「進化思考」を読んで
だいぶ久しぶりの投稿になってしまったが、最近の読書メモについてアップデートしたい。
最近話題の「進化思考」を読了。
これまで様々な書籍で言語化されてきたクリエイティブな思考法について、新たな切り口から細かく解説をしてくれている。しかもその切り口が「生物の進化」なのだから、とても興味深い。
人類が生み出してきた「創造」を生物の進化、特に変異と適応という観点から解説しており、それぞれの切り口の事例や示唆が極めて深い。著者が単なるクリエイターとしてだけでなく、生物学や言語学など様々な分野で知見の深い人間だということが伝わってくる。良書である。
本の厚みから分かるが、著者がこれまでかけて積み上げてきた創造に関する知見を余すことなく凝縮したもであり、何度か読み返してさらに理解を深めたい。
以下、読書メモである。
序章
• 奇抜な、誰もみたことがないデザインをすることがクリエイティブではない。
• 周囲の環境や温度、使用する人間との「関係性」の中にクリエイティビティは存在する。
建築家とは、人とモノとの新たな関係性を生み出す人。専門領域など存在しないように振る舞っている。
第1章 進化と思考の構造
• IQと創造性は必ずしも合致しない。生まれながらに特別な知能を持った人だけが創造性を発揮すると決めつける必要はない。
• 天才をめぐるバカと秀才の議論は語られ続けてきたが、エジソンやテスラのように努力によって培った知識や実証を武器に、前例のない行動に踏み込む人たちは、秀才的狂人であり、秀才でありバカであるとも言える。
• 創造性には、「バカ=変異=HOW」と「秀才=適応=WHY」という二面性の思考がある。
• 社会が安定して状況の目的が変わらないなら、結晶性知能を備えた熟練者が活躍するが、世界が急速に変われば、変化に対応する新しい方法(HOW)を取り入れる柔軟な流動性知能が必要。
• 天使と悪魔の如く、脳内には変異的な右脳=狂人的な思考、と、適応的な左脳=秀才的な思考が別々の働きとして存在している。
• 生物の進化も、変化と適応を続けてきた結果である。毎回違う個が生まれる変異の仕組みと、無事に次世代に遺伝子を繋げられるかという適応の仕組みを長期間繰り返してきた。
• 創造という知的現象もまた、それがヒトという生物によって自然に起こっているのだから、何らかの自然現象であるはず。ならば進化論の構造を理解し、進化と創造の類似を探究することは、創造という現象を知る大きな手がかりになるだろう。人類は実際に道具の発明という擬似進化によって今この瞬間にも急激なスピードで進化し続けている。
• 進化思考 適応の思考:適応状況を理解する生物学的なリサーチ手法 変異の思考:偶発的なアイデアを大量に生み出す発想手法
• 進化思考で往復する変異と適応の思考を別の言葉に言い換えると、次のようにWHYとHOWの組み合わせとして表現することもできる。これらの思考を別々に行い、往復することが大事。
適応(WHY):なぜ、そうあるべきなのか
変異(HOW):どのように変化できるのか
例えば、よく調べれば発想は自ずと生まれる、というのは適応だけの思考に陥っている状態。お互いをロックしてしまい、思考停止に陥るのはだめ。ばかになる時間と、本質を見つめる時間、それぞれに集中すること。
第2章 変異
• 私たちは今身の回りにあるものを当然だと思い込んでいるが、その前提がある日いとも容易く変わる可能性があることに気がつかない。
• 当たり前の出来事を疑って、現在の常識に縛られずに変化の可能性を創造することは、思考の自由を得ることそのもの。
• エジソンが発明した電球に、もうフィラメントが使われていないのと一緒で、あらゆる常識的な慣習は、いつか覆るもの。
• 人類がこれまで作り出してきた道具の種類は、生物の種類をゆうに超える。ものを作る人はエラーをすることで創造を前進させるが、創造を洗練するのはユーザーや市場への適応。欠陥があるものは自然淘汰される。
