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359.「理解増進だけでは、今ある差別は解消されない」ならば、「今ある差別」を具体的に挙げる必要があります。「なんとなく差別されているに違いない」という、ふわっとしたイメージで法律ができてしまうのは、とても危険だと考えます。

あらためて「差別」の定義を見てみましょう。

今回は国連が採用している以下の定義を紹介します:

直接的または間接的に差別が禁止される事由に基づく区別、排除、制限または優遇、その他の差異ある処遇であって、他者との平等を基礎として、国際法において保障された権利を享有しまたは行使することを妨げまたは害する目的または効果を有するもの

国連人権高等弁務官事務所 『Born and Free』

では具体例を見てみましょう。

LGBT 法連合会は2019年にLGBTの困難の事例リスト第3版を発表しています。この中からいくつか紹介します:

8  学校の同級生に、セクシュアリティを含む個人情報をSNSでアウティングされた。その結果、学校で持ち物を壊される、けがを負わされる等のいじめに遭った。着替えも教室の外、給食も食べないなど、 強い孤立状態に陥った。

11  性的指向について、教員や同級生がおかしいものと話したり、「うちの学校にはいない」と言われ、何も言い返すことができなかった。

12  同性愛者であることを明らかにして学校生活を送っていたところ、一部の同級生によって学級会の議題にされ、クラス全員の前で「話し方がオカマっぽくて気色悪い」等の批判を受けた。教員からも「本人は治そうと頑張っているんだから応援しよう」という逆に人格を否定するフォローを入れられ、自尊感情を深く傷つけられた。

14  同級生から性的指向や性自認に関するいじめを受けていたところ、教員からも「お前が悪いと言われた。

25  学籍簿の性別や氏名が、戸籍や住民票にもとづいて記載されているため、別人と疑われたり、性同一性障害であることが周囲に知られ、同級生などから仲間はずれにされた。

28  女子として生活するために髪を伸ばしていたところ、学校の教員から坊主刈りにすることを強要され、学校で坊主刈りにされた。

46  卒業証明書・卒業見込み証明書や成績証明書に性別欄があるため、見た目の性別と違うとして、性同一性障害であることが就職活動先に知られ、採用面接で不快な質問をされ、不採用となった。

49 トランスジェンダーの学生が教職員を目指す際に、自認の性別で教育実習の受け入れがなされなかった。

60  親にカミングアウトしたところ、無理矢理ポルノビデオを見せられたり、性風俗のお店へ連れて行かれたりした。

66  性的指向や性自認について正確な知識を持っていない親にカミングアウトしたところ、暴力をふるわれるようになり、家庭が崩壊した。

70  親にカミングアウトしたところ、好きでもない相手と勝手に結婚話を進められ、結婚を強要された。

71  自分の性自認や性的指向について家族から理解が得られなかったため、家から追い出され、ホームレスとなった。

90  トランスジェンダーであることを伝えたら内定を取り消された。

99  内定は出すけれど、入社時に全社にカミングアウトをすることが採用の条件だと言われた。

117  「LGBTフレンドリー」であることを社外的にアピールしている企業を選んで就職したが、実際の現場は差別的言動が多く、非常に失望し、転職を考えた。

120  職場でレズビアンとカミングアウトしたら、「治してやる」「男を知れば変われる」などといってレイプされた。

258  高齢者が、性的指向・性自認を理由に家庭で虐待を受け、地域において支援を受けることができず、行き場を失って自死した。

全部で354の事例が報告されています。全てが「差別」とは言えないかも知れません。しかし性的マイノリティの人権が脅かされている実態がこれを見ればわかると思います。


参考資料

LGBT 法連合会 2019 「性的指向及び性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト

画像:UnsplashAnastasiia Chepinskaが撮影した写真