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【妄想小説 #5】アジアの社窓から - 偶然が人生を変える

僕がnoteを書き始めたのは、遠い異国の地で得た経験を書き留めておきたかったから、そして、頭の中で膨らむ空想を物語として形にしたかったからだ。そう、僕の物語はただの妄想なんかじゃない。現実と空想が織りなす、まるで本当にあったことのような、そんな物語なんだ。そして、このnoteに願いを綴れば、いつかその空想が現実になるような気がしてならない。

ー 本編 ー

シンガポールの高層マンション。窓の外では、嵐が過ぎ去り、星々が瞬き始めていた。僕は革張りのアームチェアに深く身を沈め、冷えたアイスコーヒーを片手に、遠いサンフランシスコへのフライトのことを考えていた。サンフランシスコ。それは僕にとってただの目的地ではなかった。僕のベースギターが奏でる音楽が、初めて世界へと羽ばたく場所。そして、あの日、あのフライトで出会った彼女との、忘れられない、そして、どこか危険な香りのする物語の始まりだった。

あの日、シンガポール・チャンギ国際空港は、まるでハリケーンが通過したかのように騒然としていた。チェックインカウンターは大混乱。人々は怒号を飛ばし、子供は泣き叫び、係員は顔面蒼白。そんな中、僕の前に並んでいた女性が、突然振り返り、助けを求めるように話しかけてきたのだ。

「すみません、このフライト、本当にサンフランシスコ行きですよね?」

彼女の瞳には、まるで嵐の前の海のような、不穏な光が宿っていた。僕は思わず息を呑み、彼女を見た。彼女は、まるで絵画から抜け出してきたような、息を呑むほど美しいアジア系の女性だった。その瞳は、深い森の奥底のように、計り知れない何かを秘めているように見えた。

「え、ええ、もちろんです。サンフランシスコ行きですよ」

僕は、少し戸惑いながらも答えた。すると、彼女は、安堵の表情を浮かべた。しかし、その表情はすぐに、深い悲しみに塗り替えられた。

「ですよね。でも、実は、パスポートを紛失してしまって...」

彼女の言葉に、僕は凍りついた。パスポート紛失。それは、この空港という名のジャングルで、最も危険な状態に陥ることを意味していた。僕は、彼女に同情しながらも、同時に、この状況に巻き込まれることへの不安を感じずにはいられなかった。

しかし、僕は、彼女の瞳に映る絶望を見て、見過ごすことはできなかった。僕は、彼女に近づき、小声で言った。

「大丈夫、僕が一緒に探しますよ」

彼女は、僕を見て、かすかな希望の光を瞳に灯した。そして、僕たちは、まるで共犯者であるかのように、人混みの中に消えていった。

僕たちは、空港のあらゆる場所を探し回った。トイレ、レストラン、免税店、そして、怪しげな裏路地まで。しかし、パスポートは見つからなかった。時間だけが容赦なく過ぎていき、フライトの出発時刻が刻一刻と迫っていた。

そんな時、僕は、あることに気がついた。彼女のバッグには、小さな鍵がかかっていた。僕は、彼女に尋ねた。

「この鍵、何の鍵ですか?」

彼女は、少し戸惑った様子だったが、答えた。

「実は、ホテルの部屋の鍵なんです。もしかしたら、パスポートを部屋に忘れてきたかもしれません」

彼女の言葉に、僕は、一縷の望みを感じた。しかし、ホテルに戻るには時間がなかった。僕は、決断を迫られた。そして、僕は、彼女の手を取り、空港の外へと走り出した。

僕たちは、タクシーを拾い、ホテルへと向かった。しかし、運悪く、シンガポールでは普段めったに起こらない交通渋滞に巻き込まれてしまった。タクシーの運転手は、陽気なシンガポール訛りの英語で、ジョークを飛ばしながら、ノロノロと車を走らせる。僕は、時計と運転手を交互に睨みつけ、気が狂いそうになった。