• 人は誰でもプロセスを教えれば創造的な発想ができるが、多くの人は序盤で出たアイデアにこだわってしまい、発想を捨てるのを躊躇する。
• 言語こそが創造能力の根源だという仮説があり、人類だけが膨大な道具を発明できたのは、人類のみが言語を発明できたからではないか。言語というDNAの代役によって、人類は進化の真似ができるようになり、創造という知的現象が自然発生したのではないか。
• DNAのエラー、つまり変異が起こる数に比べて、言語におけるエラー(変異)発生回数は比べ物にならないほど多い。つまり、言語から創造につながる変異の発生数は進化より桁違いに多くなる。
• 言語におけるエラーは、変異であり、クリエイティブな発想の型となる。
①欠損 標準装備を減らしてみよう ②交換 違うものに入れ替えてみよう ③融合 意外なものと組み合わせよう ④擬態 欲しい状況を真似してみよう ⑤転移 新しい場所を探してみよう ⑥逆転 真逆の状況を考えてみよう ⑦変量 極端な量を想像してみよう ⑧増殖 常識よりも増やしてみよう ⑨分離 別々の要素に分けてみよう • 偶然の変異が先にあり、歴史上の発明や法則の多くが、偶然起こったエラーをきっかけに起こっている。
• 一方、人間は様々な常識に縛られており、意図的にエラーを起こすには慣れが必要。ものが一度ある名前で呼ばれてしまうと、そのイメージが固定化され、別の意味を考えるのが難しくなる。
変量
• 椅子の幅を横に伸ばせばベンチ、高くすればカウンターチェア、小さくすれば自転車のサドル、がひとつの例。
• 発想のやり方としては、「超〜なx」とにかく無数に妄想していく。
超大きく、超小さく、超薄く、超厚く、超高く、超長く、超軽く、超速く、超遅く、超柔らかく、など。
変量的な変異によって、超ハイスピードカメラや、超微細印刷による半導体などが生まれた。
擬態
• 学びは「まねび」を語源としていて、学ぶことは真似ることである。
• 鳥の鳴き声も親の真似をして習得するものであり、真似をさせることで行動を覚えさせている。
• 言語学でも、メタファーと呼ばれる、他のものに似せて説明することで理解を促す高度な会話が行われている。
• 生物進化においても、擬態は行われており、植物に擬態して身を隠す、強いものに擬態して天敵から身を守る、といった生物が存在する。
• 人間の道具の発明においても、鳥の真似をすることで生まれた飛行機がある。
• 近年でも、メールは擬似的な住所がe-mail addressであり、メールそのものが手紙の擬態。
• 世の中のあらゆる形態には理由が宿っている、別の形態から学び、その形を宿すことは、そこに秘められた理由そのものを獲得することにつながる。
• 擬態的な発想をするときは、視覚を最大限に生かすこと。例えば、電話を対象として考えるのであれば、視界の中に入るものを全て電話だと考えてみる。
• 似せる候補を連想したら、今度はその対象の適応関係に向き合う。猫型ロボットを考えるならば、猫についてしっかり観察すること。
欠失
• 言い忘れ、伝え忘れなど、私たちのエラーの中には欠失がつきもの。生物においても足のないトカゲとも言える蛇など、進化の中で欠失は起こる。
• 自動車も、馬車の中で馬だけを欠失させたもの、羽のない扇風機であるダイソン、発明でも欠失的現象は頻繁に登場する。
• ものを解剖すれば、不合理さは自ずと見えてくる、不合理を取り除く発想をすれば、必然的に欠失的な発想を生み出すことになる。 • 社会運動における、「非」暴力もまた欠失的な変異。
• 何かがなくてもいい、という状態の探究は、究極的にはデザインの思想や生き方の哲学にもつながる。なければいけないと思い込んでいるものを手放す発想。
• 欠失的な発想をするときは、あるものが当たり前だと思い込んでいるものやプロセスを、無くすことを想像してみよう。今当たり前の存在だと思っているものも、10年後にはないことが当然になっているかもしれない。
増殖
• ホイホイ、コロコロ、ボンボン、次々、続々など、言語には性質上、増殖するエラーが発生しやすい。
