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元指導員のリアル教習所#5 「○○を気にしない」
#3「曲がる」では、教習生が意識してしまいがちだけど、実は意識する必要がない要素があることを書きました。そもそも、ありとあらゆるところに気をつかう必要があるのならば、車の運転そのものが万人向けではないと言えそうですね。今回は#3で書ききれなかった「気にしない」要素、「車の向きを気にしない」「ハンドルの回転数を気にしない」「タイミングを気にしない」について語ります。
1.車の向きを気にしない
結論から言えば、曲がる時に車は行先に向きません。
背筋をピンと伸ばした上体をなるべく前傾させ、あごを上げてなるべく先の方まで車の先端を見ようとする姿勢。技能教習一発目でよく見られる、とてもいとおしい姿です。気持ちはすごくわかるっ!
車の運転だもの、車を見て誘導するものだと思いますよね。冷静に考えれば当たり前の話になってしまうのですが、車が車の向いている方向に進むのは直進している時だけです。曲がる時は曲がる方向に車の向きは向いていないが正解です。車はあくまでもタイヤの向いている方向に進むわけですから、車の車体は遅れて向いてくるような感じになるわけです。この錯覚を早い段階で教習生に理解してもらうことはとても重要と言えます。
教習では「どこを見て運転するか」という道路のとらえ方、注視点関係の要素がとても重要視されていると思います。確かに運転がなかなか上手くいいかない原因は、突き詰めていくとここにたどり着くことは大いにあると思います。さらには、教習が上手くいかないと「あの子は目線が近い」とかそれさえ理由にしておけば自分のせいではないと言わんばかりの指導員も沢山いました。
曲がる練習で「目線が近くて上手くいかない」という教習生は、運転席から感じられる車の向きを一生懸命進むべき方向へ向けようとしている場合がとても多いです。なので「車は曲がりたい方向へ向かない」=「車の向きを気にする必要はない」ということを理解してもらうことが重要なのです。
指導員の立場からすれば、最初にあげたような運転姿勢を確認したら、車の向きや車体の先端を気にしていると判断できるでしょう。ただ単に「背中を付けて」とか「あごをひいて」といった姿勢の修正で終わるようではもったいないです。視線の向け方、考え方までつなげたいです。
「んじゃ、どこ見るんですか!?」というカウンターが来ることも多いです。そう来てくれればこっちのもんって感じですよね。
2.ハンドルの回転数を気にしない
次は「ハンドルの回転数を気にしない」。
教習所では同じコースを何度も何度も繰り返し走行するため、それぞれのカーブでどの位ハンドルを回すかを覚えることでそれなりにいい感じに進むということはありえます。
なので教習生からは「ハンドルの回し具合がわからない」という質問が出たり、指導員は案内走行で「ハンドルの回し具合をよく見ておいて」という指導をしたり・・・はたしてこれが上達の近道なのでしょうか?
まずひとつ言えることは、一般ドライバーが道路を走行する際にハンドル量を気にすることはないということです。「よし、この交差点の左折は4分の3回転だなっ!まかせとけ!」とは考えないわけです。それが必要ならば、初めての場所に行く前に、一度ハンドル量の確認に行かなければいけないですね。
いかにも大事と思われがちな要素かもしれませんが、普通に運転するときに気にしていないのであれば、教習の段階であっても気にする必要はないと私は思います。どちらかと言えばこれを気にすることでの弊害の方が多いと思います。
・ハンドルを見てしまう。
・ハンドルの量、手の場所を優先してしまい、ズレの修正が効かない。
・得意な場所、不得意な場所ができてしまう。
などです。
ちなみに、ハンドル量を決めるということは、回し始めるタイミング、ハンドルをまわすスピード、車のスピードなどの要素も毎回ほぼ一定にしなければいけないということになりますよね。めちゃくちゃむずいじゃないですか!?
指導員がわざわざ難しくしてあげちゃダメです。楽してもらうために教えるんですよ。
技能教習の初期段階で、助手席からハンドルを取ってあげて曲がる感覚をつかんでもらうという方法があります。初乗車の時などは1時限ずっとこの状態の時もありますよね。私もこの指導法は行うことが多かったですが、ハンドルの量ではなく、あくまでもどんな感じで行きたい方向へ向かっていくかをつかんでもらう目的で行います。なので意識は100%行きたい方向へ向けてもらう事に注意していました。
3.タイミングを気にしない
最後に曲がるタイミング。
これについてもどーでもいいですよね。
重点的に教えるなんてもんじゃないと考えます。やっぱり普段の運転中も気にするような要素じゃないですし。
「曲がるタイミング=ハンドル操作を始めるタイミング」ということになると思うのですが、正解がないわけではないです。
「車の進行方向を決めるのは前輪、ということは道が曲がり始めたところから前輪の向きを変えてあげれば良い、道の曲がり初めに前輪がさしかかったところからハンドル操作を始める。」
おそらく車の仕組みを考えるとこういうことになるのではないでしょうか。問題は、教習でこれをどの程度重要視しなければいけないか、というお話です。
結論、だいたいで良いのではないでしょうか。
「やべっ、ちょっと遅れた」と思ったらその後、急いで回しましょう。
「あっ、ちょっと早かったかなぁ」と思えば、ちょっと止めて様子を見ましょう。
私はこれで良いと思います。
音ゲーでいえば、「PERFECT」である必要は全くなく、「GREAT」又は「GOOD」でもいい、まぁ「BAD」でなければいいかなってかんじです。
なので、まったく無視するわけではないですが、完璧に合わせるような意識や指導は必要ないと考えます。タイミングを気にしすぎると、右カーブだと運転席側の線の曲がり初めを探るようになり目線が下がる、左カーブだと直接見えないため不安になり、結果BADなタイミングになりやすい、などの傾向が出やすいかと思います。
4.指導員の仕事は、楽してもらうこと
「線」「車の向き」「ハンドル量」「タイミング」どれもこれもとても重要そうなポイントですが、特に教習の初期段階の曲がる練習においては気にしない方が案外自然に運転できるのではないかというポイントを紹介しました。
どれもこれも、全くどうでもいいわけではありません。センターラインのはみ出しは多くの事故の原因になっていますし、ピンポイントで操作しなければいけない場所や状況もあると思います。あくまでもシンプルな「曲がる」という練習では、削ぎ落してしまったほうが、教習生にとっては気持ちよく楽しく運転できるのではないかと思います。逆に、「線をよく見て!」「車の向きをよく見て!」「回しすぎだよ!」などの指摘をたくさん受けて気にするポイントが多くなってしまうと、最も大切な「進べきところへ進む」という事に意識が向かなくなってしまう方がとても多いと思います。正しく進めてさえいれば、ハンドル量もタイミングも結果的に合っていたといえるし、実際、車も正しく進んできたわけですよね。気にしなくとも自然に正しく出来るのです。
指導員の仕事は、運転を難しいものとして必死に練習してもらうことではありません。楽に自然に自由自在に運転できるようになってもらい、ルールや、安全性をしっかりと意識できるドライバーになってもらうことだと私は思います。