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東京都の太陽光設置義務は誰の得?

1.新築住宅の太陽光設置義務化 東京都、中間まとめ素案(5月11日)

東京都は11日、都の環境政策を審議する環境審議会の分科会を開き、2030年のカーボンハーフ(温暖化ガス半減)実現に向けた中間まとめ素案を示した。新たに住宅など中小規模の新築建物に太陽光発電設備の設置を義務付けるほか、既存の温暖化ガス排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード)などの強化も盛り込んだ。都は審議会の議論やパブリックコメント(意見公募)も踏まえて現行条例を改正する。
新制度は延べ床面積2000平方メートル未満の住宅や中小ビルが対象となる。具体的には、都内で総延べ床面積2万平方メートル以上を供給する住宅メーカー各社に日当たりや供給棟数を考慮したパネル設置の義務量を設定する。素案では、太陽光発電設備に加え、電気自動車(EV)などのZEV(ゼロエミッション車)の充電設備の設置義務化も盛り込んだ。
都によると、都内の建物の総延べ床面積の5割は大規模建物だが、棟数ベースでは98%を中小建物が占める。これまでは大規模建物のみに環境対応を求め、中小建物は支援策にとどまっていた。

2.パリ協定、中国の今後

 パリ協定は、「産業革命時からの気温上昇を1.5℃以内に抑える」ことを目標としており、CO2削減は、そのための手段となっている。各国でCO2削減対策を行い、「最終的に地球全体で1.5℃以内」という目標をクリアできるのか、というロジックである。
 
そうすると、CO2排出量の多い国が、いの一番に削減して貰わなくてはならない。2020年のCO2排出量のランキングは以下の通りである。圧倒的に中国が多く、全体の約1/3を排出していることになる。
 
中国:28.4%、米国:14.7%、インド:6.9%、ロシア:4.7%、日本:3.2%、ドイツ:2.1%、韓国:1.8%、アフリカ諸国:3.7%
 
中国は、積極的にCO2を減らそうとしているのか?それはないだろう。

今後の中国の目標には、世界の製造強国を目指す「中国製造2025」があり、その後の「2030年カーボンピークアウト」、そして「中国2060年ネットゼロ」が発表されている。我が国及び主要国は、「2050年ネットゼロ」を目指しているが、それより10年間猶予されており、何故だか特別扱いされている。(インドは2070年)。
 
中国のGDPは2005年当たりから急激に伸び、2010年頃には日本を抜いてしまい、米国に次ぐ2位になった。この成長のエンジンは、石炭であることは自明であり、今後も、石炭が主要なエネルギー源であることに変わりがない。
 
最近では、日本の先進火力発電技術(USC、A-USC、IGCC)をまねたような設備も出てきており、そのような設備は、排出する煤塵、SOx、NOxなども少ないが、多くはそれ以前の技術であることが多い。従って、CO2の排出は多少減るだろうが、劇的に削減などできない。削減してしまうと、世界の製造強国など実現できないからだ。

太陽光や風力などの自然エネルギーを使って発電もしているが、北京や天津などの消費地に送電せずに捨ててしまうケースもあるようだ。即ち、「棄電」の問題がクローズアップされている。棄電とは、発電設備の稼働を停止し、送電量を制限する「棄風限電」「棄光限電」「棄水限電」などが頻発している。政策の後押しでクリーンエネルギー発電容量が拡大する一方、送電インフラの整備が追い付いていないためだという。

国家能源局の統計(2016年)によれば、風力エネルギーを無駄にする「棄風」は通年で甘粛省が全体の43%、新彊ウイグル自治区が38%、吉林省が30%、内モンゴル自治区が21%など。太陽光エネルギーを無駄にする「棄光」は、西部エリアで平均20%に達したという。送電網の整備は遅れが目立っている。
 
お隣の国、中国の動きを見ていて、日本は、数百兆円という税金を投入してどんなに頑張ったところで、全体への影響はほとんどないと考えてしまう。そう考えると、東京都でソーラーパネル設置を義務化するなどの施策も、パリ協定のいう最終目標には全く無関係だということになる。
 

3.太陽光設置義務化は、誰の得?

それでは、太陽光設置義務化は、誰の得になるのであろうか?
 
私は東京都民ではないが、果たして、東京都民の得となるのであろうか?
新たな住宅にソーラーパネルの設置を義務付けるということであるが、住宅取得費用が高くなる、そもそも脱炭素など信じていない、東京の空気はきれいだし問題などないだとか、九州電力で起きたような出力調整調整に起因する安定電力が損なわれるなどの理由で、不要だ反対と考える都民も多いのではなかろうか。
 
FIT(買取制度)が始まった当初は、太陽光にはかなりの補助金が出たが、段々と減額され現在はあまり出ない。従って、資金回収年も当初よりも長期になっており、設置条件に依存するが、最近では15年程度かかるとも言われている。
 
設置を推進するために、東京都がインセンティブなどと称して補助金制度を講じてくるのかもしれない。そうなると、補助金の原資は都民の税金であり、東京都版再エネ賦課金のようなものがかけられるやもしれない。再エネ賦課金の二重課税となり、こんな出鱈目な話はなかろう...資金回収期間が長くなると、その間、パネルや機器の劣化などがあって、経済性も段々と劣化していくことになり、都民にとっての得はなさそうである。
 