• 生物の進化でも、多数の胃を持つ牛、多数の足を持つムカデ、など、数は種によってバラバラ。
• 人間の世界でも、本をたくさん集めた図書館、小さい店舗を集めたショッピングモールなど、増殖的な創造によるものがある。
• 増殖のタイプ1は、特定の部位を増やすこと。キーボードやピアノ、レンガ。この創造の背景には、常に共通ルールの設定、すなわち規格化が関わる。
• タイプ2は、群れや巣を作る。コンテナやデータ集積センター。
• あらゆる増殖的な創造に共通するのは、要素に共通する一定のルール。ルールなしに増やしても、単なる寄せ集めになる。
• とにかく増やした状態を想像する癖をつけてみよう。内部のパーツも含めて、増やすと面白い部品はあるだろうか?それとも外部に広がる組織の仕組みや人数を増やしてみたらどうか。
今常識的な数だと思っている数字は、変わりうることを覚えておくこと。固定観念を壊して必要とあらば増やしてみる視点を持ち合わせておくと、そこから偶発的な発想が生まれてくるかもしれない。
転移
• 外来種は時に転移によって爆発的に繁殖することがある。生存戦略として、危険な場所から逃げる本能は、結果的に予想を遥かに超えた転移を繰り返してきた。
• 発想しやすくするために、「モノの転移」「人の転移」「場所の転移」の3パターンで考えて見ると良い。
• モノの転移。例としては、ブドウ圧搾器を改造して作られた活版印刷機。技術の水平転用は、半ば偶然によって発見されることも多く、ホッカイロがその例。
• 人の転移。人の居場所や役割を転移する変異パターン。バングラディシュのグラミン銀行では、貧困層への貸付をスタートするにあたり、五人組でお互いの連帯保証人になる(=真面目で信用のおける人物)仕組みで、本来はお金を借りることのできなかった人たちを転移させた。
限られた人達しか何かを行う権利がないと考えるのは、それまでの社会が生み出した幻想かもしれない。
• 場所の転移。地上を走る電車を地下に移動させた地下鉄が例。販売する市場を転移させる考え方もある。現在最も大きな場所の転移は、リアルからデジタルへのサービスの転移。
意図しようと姉妹と、この世に生まれた創造は、他の場所にも転移する。エラーを頻発しながらも、未踏領域は自然に開拓されていく。
• 転移の思考をするためには、以下の思考を取り入れること。 技術の転移:その技術は、別の領域に応用できないだろうか? ヒトの転移:関係者を変えたり配置を変えられないだろうか? 場所の転移:そこではない場所に、モノを移せないだろうか?
交換
• 言葉の変換ミスはよく言語の中でも生まれている。そもそも単語自体が、実物の代替として用いられているため、言い間違いや聞き間違いといったエラーは発生するもの。
• 創造における交換では、物理的な交換、意味的な交換、概念的な交換の3タイプがある。 • 物理的な交換。規格化されたソケットがあったからこそ、白熱電球からLEDへの交換が生まれたと言える。物理的な交換では、交換するもの同士の物性が揃っていることが条件。偶発的な発想力を高めるためにも、同じようなサイズのモノを入れ替える挑戦に慣れよう。
• 意味的な交換(WHY)。物理的に似ていないものでも、同じ意味や目的を果たせるものと交換することで、新たなイノベーションが起こることは多々ある。例えばエンジンからモーターへの交換は、構造は全く異なっていても、動力という目的が共通している。
• 概念的な交換(THAT)。ただ交換を成立させるためだけにある創造もある。例えば、保険を買って、将来の安心を買う、も概念的な交換。
• まずは交換したいものを解剖してみて、同じような性質のものと交換できないか創造してみる。
分離
• 文章が単語単語に分解できるように、あらゆるものも内部を階層的に分離できる。
• 進化の中で臓器が役割に応じて分離していったように、生物のあらゆる部分が分離している。
