「確率思考の戦略論」を読んで
今後、自分が担当する仕事にマーケティング思考が必要だと感じたため、入門書の位置付けで読んでみた一冊。実績に裏打ちされたメソッドがふんだんに盛り込まれ、「数字でビジネスの事象を解き明かす」という、今まで私自身の頭になかった考え方を学ぶことができた一冊。
正直、数学的バックグラウンドのない私にとって、具体的な数字による解説は一回目では理解しきれないところも多かったが、まずはこちらをベースにスキル・専門性を磨くことが必要なのではと感じた。
来月から採用担当を拝命することになるが、市場や顧客のプレファレンスの分析、そこからどのようにプレファレンスを向上させるか、ここらへんを数字で把握しながら、マーケティング×人事という領域を極めていきたいと思う。
そのためにもこの本は都度都度再読必須だと感じられた。
以下、読書メモである。
序章 ビジネスの神様はシンプルな顔をしている
第1章 市場構造の本質
1 客引きの兄ちゃんはみんな同じ顔をしている!
• 心がけることは、「目に見えているものに惑わされず本質を洞察すること」。目に見えている現象をつくりあげている物事の本質的な原因を探すこと。
• そのためには、なぜ?なぜ?と現象から下人を掘り起こし、問題の本質をみきわめること。
• 客引きも銀行員もトラックドライバーも、国は違えど皆が同じような顔つき、服装、雰囲気であり、それぞれの職業に就く人の属性に、国境を越えて共通している何かがあるのでは?
• 資本主義の世界を形作っている本質は、「人間の欲望」なのではないか。
2 市場構造を理解する意味
• 市場構造を理解することによって、成功確率の高い企業戦略を選ぶことができる。
• 全弾命中でV字回復する秘訣は、単純で、市場構造を精緻に理解することに、情熱を燃やし、「勝てる戦いを見つけること」と「市場構造を利用する方法を考えること」に思考を集中すること。
3 市場構造とは何か?
• 市場構造とは簡単に言えば、「その市場における全体としての人々のやり方」と言える。
• 市場構造の震源ともいえる本質は、「プレファレンス」。プレファレンスとは、消費者のブランドに対する相対的な好意度(簡単に言えば好み)。主にブランドエクイティー、価格、製品パフォーマンスの3つによって決定されている。
4 市場構造の本質はすべて同じ
• 市場にはさまざまなカテゴリー(車、消費財、エンターテイメント等)があるが、「消費者のプレファレンスによって決定される購買行動の仕組み」はどのカテゴリーにおいても同じ。
• 「付き合って間もなく結婚した若い連中は離婚する確率が高い」という仮説⇒離婚のニュースを見て「やっぱり」と思うのも仮説の証明。それを数式で表現する。
• パンケーキを食べる回数、歯磨き粉の購入回数、本の貸し出し回数は独立した行為。これらはそれぞれのカテゴリーに対する消費者のプレファレンス自体の違い(消費頻度や購入回数などの見た目の違い)はあるが、プレファレンスに基づいてそれぞれのカテゴリーの構造が形成されるという全く同じ規則に従っている。
<4つの法則>
・消費者一人ひとりが独自に購買決定をしている
・購入行動はランダムに発生している
・それぞれのカテゴリーに対してほぼ一定のプレファレンスを持っている
・プレファレンスの高いものはより高頻度で購買される(ガンマ分布)
• 異なるカテゴリーであっても、消費者の購買行動が同じ法則に基づいている。すべてのカテゴリーにおいて市場構造の本質は同じであり、それはプレファレンスに収束される消費者の購買行動によって決まる。
5 ブランドも同じ法則に支配されている
• 1つ1つのブランドも、消費者のプレファレンスによって決まる、という真理に支配されている。
ブランド同士の力関係が最終的に現れた「シェア」は、個々の消費者のプレファレンスが集まった全体の姿、つまり市場全体におけるブランドのプレファレンスそのものであると言える。
• 購買行動を支配する4つの仮説(法則)
①あるカテゴリーにおける消費者の購入はそれぞれ独立(互いに相談したりして影響し合わない)
②あるカテゴリーにおける購入時のブランド選択は、消費者のそれぞれのブランドに対するプレファレンスによって決まる確率に従い、その時点でどのブランドが選択されるかはランダムに決まっている。(多項分布している)