「ちょっと、運ちゃん!急いでくれよ!飛行機に乗り遅れちゃうんだ!」

僕は、思わず叫んだ。すると、運転手は、にやりと笑い、

「シンガポールではね、焦っても何も変わらないんだよ。ゆっくり、ゆっくり、それがシンガポール流さ」

と、涼しい顔で答えた。僕は、彼の言葉に、思わず笑ってしまった。そして、彼女の顔を見ると、彼女もまた、笑っていた。

「そうね。ここはシンガポール。焦っても仕方ないわ」

彼女は、そう言って、僕の肩に頭を乗せた。その瞬間、僕は、不思議な安らぎを感じた。そして、僕たちは、渋滞の中、束の間の静けさを楽しんだ。

ようやくホテルに到着し、彼女の部屋に入ると、彼女は、ベッドの下からパスポートを見つけ出し、歓喜の声を上げた。しかし、空港に戻るには、もう時間がなかった。

絶望が僕たちを襲った。その時、彼女の携帯電話が鳴った。それは、シンガポール航空からの電話だった。フライトは、悪天候のために遅延していたのだ。僕たちは、再びタクシーに飛び乗り、空港へと向かった。

そして、運命のいたずらか、僕たちは同じフライトのビジネスクラスに搭乗することになった。僕は、彼女の隣の席に座り、安堵のため息をついた。そして、僕たちは、まるで長年の友人であるかのように、語り合った。

彼女は、サンフランシスコに住む写真家で、今回は仕事でシンガポールに来ていたという。そして、僕は、サンフランシスコで開かれる音楽フェスティバルに出演するために、シンガポールから旅立つところだった。僕たちは、音楽、写真、旅行、そして人生について語り合った。彼女の言葉は、まるで詩のように美しく、僕の心を揺さぶった。そして、彼女の笑顔は、まるで太陽のように暖かく、僕の心を溶かした。

フライトは、長かったが、退屈することはなかった。僕たちは、映画を見たり、食事を楽しんだり、そして、互いの夢について語り合った。特に、機内食のチキンライスは絶品で、僕たちは、まるで子供のように、夢中で頬張った。

「美味しい!」

彼女は、目を輝かせながら言った。僕も、

「うん、最高!」

と、満面の笑みで答えた。僕たちは、笑い合い、そして、再び語り合った。

着陸態勢に入った時、僕は、彼女に思い切って尋ねた。

「サンフランシスコに着いたら、またお会いできませんか?」

彼女は、少し考えてから、

「ええ、ぜひ」

と答えた。そして、僕たちは、連絡先を交換した。

サンフランシスコ国際空港に到着すると、僕たちは、互いに別れを告げ、それぞれの道へと進んだ。しかし、僕の心は、彼女との再会への期待で満たされていた。そして、それは、ただの期待ではなかった。それは、まるで運命に導かれるような、抗えない衝動だった。

数日後、僕は、サンフランシスコのジャズクラブでライブを行った。演奏を終えると、客席から彼女が現れた。彼女は、僕を見て微笑み、拍手を送ってくれた。ライブの後、僕たちは、近くのバーで語り合った。そして、その夜、僕たちは、深い友情で結ばれた。

彼女との日々は、まるでジェットコースターのようだった。僕たちは、ゴールデン・ゲート・ブリッジを自転車で駆け抜け、フィッシャーマンズ・ワーフで新鮮な牡蠣を堪能し、アルカトラズ島をフェリーで訪れた。彼女は、僕をサンフランシスコの隠れた名所へと案内してくれた。ある日、僕たちは、とある古びたレコードショップを訪れた。埃っぽい店内には、無数のレコードが所狭しと並べられていた。彼女は、まるで宝探しをする子供のように、目を輝かせながら、レコードを掘り始めた。

「これ、聴いてみて」

彼女は、一枚のレコードを僕に手渡した。それは、古いジャズのレコードだった。僕は、レコードプレイヤーに針を落とし、音楽に耳を傾けた。すると、まるで魔法のように、僕たちは、音楽の世界へと引き込まれていった。