• 創造においても、すでに混ざっているものから、ある成分を分離できると価値になる。原油から石油を精製するのも、分離の考え方。
• 分離のパターンは、本当にそれ以上分けられないのか、という疑問を生み出し、常に新しい発見を考えること。
もっと微細にその現象に向き合えば、今まで一体だと考えていたものでも、初めて分離できる手段が見つかるかもしれない。
• 分離思考のためには、徹底的に解剖して中を見てみること。
逆転
• ハゲは、髪の毛が後退しているのではない、私が前進している。言葉には、反対語を対として考える仕組みが、すでにその性質に備わっている。曖昧さの排除は、時に偏った視点を生みやすく、人種差別や無理解による紛争などの分断にもつながってきた。
• 生物の進化においても、コウモリのように逆転で生きてきた生物がいる。
• 創造は、常識の逆を想像することから始まる。物理的な逆転、意味的な逆転、関係的な逆転、の3パターンで思考する。
• 物理的な逆転。エレベーターやエスカレーターは、人間ではなく、建築側を動かすという、建物内の移動を物理的に逆転させたもの。
• 意味的な逆転。反対の意味から新しい発想を生むため、すでに世の中に広まっている概念を逆転させてみると、発想のコントラストが際立つ。
黒板を逆転させたのが、ホワイトボード。読めない文字として生まれたのが暗号。
• 関係的な逆転。アインシュタインは、どうしても計算が合わない数式のちょっとした矛盾から、空間と時間が絶対的だという固定観念を打ち破り、光の速さこそが絶対で、空間や時間は相対的だと考えた。
• 私たちが思い込んでいるものは絶対的だろうか、ひょっとしたら逆に考えられるかもしれない。
• 逆転思考のためには、当然だと思っているものを疑い、真逆のものを連想してみる。○○ではないX、逆Xなど。
融合
• インターネット+オークション、のように、言語にはあらゆる足し算的な性質が備わっている。
• 私たちの体の中にいるミトコンドリアも、全く別のDNAを持つ生き物だが、体に融合している。
• 創造においても、カレー+うどん、カメラ+携帯電話など、これまで多くのものが融合によって創造されてきた。
• 融合への挑戦は、シュンペーターによって新結合と呼ばれ、イノベーションと言い換えられた。
• ただし、何でも融合させればイノベーションになるわけではなく、融合させた後の形態が美しくなければならない。ランダムに融合を試し続け、美しい融和を目指して新しい可能性を探すこと。
• 変異的な思考に共通するコツは、変異の数を生み、偶発性を高めること、そして、先鋭的に突き抜けること。エラーを何度も起こす性質を手に入れること。
• 馬鹿になろう、エラーは多いほどよく、アイデアの質を問わず、変化を楽しむこと。
第3章 適応
• 「失敗したわけではない。それを誤りだと言ってはいけない。勉強したのだと言いたまえ」(エジソン)
• 人は発想が否定されることを本能的に避けようとする。自分の出した発想が他の人に否定されると、まるで自分自身が否定されたかのような錯覚を覚え、心に痛みを感じる。誰かに否定されるくらいなら、1人でやったほうがいい。そんな風に、忌避本能が自分を守ってしまう。
• 失敗するくらいならやらないほうがまし。こうした自己防衛本能による変化の回避や、関係性の無視は、実は創造性を阻害する大きな要因になる。
• 私たちは経験を積み重ねる中で、徐々に固定観念を積み重ねていく。人は自分の物差しでしか物事を測ろうとしない。
• 時空観学習の観点は、創造性の鍛錬だけでなく、状況を正しく捉えるメタ認知力の育成にも役立つ。
ミクロ・マクロの観点では、①解剖(内部。中身を分けて理由を観察する)、②生態(外部。モノや人の繋がりを理解する)
未来・過去の観点では、①予測(未来。未来の課題を知り希望を描く)、②系統(過去。物事の古くからの文脈を知る)
• 時空観マップを作成することで、それぞれの繋がりが見えてくる。
進化させたい対象Xを図の中心に書く。(例:就職活動・採用活動)
