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432. 人はどうやって自分が「女性」だとか「男性」だとわかるんですか?一般的には女性器や男性器の有無で判断すると思いますが、トランスジェンダーの人、とくにトランス女性は生まれてから一度も女性器を持ったこともないし、生理や生理痛も経験していないし、「女性であったこと」がないにもかかわらず、「自分は女性だ」と認識しているんですよね?なぜそんなことが可能なのでしょうか?
【note】今回の質問と似たような疑問がX(旧ツイッター)でポストされていて私も目にする機会があったので取り上げてみました。
難しい質問ですね。このテーマで論文が一本書けそうです。
私自身はトランスジェンダーではないので私個人の経験を語ることはできませんが、私なりに考えました。
この方の疑問の出発点は以下の点にあります:
1.人の性自認はその人の体の性に基づくものです。つまり、男性器のある人は自身を男性と認識します。女性器のある人は自身を女性だと認識します。
みなさんはこの考え方に何の疑問の余地もないように思われるでしょうか。では次の点はどうでしょう?
2.女性は女性器があり、ある一定の年齢になると生理が始まります。生理痛で苦しい思いをする人もいます。女性器があるから妊娠することができ、また出産もできます。女性はこれらの経験があるから自分自身を女性だと認識するのです。
女性のみなさん、いかがでしょうか。2については「その通りだ」「間違いない」と思われますか?
人が自身の性を認識するのは「体の構造」や「その構造がもたらす経験」のみに基づくのでしょうか?
わたしは1と2の考え方は自分の性を自認する時に参考にする材料となるかもしれませんが、それがすべてではないと思います。
この例えが適切かどうかわかりませんが、アイデンティティについて2つ、お話します。1つはみなさん(読んでくださっている方)のアイデンティティについて、もう1つは私自身の体験談です。
この記事を読んでくださっている方はおそらく日本人の方が多いだろうと思いますが、みなさんは自分が「日本人だ」と日々意識していらっしゃいますか?
もし、あまり意識したことがないというのでしたら、外国から来た方に「あなたは日本人ですか?」と尋ねられて「はい、日本人です」と答えたとしましょう。
さらに畳みかけるように「日本人である証拠はありますか?」と尋ねられたらどう答えるでしょう?
日本人の父母がいるから?
日本語を話しているから?
生まれてからずっと日本で育ってきているから?
IDを見せましょうか。
運転免許証はどうでしょう?そこにはあなたが日本人であると書いてありますか?(ありません。持っている方はご確認ください)
運転免許証もパスポートも持っていない人はどうやって証明しますか?これが1つ、みなさんに「アイデンティティ」について意識していただきたいことです。
もう1つは私の体験談です。
私は沖縄で生まれ育ちました。英語が得意だったので大学では英語を専攻し、アメリカに留学しました。
自分のこれまで育ってきた社会的背景や文化的背景と異なるところに身を置くと、「自分が何者なのか」ということを自然と意識せざるを得なくなります。
先にみなさんに問いかけた「日本人であるというアイデンティティ」をわたしはアメリカという地で強く意識することになります。
これは私の体が「日本人特有の体つき」になっているからでしょうか?
髪の毛が黒い。身長はアメリカ人の平均よりは低いでしょう。鼻は高くありません。目は切れ長ともちょっと違います。
身体的特徴は全く変わらないにもかかわらず、自分がどこにいるのか、周りはどういう状況なのかということに影響されて、自分の中の「日本人であるというアイデンティティ」を私は強く意識するようになりました。
では、この「日本人であるというアイデンティティ」を科学的に証明しろと言われたらどうしましょう?
私は途方に暮れてしまうでしょう。
パスポートを見せても、「それは『科学的な証明』にはならない」と言われそうです。ただたんに「日本が発行したパスポートを持っているだけ」であって、それが偽のパスポートかもしれない。相手がそう思っていたら・・・?
身体的特徴も話す言葉も、育ってきたこれまでの過去の経験も、身分証明書その他のさまざまなことが「自分が自分であることを証明できない」となったら、みなさんはどうなさいますか?
ここで私が言いたいのは、アイデンティティというのはその人の内面に基づいたものであって、物理的な特徴(先にあげた身体特徴)だけでなく、心理的、社会的な要因にも大きく影響されるということです。
話をジェンダーアイデンティティに戻しましょう。
一定の身体的特徴(女性器を持っている)ということだけがその人のアイデンティティを決めるわけではない、と私は考えます。
また、どのような経験をしてきたのか(生理があって、生理痛もある)ということだけでもその人のアイデンティティは決まりません。(生理が始まる前の少女、閉経後の女性のことも考えてみてください。またなんらかの理由で生理を経験していない女性もいます)
つまり、性自認は、「~という身体的特徴を持っているから」とか「・・・という経験をしているから」という理由のみによって決まるものではなく、個人の深い内面的な認識と感覚に根ざしています。
トランス女性に女性だと認識しているなら科学的に証明しろというのは、科学者でない当事者にとって無理な話で、その証明ができないから「トランス女性は男であって女ではない」とは言えません。
私自身トランスジェンダーではないので、当事者の内面の感覚はわからないのですが、もしかしたらそれは私がアメリカで感じたような感覚に似たところがあるのかもしれないと思います。
つまり、自分では普段あまり意識していないけれども、トランスジェンダーの当事者は(日本人が外国に行ったときに感じるような)「自分は男だ/女だ(Xジェンダーの場合はどちらでもある、どちらでもないなど)」と意識する。それが男女で区別される場面ではとくに強く感じられる。
しかし、考えてみれば現在の日本はさまざまなところで「男女」の区別がなされているところが多いわけです。トイレも更衣室も、学校ではグループ活動の際に男女別に分けられる、男の子は「~くん」女の子は「~さん」と呼ばれる、それこそ数え上げたらきりがないほどです。
一般の日本人は「常に日本人であることを意識していない」でしょう。これはシスジェンダー(自分の性自認と生物学的性が一致している状態)と似ているようです。
一方、外国に行って異文化・異なる社会の中にいると「常に日本人であることを意識せざるを得ない」となります。これがトランスジェンダーの方の感覚に近いのかなと考えます(当事者の方、ご意見をお願いいたします)
最後に一言付け加えておきます。
生まれた時に「男性」という性を与えられている人が、それについて疑問を持つ、違和感を感じるというのは人それぞれ程度の差があります。
ですから、生まれた時に「男性」という性を与えられているAさんに、他人が「男性という性に違和感を感じているなら、あなたは女性ですよ」ということは言えません。
「男性じゃなければ女性だ」というふうに感じる方もいますし、そうでない方もいらっしゃいます。
まとめ
性自認(ジェンダーアイデンティティ)は生物学的な体の構造やそれに基づく経験だけで決められるものではありません。
補足:このような記事を書くと、「じゃああなたは男性器のあるトランス女性が女性スペースを利用することに賛成なんですね。女性の敵ですね。女性の人権を蔑ろにしていますね」とおっしゃる方がいます。
落ち着いてください。私はここでジェンダーアイデンティティの話をしているのです。女性スペースの話をしているのではありません。
どのように人が自分の性を認識するのかということと、女性スペースの利用(そして女性の人権の尊重)とは別の話です。
私は女性の人権が蔑ろにされていいなどとは言っていません(書いていません)。
女性スペースについては395の記事で書きました:
こちらの記事もよろしければご覧ください:
画像:AI生成画像(IDENTITYの綴りが間違っています)