声を上げた。直紀の夢で見た不気味で暗い世界とはまったく違う、色鮮やかでどこか楽しげな雰囲気の中に立っていた。
玲奈が隣で冷静に説明した。「夢の世界は、その人の思考や感情に強く影響されるの。今この夢の主である子どもは、おもちゃが大好きだったんでしょうね。だから、彼の夢はこういう形になっているの。」
「そうか……直紀の夢とは全然違うんだな。」
暖人は辺りを見回しながら、玲奈の言葉に頷いた。だが、その色鮮やかな世界の中にも、どこか不安定で不気味な雰囲気が漂っていた。
「でも、ここにも夢喰いがいるんだろう?」
「そう、夢喰いはどんな夢の中でもその主を捕らえ、精気を吸い取ろうとする。ここでも油断は禁物よ、暖人。」
玲奈の言葉に、暖人は再び断界刀を握りしめた。
5. おもちゃの世界
暖人と玲奈が踏み入れたおもちゃの世界は、夢の主である子どもの心象風景が具現化された場所だった。色鮮やかで楽しげな雰囲気が漂うその世界は、一見するとただの遊び場のようだったが、二人はすぐに感じ取った。この場所には、目に見えない恐怖が潜んでいることを。
「暖人、油断しないで。この世界は、あの子の純粋な思考で作られているけど、夢喰いが隠れているはずだから。」
玲奈の言葉に、暖人は再び断界刀を握りしめた。彼の手にしっかりと馴染んだその刀は、夢の中で彼の意思を反映して形を変えていた。今では暖人の一部となり、彼の力を引き出す武器となっている。
「わかった。どこにいるかはわからないけど、きっと現れるんだろうな。」
二人は慎重に足を進めた。巨大な積み木の間を抜け、ブリキの兵隊たちが無言で見守る中を歩く。あたりには不気味な静寂が漂っており、その静けさがかえって二人の緊張感を高めていた。
突然、暖人は背後に気配を感じて振り返った。だが、そこには何もなかった。ただ、色とりどりのおもちゃたちが無造作に散らばっているだけだった。
「何かいる……気がする。」
暖人が呟くと、玲奈も周囲を警戒し始めた。「感じるわ。夢喰いはすぐに姿を現すとは限らない。慎重に進もう。」
しかし、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、暖人の足元が突然崩れた。巨大な積み木が一瞬にして形を変え、まるで生き物のように暖人を取り囲んだのだ。
「暖人、気をつけて!」
玲奈が叫ぶと同時に、暖人は咄嗟に断界刀を振り下ろした。刀が積み木を切り裂くと、周囲の風景が一瞬にして揺らぎ、色鮮やかだった世界が暗く歪み始めた。
「これが……夢喰いの仕業か?」
暖人が驚きの声を上げた瞬間、闇の中から巨大な影が現れた。それは直紀の夢の中で見た夢喰いとは異なり、おもちゃの部品を寄せ集めたような異形の姿をしていた。
その夢喰いは、まるで狂ったおもちゃのモンスターだった。巨大な体は積み木やブリキの兵隊、ぬいぐるみの断片で構成され、歪んだ顔はおぞましいピエロの仮面を被っている。腕はバネ仕掛けのように伸び縮みし、その先には鋭利な刃物や釘が突き出ている。まるでおもちゃのカオスが具現化したような姿は、暖人の心に深い恐怖を植え付けた。
「これが夢喰い……!」
玲奈は断界刀を持つ暖人の横に立ち、冷静に指示を出した。「落ち着いて、暖人。この夢喰いは、夢の主である子どもの不安や恐怖を形にしているの。君が怯えれば怯えるほど、奴は強くなる。」
「でも、どうすれば……こんなのに勝てるのか?」
夢喰いは不気味な唸り声を上げながら、暖人に向かってゆっくりと近づいてきた。その巨大な腕が伸び、まるで全てを飲み込もうとするかのように迫ってくる。
暖人は必死に断界刀を構え、夢喰いの攻撃を受け流そうとするが、敵の力は予想以上に強かった。バネ仕掛けの腕が勢いよく飛んできて、暖人の体を弾き飛ばす。彼は地面に激しく叩きつけられ、痛みが全身を貫いた。
「くそっ……!」
暖人はすぐに立ち上がろうとするが、夢喰いは容赦なく次の攻撃を仕掛けてくる。刃物や釘が彼に向かって飛び出してくる。暖人は必死にそれらを避けようとするが、動きが鈍くなり、何度もかすり傷を負ってしまう。
「こんな……強いなんて……!」
玲奈は冷静に周囲を見渡しながら、夢喰いの弱点を探していた。そして、夢喰いの体の中心に、異様に輝く一点を見つけた。そこには、黒い熊のぬいぐるみが埋め込まれていた。ぬいぐるみの目が赤く輝き、まるで生きているかのように動いている。
「暖人、あそこよ! 夢喰いの核は、体の中心にある黒い熊のぬいぐるみ! あそこを狙って!」
玲奈の声に反応した暖人は、再び立ち上がり、核に狙いを定めた。
暖人は力を振り絞って叫んだ。「やるしかない……! 僕がやらなきゃ、あの子を救えない……!」
「このバネの力を……使ってやる!」
暖人は夢喰いの攻撃を避けると同時に腕のバネに体を巻き付かせた。その反発力を利用し、勢いよく夢喰いに飛び込んだ。
「これで終わりだ……!」
暖人は全身の力を込めて、断界刀を夢喰いの核である黒い熊のぬいぐるみに深く突き刺した。刀が核に触れた瞬間、強烈な光が溢れ出し、夢喰いの体を包み込んだ。夢喰いは断末魔の叫びを上げながら、その体が崩れ落ち、闇の中へと消えていった。
「やった……!」
暖人が息を切らしながら呟くと、玲奈が彼の隣に駆け寄り、静かに微笑んだ。「よくやった、暖人。これであの子は解放される。」
周囲の景色が再び揺らぎ始め、色鮮やかだったおもちゃの世界が徐々に消え去り、暗闇に包まれていく。夢の世界が崩壊し始めたことを感じ取った二人は、再び現実に引き戻される感覚に包まれた。
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以降、文章ありません。