解剖・生態、予測・系統それぞれから連想されるモノを描いていく。
適応の観点1 解剖
• 医療や生物学における解剖だけでなく、産業でも解剖の手法は取られている。他社の製品を解剖してその機能や構成を学ぶ、いわゆるリバースエンジニアリングは、R&Dの手法である。
• 難しい問題に出会った時は、その問題を階段だと思って一段一段に分解して、一段ずつ登るべし。
• 解剖には以下3つの考え方がある。
①形態学的な解剖:内部にあるものを分類して形態を観察する(WHAT)
②生理学的な解剖:各部位が何のためにあるのかを理解する(WHY)
③発生学的な解剖:要素がどのように発生するのかを理解する(HOW)
• 形態学的な解剖では、入れ子的な構造を理解しておくと全体をイメージしやすい。全てに共通して、分類のための階層が自ずと生まれてくる。(椅子→背・座・足など)
• 生理学的な解剖では、モノの仕組みの本質は、見えない裏側に隠れているという意識が重要。要素を解体し、つながりへの関係性を1つ1つ顕在化していくと、進化の手がかりが生まれる。
領域として停滞し、うまくいかなくなった想像は、大きな目的とのつながりが乏しくなっていることが多い。
上位の理由に向かって何度も自問自答を重ねていくと、モノに秘められた関係性、すなわち適応の方向性を理解する力がついてくる。
• 発生学的な解剖では、素材ごとの生産プロセスに精通すること。生産プロセスを知っていれば、実際に作れるだけでなく、その製造プロセス自体の改善を構想できるかもしれない。
そのためには、実際の生産の現場を見ることが一番大切。
• 生物の構成は現在の人工物よりも、はるかに効率的かつ美しくできている。無駄を極限まで減らそうとする最適化の統合現象は、生物の部位の単位を超えて細胞や分子レベルでも起きている。歴史的なデザイナーの多くが、最適化、いかに減らすかを探究してきた。
• モノの内部に秘められた姿を観察してよく知ること、そしてモノの本来の意味を考えること、そのモノの育み方を知ること、これはつまるところ、モノに対する愛情の話。
適応の観点2 系統
• 全ての創造は未完成で、進化のように変化し続ける。かつて生まれた道具が超えてきたように、制約を超えるための新しい方法は、どんな時代にも生まれ続けている。世界に完璧な生物がいないように、世の中には完璧な道具もまた存在しない。
• ライト兄弟の飛行機は、リリエンターるのグライダーがなければ実現せず、グライダーも鳥がいなければ実現しなかった。
• オリジナルな発想とは、過去からの流れを、異なる状況への適応に見事に繋いだ変異的な創造性を指すことが多い。
①分類学
• 分類学の思考は、解剖における形態学の思考とよく似ており、考察の対象が内部か外部かという観点が違うだけ。一見無駄に見えても、コレクションには確かに創造性に役立つ側面がある。
私たちの認知の仕組みには、微差を繰り返し比較することで、微差を大差として認識できるようになる性質がある。
②系統学
• 本気のコレクターは、それぞれの種類の誕生には歴史的背景が密接につながっていることを知っている。生物も1つの生物の起源から始まり、自然選択による適応と変異を繰り返して分化していった。
• かつて生物は神が完璧な形として作ったものと考えられていたが、絶滅した生物の化石が発見されると、その完璧であるはずの生物が絶滅してしまったことに疑問が生まれるようになった。これが進化論の起源となる。
• もし進化が自然発生しているのなら、デザインやアートなどの創造性もまた、自然発生する現象と考えられるのではないか。進化思考の挑戦は、創造が自然発生するプロセスを解き明かし、多くの人に創造性を伝えられる教育を生み出すことだ。
• キッチンのコンロは焚き火による調理から始まったものと推測できる。あらゆる創造は、共通の目的を持つ原始的な創造を起源として世の中に出現する。
• また、イノベーションの性質において、新技術が産業全体に大きな影響を与えることもある。例えば、蒸気機関が発明されると、船や馬車などあらゆる既存のテクノロジーと融合して置き換わる現象が起こる。
