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【運動療法×機能解剖】股関節外転筋群と関節安定性の統合的理解~3つの筋における役割の違いと機能的特性~
リハビリにおいて、股関節外転筋群を強化することは多々あると思います。
特に注目しやすいのは中殿筋ではないでしょうか?
学生の頃の講義では、その大切さについて語られていたように思います。
その中殿筋ですが、何部構成になっているかご存知でしょうか?
また、その他の外転筋である小殿筋や大腿筋膜張筋が大腿骨頭に与える影響や、歩行中に与える骨盤や股関節への影響についてもご存知ですか?
私は理解が不足していました。
今回紹介する研究はその注目されやすい股関節外転筋に関する詳細な機能解剖学についてです。
今まで紹介した研究でも学びは多かったですが、
今回は特に学びが多かった印象です。
すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、改めて股関節外転筋について学んでみると新たな発見があるかもしれません。
タイトル
“The functional anatomy of tensor fasciae latae and gluteus medius and minimus”
日本語訳
「大腿筋膜張筋と中殿筋および小殿筋の機能解剖」
となります。
では要約です。
1.【研究目的】
本研究の目的は、股関節外転筋群(特に中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋)の機能解剖を詳細に解析し、従来の静的二次元モデルでは説明できないバイオメカニクス的な特性を明らかにすることである。
2.【対象と方法】
対象:
• 解剖学的解析: 11体の死体(6体の新鮮標本、5体の固定標本)
• 筋電図(EMG)解析: 10名の健常成人
方法:
解剖学的解析:
• 中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋の起始・停止、線維走行、神経支配を詳細に観察
筋電図解析:
• 歩行周期および股関節外転運動時の筋活動を記録
• 表面電極を使用し、4名の被験者では細線電極との比較を実施
3.【主な結果】
I. 中殿筋の構造と神経支配
• 中殿筋は 前部・中部・後部の3つの部分 で構成され、それぞれ異なる神経枝で支配される。
I-a. 筋線維の走行:
• 前部: ほぼ垂直方向に走行し、腸骨稜から大転子上部へ
• 中部: 垂直に近い走行
• 後部: 大腿骨頸部と平行な水平走行
II. 中殿筋・小殿筋の新たな機能モデル
• 中殿筋・小殿筋の主な機能は股関節安定化と骨盤回旋であり、外転は補助的な役割に過ぎない。
• 従来の二次元静的モデルでは、これらの筋が単純な外転筋とみなされていたが、実際には 動的に異なる役割を持つ ことが判明した。
III. 歩行周期における筋活動
EMG解析の結果:
• 後部: 立脚初期(踵接地~踏み込み期)で最も活性化し、股関節安定化に寄与。
• 中部: 立脚中期に活動し、体重支持に貢献。
• 前部: 立脚後期で最も活性化し、骨盤回旋を促進。
• 大腿筋膜張筋: 立脚期全般で強い活動を示し、股関節外転の主要筋として機能。
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立脚期(青色): 主に体重支持と骨盤安定化に寄与
遊脚期(オレンジ色): 骨盤回旋と股関節の適切な動きをサポート
4.【臨床的意義】
I. 股関節安定化:
• 後部中殿筋と小殿筋は股関節の安定性を維持する主役であり、単なる外転筋として捉えるのは不適切。
• 肩関節における棘上筋と三角筋の関係と類似し、後部中殿筋・小殿筋が大腿骨頭を寛骨臼に安定させる役割を果たす。
II. 歩行時の骨盤回旋:
• 前部中殿筋が骨盤を回旋させることで、効率的な歩行が可能となる。
III. 股関節外転運動:
• 純粋な股関節外転運動では大腿筋膜張筋の関与が大きく、中殿筋は主動作筋ではない。
• 股関節外転トレーニング時には、ターゲットとする筋を正しく評価する必要がある。
Ⅳ. それぞれの筋の役割
大腿筋膜張筋(TFL)は、歩行時に体重支持脚と非支持脚のバランスを取る主要な役割を担う。
中殿筋は3つの部分に分かれ、それぞれ異なる相(phasic function)で機能する。
a:歩行周期の初期段階で股関節を安定化する役割がある。
b:さらに、歩行における主要な決定因子である骨盤回旋を開始する重要な働きを持つ。
小殿筋は、歩行周期の中期および後期において、主要な股関節安定化筋として機能する。
5.【まとめ】
いかがでしたか?
個人的には、股関節の外転は臨床上非常に重要な役割をすると認識していましたが、ここまで詳細な機能解剖については理解不足であったので非常に学びになる内容でした。
まず、大腿筋膜張筋は代償的に過剰に活動しやすいと感じていたので、歩行における左右のバランスを取るために重要と認識でき、見方が変わりました。
また、骨盤が回旋しないで歩いているような方は、特に中殿筋が機能していない可能性があると評価できそうですね。
そして、中殿筋と小殿筋による骨頭の安定化とありましたが、ここに深層外旋6筋が加わるとより強固に安定性を高められるのではと感じています。
今回の内容では大殿筋については語られていなかったので、そことの比較があるとさらに細かな学びになったと考えられます。
今回の研究から、クラムシェル(エクササイズ)とのかかわりについて考察を試みたいと思います。
深掘りした考察記事のリンクを【参考文献】の下に張りますので、そちらの記事も良ければご覧ください。
以上で紹介を終わります。
6.【参考文献】
Gottschalk, F., Kourosh, S., & Leveau, B. (1989). The functional anatomy of tensor fasciae latae and gluteus medius and minimus. Journal of Anatomy, 166, 179-189.
また学びになる研究がありましたら紹介します。よろしくお願いします。
ークラムシェルとの関わりについての考察ー
クラムシェルに関してはこちら
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