パンみみ日記「リサイクル本をお迎えする雇用主の気持ち」
日々のできごとをかき集めました。パン屋に置いてある、パンの耳の袋のように。日常のきれはしを、まとめてどうぞ。5個くらいたまったら店頭に置きます。
1月4日(木)
図書館へ。ふと、リサイクルコーナーに目を向けた。ここには廃棄本が並んでおり、利用者が無料で持ち帰ることができる。
いつもは雑誌系やマニアックな本が置かれていることが多く、ピンと来なかった。しかし、今日は「カラフル」(森絵都)が置かれているではないか!
リサイクルコーナーに読みたい本があるのがはじめてだったので、ドキドキしながら周りを見渡し、そっと鞄に入れた。
席につき取り出してみると、「破れあり」「キズあり」「汚れあり」のシールが。満身創痍じゃないか。「お勤めご苦労様です」と言い渡し、引退させてあげたい。けど、あと一回だけ読ませてほしい。
定年再雇用を行った雇用主としての自覚を持ちつつ、自宅に連れて帰った。弊社はアットホームな職場です。
1月6日(土)
叔父や叔母、従兄弟たちが集まる親族の集まりへ。会話の中で叔父が「よさくはフルマラソン完走したんだって??」と実話から飛躍した投げかけが飛んできた。ハーフマラソンに尾ひれがついてしまったらしい。
叔母は「私は今年、よさく君と一緒に出られるマラソン大会探すわ!」と息巻いており、従兄弟たちが「そういうのやめて!迷惑だから!」と止めにかかっていた。叔父一家はいつも賑やかだ。
家族に必要なものって「ちょうどいい温度のツッコミ」なのではないのかな〜と思う昼下がり。
1月7日(日)
大学の友人である芝犬さん(温厚な先輩)とパピコ(愉快な後輩)が家に遊びに来た。3人で謎解きゲームを実施。スマホとキットの情報を交互に見ながら解いていく作品で、夢中になって遊び尽くした。
順調にステージを進めるものの、最後の一問がどうしても解けなくてスタートから5時間が経った。3人ともこたつで仰向けになり、「わかんねえ…」とつぶやく始末。
いったん諦めてピザを食べた。お酒を飲んで思考を停止させた。この3人でいると、無限におしゃべりができる。「結局、恋愛に必要なのはドキドキと安心どちらなのか」、「ずっとおしゃべりできる人とは、一体どんな中身の話をしてるのか」といったテーマでピーチクパーチク話し続ける。
この3人でずーっと定期的に集まれたらいいのに。誰かが結婚したり子どもが産まれたりしたら、できなくなるのかな。もちろん祝福すべきことなんだけど、その将来が少し怖い。
2人の終電が近づいたので、駅まで見送る。次に会えるのはしばらく先だ。今日の楽しさを絞り出すようにして、お別れした。
深夜1時ごろ、LINEの通知。柴犬さんからだ。
「最後の謎、解けた!!」
帰宅後も謎解きしてるの、すごすぎ。
1月8日(月)
先日のチャリティサンタで知り合った方とランチ。ナンとカレーをお供に当日の活動を振り返る。
お互いに訪問したお宅は違うので、それぞれふれあった子どものエピソードを交換し合う。どの家庭にもドラマがあり、あたたかい気持ちが復元されていく。
会話を続けていると、彼も読書好きであることがわかった。「好きな作家がいて、その人の作品ばかりを読むんです」と言うので、誰かと訊ねてみた。すると、彼の口からこぼれ出たのは「辻村深月さんという方で」という言葉だった。
ハッと息を呑み、そっとカバンを開ける。ぼくはそろそろと文庫本を取り出した。
「スロウハイツの神様」(辻村深月)
えええ!と声を出し、笑い合う。そこからはお互いの好きな作品を語り合った。
男女だったら、恋のはじまる音が聞こえたんだけどな。
1月9日(火)
仕事始め。驚くほどに頭が回らない。ノロノロとメールをさばき午前中が終わる。
同僚たちとランチへ。「エンジンがかからない」「やる気を実家に置いてきた」「年末した仕事の記憶がない」などと口々に漏らす。
すると、バネオさん(色白イケメンの先輩)がぽつりと語り出した。
「ぼくは…自分が何者だったかを思い出すところから始めてます」
そこから!?!?
1月10日(水)
仕事中。デスクで作業をしていると、別部署からトコトコとクマ兄(元育成担当の先輩)が近づいてきた。
「よさくさん。大切なことを言い忘れていた」
なんだろう。引き継ぎの情報かな。クマ兄から多くのクライアントを引き継いだけど、今のところ大きな支障は出ていない。
クマ兄はフッと笑みを浮かべ、目線をぼくに合わせる。
「入社して1年、おめでとう」
そんなことを、わざわざ。想定外のセリフに、こちらも頬が緩んでしまう。部署を異動してもなお、気にかけてくれていた。これだけを伝えにきてくれた。ただただ、嬉しかった。
あっという間の1年間だった。クマ兄と毎日のように同行して、数々のことを教えてもらい、何度もごはんを共にした日が懐かしい。
「もう、よさくさんは大丈夫だよ」
大丈夫だけど、大丈夫じゃないよ。仕事は回せるようになったけど、誰かに甘えたくなるときがあるよ。あなたみたいな熱い人と、夢を語り合いたいときがあるよ。
いつだってクマ兄は、この会社で、はじめてぼくを育ててくれた人なんだから。
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