• 新しいモノを作るには、前例への敬意だけでなく、その前例を疑うことも、大切な姿勢である。
• 生物進化と創造における進化の違いは、創造の進化においては、分岐だけではなく分岐の先端が再び結びついたような接続が行われること。
• 生物進化の過程においては、DNAの作用によって過去の失敗が自動的に次世代に引き継がれにくくなっている。変わるものと変わらないもののバランスが取られている、ということ。
これは会社経営にもあり、老舗企業には伝統と革新のバランスが保たれている。
• 人間の欲求にも系統樹があり、分化するたびに生物は新しい欲求を獲得してきた。お腹がすく→モテたい→見え方を気にする→硬いものを食べたい→子を大切に育てたい。
(思ったのは、人間の働き方に関する考え方も進化してきたのでは?昔は、生きる手段として働いていたものの、今や自分らしく、という軸が生まれている)
• 創造における系統樹においても、本質的な創造の目的(WHY)は大きく変わらず、その手段(HOW)として変異が起こっている。(モノを運ぶ目的のために、馬車がトラックに変わる、といった形)
適応の観点3 生態
• 外部つながる関係を観よう。広大なつながりの物語を探究し、繋がりこそが創造性にとって本質的な知恵だと知ろう。
• 狭くは人間関係から、広くは地球環境まで、私たちは繋がりに頼って生きている。そしてそのつながりは複雑で、全体の把握がとても難しい。
• 全体像を把握するためには、5W 1Hのメソッドが大切。見えていなかった繋がりの中にこそ、新たな創造の種が眠っていることに気がつくはず。
①登場人物に想いを馳せる WHO
• 繋がりの物語を読み解く上で大切なのは、いつもは登場しない人物を考えること。
• 自分たちがたよっている相手が誰なのかを徹底的に突き止めていくと、相手への感謝が生まれる。その相手は人だけではなく、エネルギーや資源の根本まで思いをはせること。そのためには自然を擬人化して考えることが大切。
②必要不可欠なモノとの繋がり WHAT
• 1着の服ですら、綿花やミシン、物流のための燃料・船・トラック、販売のためのショッピングモールがなければ手に入らないように、今ある創造がどんなモノ(WHAT)に支えられている。
• 日本では古くから生物・無生物問わずあらゆるものに神様が宿っていると考えられてきた。モノを生物のように同一視して捉える思想は、ゆがみなく生態系を見渡すための自然な観点である。
③状況の想像力 WHEN・WHERE
• WHOやWHATが繋がると、時間的かつ空間的な状況が自然発生する。(衣服であれば、物流の際には箱に入れられ、それがトラックに積まれている、といったWHENとWHEREが連想される)
• モノを取り巻く状況を空想してみよう。その場所に足を運んだりして空気を肌で感じてみよう。
• 相手に何かを理解させたいなら、かつて自分が何かを楽しく理解した状況を思い出すのも良いだろう。
• 適応のしなりををイメージ通りに描くためには、場所的・時間的な状況を想像する解像度が求められる。
④それぞれの意思と存在意義 WHY
• モノの売買のような単純な関係の中にも、高く売りたいお店・安く買いたい顧客などなど様々な立場の多様な心象風景が渦巻いている。
• こうした意図のベクトルが生み出す流れをとらえると、ミクロなつながりの理解からマクロな社会動態が推測できる。その流れは、創造性を加速させる追い風となる。
• 生物の生存競争には、寄生や捕食といった種間競争と、餌の取り合いや性競争といった種内競争の2種がある。これらの競争の観察は創造性に役立つ。
人間社会の競争もこれらに似ており、同一職種間の競争は明確だが、種間競争は見えにくい。
• オス同士が争うような性競争と市場競争は似ている。例えば自動車の販売競争など、競争相手が誰かと聞かれたときに真っ先に意識するのが、同一領域の競合相手。
