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オリンピックすらストレスに

 僕が不定期的に陥る症状として、眼振がある。まず目の奥に独特の違和感が生じたあと、しばらくして視界がピクピクと揺れる。動画を撮っても揺れているようには見えないけれど、パソコンの画面が小刻みに揺れているのがわかる。どうやらストレスが原因らしい。
 今がそうだ。僕はパリオリンピックのトレンドを見て、オリンピックなれど外国人への侮蔑的な投稿が膨大になされ、演出を批判するポストが散乱し、それらに当たり前のように数千から数万のいいねが付いている。
 嫌な現実にぞっとした。

 2013年、母と兄の三人で深夜に放送された開催国発表の様子を見た。僕はあまり覚えていないけれど、母によれば三人で見たことは確からしい。しばらくして兄が再起不能になり、僕は平凡な小学校時代を過ごした。
 Wiiで出されたロンドンオリンピックのゲームの影響もあって、東京オリンピックはとても楽しみにしていた。当時は2020年がはるか遠い未来のように思えた。16年の男子リレー決勝、銀メダルを取った瞬間を中継で見たときは、次もメダルを取れたら最高だなと思った。文化が成熟を迎えたこの国で素晴らしい大会が開かれ、少しは国が上向くのではないかと期待していた。

 
 すべてなかった。
 名前も出したくない憎き疫病に奪われた。
 大幅に内容が変わってしまった開会式に、歓声のない試合。男子リレーはバトンミスに失敗(途中棄権という表記)し、無様に失敗。そして大会後には組織と企業の癒着が判明していた。
 加えて、2020年夏季に僕が陥った鬱状態も夏休みが2週間しかなく図書館も閉鎖されていたところに少なからず要因がある。23年の三回目の接種を境に逆流性食道炎/機能性ディプスペシアを患い、改善したものの治らない。

 世界をめちゃくちゃにしている疫病と、2021年のオリンピックと、安倍晋三の暗殺、2020年から2022年の3年間の出来事は、まるで起きてすらいないようにされている感がある。疫病など五類に位置付けて無かったことにしているだけだし、オリンピックは開催後3年だという声すら聞かないし、悲惨な家庭生まれの宗教被害者かつ陰キャ顔な中年男が、大宰相を撃ち殺したあれの公判は一体、いつから始まるんだ?

 2020年代の日本は、粋を集めた催事を足がかりにして、より国際色豊かな時代を迎えていくと思っていたのに。Xでは毎日のように政治的な殴り合いが起きている。SNSを使い始めた2019年から好んで見ていた政治的の話題も、2022年2月24日からはほとんど全てがストレス要因となってしまった。自身の立場を確立するため、盛んに見ていた時期は葬り去りたい黒歴史だ。右派とか左派とかの魔法は消え去り、興味を失いつつある。

 それ以降、X上の主要な政治的概念はほとんど全てミュートワードにぶち込んで、視界に入らないようにしているのに、いま眼振に晒されている。
 記事を書く前に、「フランス」「オリンピック」をミュートワードに追加した。これで彼らも「暇空茜」「オタク」「フェミニスト」「性的搾取」「AI絵」「イスラエル」「陰謀」らの仲間入りを果たした。入れる理由は主にそれ関連の発言を見るとストレスを生むからであり、本当に嫌いな単語もあるが、それ自体の活動を応援しているもの少数ある。


 最初に挙げた、数千から数万のいいねにぞっとする。のくだりは、よりにもよってオリンピックですらポジティブではない内容が圧倒的な話題を呼び、さらなる国自体や人間への嫌悪を連鎖的に生み出している現状を見て書いたものだ。
 ポジティブなニュースより、ネガティブなニュースが拡散されやすいうえに、人々が言及しやすいのはなぜだろう。僕は後者に付属する人々の心無い発言を見るたびに心を痛め続けている。
 ニュースでなくとも、外国が関連せずとも、同国かつ同民族の男女間ですら変わらない光景が繰り広げられ、足を引っ張り遭う光景にはどれだけの失望を覚えたか分からない。

 僕が目を背けたくなる話題に、年上の大人たちが熱狂している。〇〇人は差別主義者、○○が目指す平等とは伝統価値観の破壊、○○兵は全員戦争犯罪者だとか、一発でヒットする。

 長く人生を過ごしていくと、気持ちよくなるためなら、金のためなら、満足のためなら……平気でそんなことを言えるようになるんですか? 
 僕はそうなりたくない。
 主張を全くしないわけではなく、一定のバランス感覚と穏健さを維持し続けたい。身体の範囲からかけ離れ、エコーチェンバーによって過激化した概念ではなく、自分自身の内側に目を向け、そこを拠り所として生きていければいいなと思う。
 

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