僕たちは、レコードに合わせて体を揺らし、歌い、そして、笑い合った。それは、まるで時間が止まったかのような、夢のようなひとときだった。

しかし、その裏では、彼女が抱える問題が、まるで影のように僕たちにつきまとっていた。ある日、彼女は、僕に打ち明けた。彼女は、サンフランシスコの裏社会と繋がりのある、危険な男から、理不尽な要求を受けて困っていたのだ。僕は、彼女を守ることを決意した。しかし、それは、僕を危険な渦へと巻き込むことになった。

僕たちは、追っ手から逃れるために、サンフランシスコの街を駆け巡った。路地裏、チャイナタウン、そして、霧に包まれたゴールデン・ゲート・パーク。僕たちは、まるで映画の主人公のように、スリリングな逃走劇を繰り広げた。

そして、ついに、僕たちは、追っ手に追い詰められた。絶体絶命のピンチ。その時、僕は、ベースギターを手に取り、追っ手に向かって振りかざした。

「彼女に手を出すな!」

僕は、叫んだ。そして、渾身の力を込めて、ベースギターを振り下ろした。しかし、鈍い音と共に、ベースギターのネックがポッキリと折れてしまった。

「しまった!」

僕は、思わず叫んだ。追っ手は、僕を見て、高笑いした。

「ハハハ!ベースギターで戦うつもりか?お前は、ミュージシャンだろ?そんなので俺を倒せると思っているのか?」

追っ手は、そう言って、僕に近づいてきた。僕は、後ずさりしながら、必死に何か武器になるものを探した。その時、僕の目に、一台のホットドッグカートが飛び込んできた。

僕は、ホットドッグカートを掴み、追っ手に向かって突進した。追っ手は、不意を突かれ、ホットドッグカートに押し倒された。そして、その瞬間、大量のマスタードとケチャップが、彼の顔面に降り注いだ。

「うわああああ!」

追っ手は、叫び声を上げながら、マスタードとケチャップまみれで転げ回った。僕は、その隙に、彼女の手を取り、その場から逃げ出した。

僕たちは、警察に助けを求めた。警察は、追っ手を逮捕し、僕たちは、ようやく安全を確保することができた。

事件の後、彼女は、サンフランシスコを離れることを決意した。新たな場所で、新しいスタートを切りたいと彼女は言った。僕は、彼女を引き留めることはできなかった。それは、彼女を守るための、そして、彼女の幸せを願うための、僕の最後の決断だった。

その後、僕は、シンガポールに戻り、音楽活動を続けている。しかし、僕の心は、サンフランシスコに残してきた彼女への想いで満たされていた。僕は、毎晩のように、彼女との思い出に浸り、そして、彼女にLINEでメッセージを送り続けた。でも、ある時から既読がつかないまま、返事もなくなった。

あれから数年、僕は、サンフランシスコの音楽フェスティバルから招待状を受け取った。それは、僕にとっては再び彼女に会うチャンスだった。僕は、迷わずサンフランシスコ行きのチケットを予約した。

そして、再びサンフランシスコの地を踏んだ僕は、彼女を探し始めた。しかし、彼女は、どこにもいなかった。僕は、彼女が最後に住んでいたアパートを訪ね、彼女が働いていた写真スタジオを訪ね、そして、僕たちがよく行ったジャズクラブを訪ねた。しかし、彼女を見つけることはできなかった。

落胆しながら、僕は、ゴールデン・ゲート・ブリッジを一人で歩いた。すると、橋の真ん中あたりで、一台のストリートピアノが目に入った。僕は、ピアノの前に座り、彼女のことを思いながら、即興で曲を弾き始めた。