• 同じ業種内での競争は往々にして独自の評価軸を生み出し、同じ時計であっても100円から数千万円のものが生まれるのがそれ。こうした競争に勝つためのヒントは、その競争の評価軸を理解すること。その軸の中でわずかでも良いから凌駕すればよい。
また、逆に競争が激しすぎて、不条理なまでに行き過ぎていないか考える必要がある。行き過ぎはマイナスに結び付いていないか。
• 自然界の種間競争(ライオンvsハイエナ)における資源の奪い合いの多くは、互いがあまり意識しない中で競争していることが多い。(「最近、餌が少なくなったな」という感覚)
• ビジネスにおいても、異なる領域で資源をめぐる戦いは起こっている。(例:余暇を満たすためのテレビとゲームの戦いなど)
ところが、実際の競争では、専門領域が異なると互いの存在を意識しないことが多い。
• 逆に言えば、競争の評価軸を「書き換える(ハックする)」新しいコンセプトが他の領域にあることは少なくない。生態系マップを使えば、意外な競争相手が浮かび上がるかもしれない。
• 赤の女王仮説のように、競争相手がいることで常に進化し続けなければならない、ということが自然界でもビジネスでも起こっている。(iPhoneの進化はAndroidというライバルなしではあり得なかった)
新しい創造を生み出したとき、それが他の競争相手に淘汰されないためには、他のライバルよりも早く進化することの重要性を頭の片隅に置いておきたい。
• 電話の交換手がいなくなったように、変化する状況下では、強いモノではなく、変化しやすいものこそが生き残りやすい。
• ニッチという言葉はもともと生態学で使われる言葉で、他の種と争わなくて済む生態的地位を求めることで、生き残ってきた生物もいる。例えばコアラは他の動物が食べない、猛毒のあるユーカリを食べるが、コアラ自身はその猛毒を消化しきれてはおらず、常に身体は痺れ、 1日22時間も寝る。
• カクレクマノミとイソギンチャクのように互いに共生する関係が自然界には存在する。人間社会も同様の共生関係によって成り立っているものの、本当の意味で共生関係を強固にするためには、役割の違いを深く理解する必要がある。(例:エンジニアとマーケティング担当などのぶつかり合いは脆弱な例)
• それぞれの生物種によって、観ている世界は異なる。犬は嗅覚で世界を見ており、色彩はほぼモノクロの世界。人間同士でもそれは同じで、自分のたった1つの世界から見て、相手が間違っていると断じるのは、世界を正しく見ているとは言えない。
• スモールワールド実験によって、見ず知らずの人間同士を繋ぐ人数がたった六人ほどだとわかってきた。世間は我々が思ったより狭く、私たちは自分の生きている世界を変えることを諦めなくても良いかもしれない。
• 人間関係を図示してみると、生態系のつながりのように見える。これは、自然の生態系・インターネット・脳の構造にも共通する複雑ネットワークと同じ形である。規則性とランダム性があることで、スモールワールド現象は起こる。
• 数学的にもこれは証明されており、規則的なネットワークの中で偶然5000人の中の二人がつながるためには平均50人を経る必要がある。一方で、うち50人だけがランダムなネットワークを持っている前提にすると、つながるための必要人数はわずか7人になる。
つまり、世界を狭くしているのは、規則的な繋がりから逸脱した越境者の存在。
• こうしたネットワークの性質により、知り合いが多い人ほどもっと知り合いが増え、豊かになる。時を追うごとに豊かさは不均衡になる傾向がある。
なお、こうしたネットワークを広げるために、インターネットの世界ではFacebookのようなハブが生まれた。古くは宗教における教会がハブの役目を果たしていた。
• 例えば、最初から越境性の高いメンバーによるコミュニティを作り、深い信頼関係が得られるコミュニケーションプロセスを作り、ハブを作るとどうなるか?
ハブに越境者が集まり、信頼を持ってつながると、創造性は加速する!
