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Parannoul 「Sky Hundred」

 ※本記事は先日開催された学祭の展示物の転載です

 パラヌール/パランノウルというミュージシャンが韓国にいる。彼は2001年生まれの青年で、今や韓国のインディー音楽シーンの代表的存在だ。
 ジャンルとしてはエモ・シューゲイザーを基軸としていて、21年発表の2nd album 「To See the Next Part of the Dream」が世界的に話題となり、23年に3rd「After the Magic」を出し、24年の夏にここで扱う「Sky Hundred」を突如としてリリースした。そのレビューを書いていく。

 本作は「綺麗かつエモーショナルな轟音」が50分にわたって展開される。例えば冒頭のA Lot Can Happen。前奏ではピアノの旋律とモーターが駆動するような電子音が混ざり、背後では爆発するようにドラムが鳴り響く。22秒で落ち着きをみせ、そのままボーカルの歌唱が入ってくる。曲が進むごとに盛り上がりが増していき、3分00秒付近から叫ぶような歌唱スタイルに変化が見られ、それと共鳴するようにピアノの旋律が感傷的なものへ移り変わっていく。特に3分後半からのサウンドが融合していく展開は圧巻。あまりにエモーショナルで、あまりに美しい爆音。初聴では涙を流すほど感動した。

 そう、Parannoul最大の魅力は轟音を響かせるギター/ドラムのバンドサウンドと、聴いていて綺麗で心地の良いサウンドの両立を実現していることだ。そこがエモーショナルに感じる理由に繋がってくる。この作品は、その点で満点と言えよう。シングル曲「Gold River」は爆音の中で同じ歌詞を繰り返し歌い、哀愁を誘引しつつラストには音割れしたメロディをドラムで締める「Paineless」ではギターによるフレーズの繰り返しを効果的に用い、あえて盛り下げる手法で比較的落ち着いたサビを浮き出させる。「Evoke me」は14分に及ぶ大曲であるが、これまでに培ってきたサウンドが詰め込まれており空きが来ない。「Backwords」は一定の旋律を元に同じメロディが繰り返す曲だが、それを全く感じさせない多様なアプローチで全体をクレシェンドさせている。最初からここまで盛り上がるのか……と驚嘆するほどに。

 ただ、海外のレビューを読むと本作のサウンドアプローチには賛否両論が分かれているように思う。特にドラムの粗さに関しての指摘が目立つ。周りのサウンドがとても美しいが、それを前面に押し出された喧噪なドラムが台無しにしているという意見だ。
 確かにドラムの音作り(Parannoulは全作品をDTMの打ち込みで作っているとか)は2ndあたりからさほど進化していないと言える。ただ、先に主張した通り、Parannoulの美学の根幹にあたるものは”粗い”とも評せる「轟音」なのだ。それについて、僕は何の文句もない。

 本作は以前の作品と比較すると、ボーカルの歌唱がより前面に押し出されているように思う。1st album 「Let's Walk on the Path of a Blue Cat」がインストゥルメンタルと表していいほどのアルバムであり、2ndでは盛んに台詞のサンプリングを用いていた点を考えると着実に前進している。
 ちょうど執筆日(24日)に、公式より受注生産でアナログ盤を出すとの登校があった。僕は喜んで予約するつもりだ。
 Parannoulにはこれからも素晴らしいアルバムを作り続けてほしい。彼は間違いなく、僕の青春に彩りをもたらしてくれた存在だ。

 Note公開にあたっての追記
 アナログ盤はディスクユニオンで予約可能だそう。私は友人の韓国人留学生に予約と輸送を代行してもらった。TSTNPOTDを見ればわかる通り、フィジカルが手に入るチャンスは少ないと考えられる。欲しい方はお早めに。

 

 
 
 
 
 


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