それでは、住宅メーカーの得となるのだろうか?住宅メーカーには、日当たりや供給棟数を考慮したパネル設置の義務量を設定するとなっている。本来なら、行う必要のない作業に人手をかけ、誰かが策定した評価基準と照らし合わせながら、アセスメントをするのだろうか。随分と余分な作業をすることになる。住宅メーカーの苦労が忍ばれる。
 
設置となれば、ソーラーパネル、パワーコンディショナーなど必要な機器を調達してということになる。当然、費用も建設費も高くなるであろうが、それを全て、住宅価格に反映するわけにもいかないだろう。
 
ソーラーパネルを設置するということになれば、パネルのメーカーは注文が増え、儲かるであろう。パネルメーカーの得になるのは間違いない。現在、中国がパネルメーカー10位までを占めており、シェアは80%程度だと言われている。しかも、主に新疆ウイグルで製造されているといわれている。過酷な人権問題のある地区での製造である。そこから、輸入して日本で設置することになる。

2020年の世界太陽電池市場、シェアトップ5社は? - 特集 - メガソーラービジネス : 日経BP (nikkeibp.co.jp)

2020年ソーラーパネル製造メーカートップ5(中国企業)

 
それでは、東京都には得となるのであろうか?小池都知事は、言い出しっぺであるから、何らかの得と踏んでいるのであろう。実績のない知事であるので、ここで巻き返したいとでも思っているのだろうか。巻き返すことが出来るほどの成果が期待されるのか、甚だ疑問である。

東京の生活環境は、現在でも他の国の都市と比べても良いので、設置義務となったとしても、メリットは感じる人も少ないのではなかろうか。景観上、東京の街がきれいに見えるのかも疑問である。今回報じられたのは、素案だということである。パブリック・オピニオンを求めるということなので、東京都民の方は、是非、反対のコメントを多数送って欲しいものです。

4.東京都が進めているSDGsに合致するのか?

我が国では、大企業のトップや政治家などがSDGsの襟章を付けているのを
見かける。私は、欧米でつけているような人を見た覚えがない。日本では、国連主導ということで、TV番組でもSDGsのキャンペーンを行っている。東京都でも流行りのSDGsに熱心なようだ。

SDGs - English version

東京都がSDGsと太陽光設置義務を打ち出しているのは、明確な一つの哲学に則ってのことだろうか?

太陽光設置義務がSDGsのどこに該当するのかといえば、13のClimate Actionくらいであろうか。1:No Poverty, 2:Zero Hunger, 3:Good Health and Wellbeing, 4:Quality Education, 5: Gender Equalityなど、中国は、ほとんどの項目に対して非難されるような状態が続いている

東京都が、SDGsを進めようとしているのであれば、中国を利するような取り組みに対しては、再考をお願いしたいものだ。

因みに、SDGsのどの項目がビジネスにインパクトがあるのかをIGESが調査しているが、その結果をご紹介する。

このレポートの中に、Table2が掲載されている。GCNJとUNGCの属する企業からの回答を集計した結果である。(GCNJ: Global Compact Network Japan/ UNGC: United Nations Global Compact)

日本の企業は気候変動を一番(63%)と考えているのに対して、UNグローバルコンパクトのメンバー国の企業は、39%の重みしか与えていない。

IGES調査の結果

日本は、何故、こうも気候変動対策に邁進しているのだろう?個人的には、「費用対効果のないことに2050年まで数百兆円も税金を投入するよりは、効果の見える治水対策や植林、国内の貧困や教育、国防・安全保障などの山積する問題にお金を使うべきであり、それが直接国民のためになる」と思っている。

5.所感

化学技術者としての立場でまとめると、「低炭素」は、資源を大事に考えるという点からは理解できるとしても、「温暖化CO2元凶論」や「脱炭素」については科学的な根拠が希薄なこと、ClimateGate事件などもあり、賛同はできない。

現在、エネルギーの脱炭素化や転換が言われている。エネルギーは、私たちの生活を支えてくれ、豊かにしてくれるものを生産するために必要なもの、例えば、食べ物であったり、衣類、家具、プラスチックなどと色々ある。 穀物などはCO2を栄養として結実したものを、そのまま、或いは、熱エネルギーを加えたりして食している。

穀物、野菜などは、生産性を上げるために肥料を利用するが、窒素肥料(アンモニアや尿素など)などは、窒素と水素、それにCO2を反応させて生産している。窒素は空気から分離、水素は、天然ガスや石炭から製造する。

生活を豊かにしている生活用品については、原料を調達し、そこに熱・温度や圧力などのエネルギーを加えて加工して生産されている。

原料としては、主に、石炭や原油、天然ガスなどが利用されてきた。食品や生活用品の化学構造を見ると、炭素と水素が中心で、そこに酸素が加わったり、窒素や硫黄がくっついたりしている。化学構造の骨格は炭素で構成されており、ベンゼン環や直鎖状になっている。エネルギーを与えて、触媒を介して反応させると、この化学構造が壊れ活性種が結合したり重縮合などを繰り返して製品ができると、そういうプロセスを経て、ものが誕生している。

これまで、そして現在でも、人類は化石燃料の恩恵に浴してきたわけである。物質の構造が大逆転でもしない限り、この傾向は未来も同じであろう。「恩を仇で返す」とでもいうような、今の流れは、どうなんだろうか?

化石燃料を使わないということは、結局、日常食したり利用している多くのものを生産しないという事と同じ意味である。

こういうプロセスから、脱炭素などという発想はあり得ないことなのです。

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