③あるカテゴリーにおける消費者のブランド選択は、プレファレンスの順位が高ければ高いほど、購入確率がより高くなる傾向にある(ガンマ分布している)
④あるカテゴリーにおける消費者のブランド選択は、プレファレンスによって定まる確率に従い、それはカテゴリーの平均購入回数の多い少ないには関係がない。
• 消費者の頭の中には、今までの購入経験から、購入候補であるいくつかのブランドの組み合わせ(Evoked Set)がある。このエボークトセットの中からプレファレンスに基づいて購入確率が決まる。
6 経営資源を集中すべきはプレファレンスである
• 市場競争とは、一人一人の購入意思決定の奪い合いであり、その核心はプレファレンスである。
• プレファレンスを上げることはシェアを上げることに等しく、シェアが上がると結果として売上が伸びる。どの企業も消費者視点を最重視して、プレファレンスの向上に経営資源を集中せねばなりません。
第2章 戦略の本質とは何か?
1 勝てる戦を探す
• 多くの人がビジネスの世界で目を瞑っていることを自覚していない。水の流れる方向に逆らって進むために必要な多大なエネルギーを持っていないのであれば、その戦略は戦う前から負けることが確定している。
• 市場構造にはコントロールすべきものと、コントロールしにくいもしくはできないものがある。戦略が失敗するときは、知らず知らずのうちに自分たちでコントロールできないことに多くの経営資源を投入してしまっているパターンが非常に多く見受けられる。
2 戦略の焦点は3つしかない
• ブランドの最大ポテンシャルは、プレファレンスによって定まり、それが認知と配荷によって制限されてビジネスの結果が決まる。つまり、売上を伸ばすためには、①自社ブランドへのプレファレンスを高める ②認知を高める ③配荷を高める の3つしかない。(Preference Awareness Distribution)
3 「認知」の伸び代を探す
• 認知率の伸びに対してビジネスはあるレベルまでは直線的な関係で伸長していく。
• ただし、認知の質には注意しなければならない(例:ダイソンのみを知っているか、吸引力の変わらないただ1つの掃除機、まで知っているか)
• Aided Awarenessはブランド名で誘導されて計測された認知で、〇〇を知っているか?という質問側の意図で答えるもの。これは、認知の最大面積を知る上で重要であり、均一性に優れた指標。時代などを超えてどの調査でも均一になる指標。
• 一方、Unaided Awarenessは、ブランド名で誘導されないで計測された認知で、〇〇と言えば?というフラットな質問で答えるもの。ビジネスの世界では、自ブランドが「買ってもいいブランド群」に入っているかを確かめることが大切(Evoked Set)。「〇〇といえば?」の質問に一番で出てくる名誉な割合を「第1ブランド想起率」と呼ぶ。
• 第1ブランド想起率は、エボークトセットとの相関性が高い。
• なお、20%から40%に認知率を上げるより、70%から90%に上げるマーケティングコストは極めて高くなる。費用に対して認知率伸張の効果は逓減していくから。
• USJのハリーポッターオープンでの認知目標は全国90%。オリンピックや万博レベルの認知になり、この達成は通常の広告では困難。そのための奇策として、本を執筆してV字回復物語を売り出した。そこで関東のメディアにも注目させることで、取材を一気に増やした。
4 「配荷」の伸び代を増やす
• 配荷率とは、市場にいる何%の消費者がその商品を買おうと思えば物理的に買える状態にあるかという指標。
• 認知と同様、ビジネスウエイト配荷率が50%の場合、それを10ポイント伸ばして60%にすることができれば、ほぼ確実に売上は20%伸びる。ただし、限りある店舗の棚スペースを物理的に奪い合うのは熾烈な戦い。
• 小売店の棚の売上を最大化するための核心は、その店を訪れる買い物客のプレファレンスに合わせて棚を作ること。つまり、自社ブランドが、それぞれの小売店にとって「確たる役割」を果たせるかどうかが非常に重要。客層のプレファレンスの中で、自社ブランドが担えるユニークな役割は何か?