すると、どこからともなく、人々が集まってきた。観光客、地元の人、そして、ホームレスの人まで。彼らは、僕の演奏に耳を傾け、そして、涙を流した。

演奏を終えると、一人の女性が、僕に近づいてきた。彼女は、少し歳を重ねていたが、その瞳は、あの日と同じように輝いていた。

「素晴らしい演奏だったわ」

彼女は、そう言って、僕に微笑みかけた。僕は、彼女を見て、息を呑んだ。それは、彼女だった。

「久しぶりね」

彼女は、そう言って、僕を抱きしめた。僕は、彼女の温もりを感じ、涙が溢れてきた。

僕たちは、近くのカフェで語り合った。彼女は、サンフランシスコを離れた後、ロサンゼルスに移り住み、そこで新たな人生を歩んでいた。彼女は、写真家としてのキャリアを積み、充実した日々を送っていた。

僕は、彼女の幸せを心から喜んだ。そして、同時に、彼女への想いが、まだ自分の心の中に残っていることに気づいた。

「あなたに、伝えたいことがあるの」

彼女は、真剣な表情で言った。

「あの時、あなたは、私を助けてくれた。そして、あなたは、私に勇気をくれた。私は、あなたに、感謝してもしきれないわ」

彼女の言葉に、僕は、胸が熱くなった。そして、僕たちは、サンフランシスコで数日間を共に過ごした。

毎日、僕たちは、まるで恋人同士のように、街を歩き、語り合い、笑い合った。しかし、僕たちは、互いの気持ちを確かめ合うことはなかった。それは、彼女が新たな人生を歩み始めたことを、僕が尊重していたからだ。

そして、別れの時が来た。彼女は、ロサンゼルスに戻らなければならなかった。

空港で、彼女と抱き合い、涙ながらに別れを告げた。

「ありがとう。そして、さようなら」

僕たちは、そう言って、互いに背を向けた。

シンガポールに戻った僕は、音楽活動に打ち込んだ。新しい曲を作り、ライブを行い、そして、少しずつ、彼女との思い出を心の奥底にしまい込んでいった。しかし、どんなに忙しく過ごしても、彼女の笑顔、彼女の言葉、彼女の温もりは、僕の心の片隅に残り続けた。

それから更に数年後、僕は、シンガポールである音楽プロジェクトに参加することになった。それは、世界中から集まったミュージシャンたちとのコラボレーションプロジェクトだった。僕は、期待と不安を抱えながら、プロジェクトの初日を迎えた。

スタジオに入ると、すでに多くのミュージシャンたちが集まっていた。僕は、彼らの顔ぶれを見て、驚きの声を上げた。そこには、なんと、彼女がいたのだ。

彼女は、僕を見て、目を丸くした。そして、次の瞬間、僕たちは、互いに駆け寄り、抱き合った。

「どうして、ここに?」

僕は、彼女に尋ねた。彼女は、

「実はね、私もこのプロジェクトに参加することになったの」

と、笑顔で答えた。

僕たちは、まるで奇跡のような再会を喜び、そして、再び、音楽を通して繋がった。僕たちは、共に曲を作り、演奏し、そして、互いの才能を刺激し合った。

プロジェクトが進むにつれ、僕たちは、再び、互いへの想いを募らせていった。そして、プロジェクトの最終日、僕は、彼女に思い切って告白した。

「僕は、まだ君のことが好きだ」

彼女は、少し驚いた様子だったが、すぐに、優しい笑顔で答えた。

「待ってた」

僕たちは、その夜、シンガポールの夜景を見下ろすレストランで、ロマンチックなディナーを楽しんだ。そして、僕たちは、晴れて、恋人同士になった。

その後、僕たちは、遠距離恋愛をしながら、互いの夢を追い続けた。そして、ついに、彼女がシンガポールに移住することを決意した。

僕たちは、シンガポールで結婚式を挙げ、幸せな家庭を築いた。そして今、僕は、シンガポールの高層マンションで、妻と子供たちと幸せに暮らしている。窓の外には、朝焼けの光が静かに広がり、街をオレンジ色に染め上げていた。

あの日、あのフライトでの偶然の出会いが、僕の人生を大きく変えた。

みたいなことは、残念ながら現実世界ではほぼ起こらないことを、僕はよく知っている。

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