適応の観点4 予測
• 過去の出来事から現在までの推移を見て未来を予想する方法をForecastと呼ぶ(例:天気予報)。
• 未来のイメージをありありと思い浮かべて、目標を現在に近づけていく未来予測をBackcastと呼ぶ。基本的には未来のことしか考えず、未来の目標に対して現在の行動を決定する。
• Forecastでは、データから予測する。実際に影響度が大きく、新しい切り口の尺度を発見できると、世の中の人が知らない事実に、世界の誰よりも早くたどり着く確率がグッと高まる。
• まだ世界の誰も知らない因果関係を発見するのが、リサーチをする人の醍醐味。新しい因果関係は、誰も予測できなかった未来を予測できる可能性を秘める。
例えば、ムーアの法則は、印刷技術の進化とCPUの進化の因果関係をもとに提唱されたもの。
• すでに知っている領域であっても、事実関係のデータを確認する必要はある。データによって、主観的な思い込みを排除することにつながるから。
因果関係に目をむけずに思い込んでいると、冷静な確率的判断を妨げ、過信を生み出してしまう。
• Backcastは、目標から逆算する思考。未来に目標を定め、それを可視化・精緻化して現実に近づける技術。
• イノベーションのためにデザインが必要だと世界中で語られる背景には、デザインの持つ未来を可視化する力がある。可視化には、未来を手元に引き寄せる力がある。
例えば、ダヴィンチは多くのスケッチを残しており、それらは膨大な発明のアイデアばかりだった。類稀なる正確なスケッチを駆使して、時代の権力者から、言葉を超えたコミュニケーションの可視化の力によって行えるようになった。
• カンブリア紀に、生物が爆発的に進化したと言われているが、その要因に関する仮説の1つが目の誕生。目の誕生によって、可視化、つまり広い創造性へのアプローチが可能になったということである。
• VISIONという視覚を表す言葉に、未来への創造力が含まれていることも興味深い。空想の中で未来を観る力。AIにおいても、先端的なディープラーニングにおいては、論理性を司るCPUよりも、映像的思考を司るGPUでの処理を多用している。
• まずは、行きたい未来にピンを立てること。そしてその目標を解剖したり、その周囲の生態を想像したり、その道筋の系統を調べることで、夢に至るまでの現実のプロセスを精緻化すること。
• 残念ながら、現代の創造の多くが、その目的を市場経済で勝つための仕組みとして矮小化している。そのため、生産プロセスでの越境的な負荷については目もくれず、廃棄された後の生態系への影響は見て見ぬふりをし、目先の売り上げを重視して未来には目を瞑る。こうした創造の蓄積は、結果として社会に大きな歪みを生み出すことになる。
第4章 コンセプト
• 「どうできるか(HOW)」を試し続ける偶発的な変異と、「なぜなのか(WHY)」に基づいて選択し続ける適応を往復する進化ループが何度も回れば、自然にそれらが一致する圧力が発生し、コンセプトと形態が自然発生する。
• 英語のConceptionという単語は、コンセプトという意味と、受精という意味を持つ。変異と適応による進化思考の構造には、実際に生物の受精のプロセスに酷似している。
• 一見、有性生殖は不合理な仕組みに見えるが、無性生殖では変異があまり発生せず、たまたま発生しても適応する確率は極めて低い。そのため、エラーを生み出す量を増やすための有性生殖が生まれたと考えられる。
• なぜそうあるべきか(WH Y)思考を求める適応の思考は周囲や過去への愛情、どのように変化できるか(HOW)思考を求める変異の思考は、やってみようという超先進、父性的な野心を感じる。
交配的思考による創造のプロセス
• 学校の学び(x)が楽しくないことが課題なら、逆に遊び(y)にヒントがある。
アイデアを交配させようとすれば、xにはないが、yやzが持つ望ましい形を選択的に得られる。
• Yを特定した後は、適応について時空間学習(解剖・系統・生態・予測)で考察すると突破口が得られることがある。
解剖:遊びはどんな要素の集合か?
系統:遊びの歴史を系統樹で描くと?
生態:遊びの周囲の人や道具は、どんな繋がりか?
予測:遊びの未来を予測すると、その不安や希望はどのようなものか?
• 創造性を閉ざす教育とは、最初から「遊んじゃダメ(変異の否定)」であり「絵では食えないよ(適応の放棄)」である。これは革新を生まない組織構造と一致する。