• また、配荷率上昇のため、流通システムを自社+他社で考えること。時に巨額買収を通して他社の流通システムごと買い取ってしまうことも良い(例:サントリーによるビーム社買収)。
• さらに、配荷の質にも注目すべきで、棚のどのくらい優位な位置に置かれているか、理想の価格設定になっているか、といったこと。
• P&Gのパンテーンブランドは、当時から圧倒的なメガブランドで、配荷率は100%近い状況。これ以上どうやって成長すべきかの壁に当たっていた。
そこで、配荷率でも質に着目して取り組んだ。各店舗のカスタマーのプレファレンスに合わせた商品棚づくりのため、パンテーンのSKU数の種類配分と市場全体のプレファレンスにギャップ(成長余地)があることに気がついたことがきっかけ。
簡単に言えば、全選手が30人いる野球チームで、相手に合わせて9人の出場選手を選んだことと同義。
この取り組みで売上アップ、無駄な在庫削減、信頼の獲得ができた。
5 プレファレンスの伸び代を探す
• 消費者のプレファレンスが一体何で、そのプレファレンスを伸ばすということは一体どういうことか?
• NBDモデルにおけるMとKの意味を知ることが重要。
M=自社ブランドを全ての消費者が選択した延べ回数を消費者の頭数で割ったもの。つまり、選ばれる確率。(消費者の頭数は全消費者。これは、「消費しない」という選択肢を取った人も母数に含めるため)
K=消費者の購入確率がどのような分布の形になるかを決めている指標。例えば、平均して週5回訪れる店でも、頻繁に訪れる時期や訪れない時期などのばらつきを示すもの。
• 重要なのは、Kは消費者のプレファレンスによって結果的に決まってしまうので、実際のところ我々が直接的にコントロールすべき対象ではないということ。MがKを決める。
• 選ばれる確率そのものであるMを伸ばすために、我々がコントロールすべきものはプレファレンスであるということ。
• AKBの推しメンA子のプレファレンス向上戦略の例でいえば、プレファレンスの水平拡大として、ファンを増やしていく戦略。もしくは垂直拡大としてファンの数ではなく既存のファン1人あたりにもっと多く投票してもらう戦略、の2つがある。
• 経験上では、垂直拡大よりも水平拡大の方が成功する確率が高い。既存ユーザーの深堀よりも、その外を耕す方がマーケットがずっと大きい場合が多い。
プレファレンスが大幅に強化される時には、既存ファンのみにアピールする強化方法は現実的に考えにくく、より魅力があるものは結果的に皆が好きになるため、水平方向への拡大となる。
• 消費者を区切ってターゲティングすることは、Mを増やすためであって決して自社ブランドのMを狭めるためではない。ターゲティングや差別化といった手段が先になり、大切な自社ブランドのMを不必要に狭めてしまっていないか?
あくまでも自社ブランドの市場全体における魅力度を拡大するのが目的であるべき。
• 以前のUSJは、「USJ好きな消費者」がディズニーに比べて非常に偏っていた。(老若男女から愛されてはいない)つまり、分布の形の指標Kの数値が小さく、ばらつき自体がとても小さい状態だった=市場全体におけるプレファレンスがずっと弱い。
• マーケターがよくやりがちな過ちは、既存の特定ターゲットの中でのプレファレンス向上。あくまでも市場全体での自社ブランドへのプレファレンスを上げること(Mを上げる戦い)。
• そこで実施したのは、既存のファン層である映画好きにさらに好きになってもらうのではなく、明らかに効率よくファンを増やすことを考えた。
• そこで、「映画だけのテーマパーク」から「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」に戦略転換。映画好きの既存ファンのプレファレンス棄損のリスクを取った上で実施した。
• そもそも、ディズニー映画というジャンルだけでプレファレンスをカバーしているルールの中で戦っては勝てない。
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