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那須旅行記(前半)〜秋のハイキングと48度の温泉〜

旅行の魅力とは、「いかにほっこりできるか」なのかもしれない。

そんなことはないかもしれない。でも今はそう思ってしまうくらい、ほっこりが胸の中にじんわりと行き渡っている。

山の上で偶然の出会いに驚いたり、アットホームな宿を営むご夫婦とおしゃべりをしたり、動物とのふれあい体験をしたり。那須の旅にはそんなほっこりポイントが詰まりに詰まっていた。

肌寒くなる秋に嬉しい、温かい2日間を綴ります。



土曜日の朝。那須塩原駅に新幹線で向かう。今回の旅を共にするのは、大学時代の登山サークルのメンバーたち。年に一度はこうして山登りを兼ねた旅行に出掛けている。

このメンバーのおもしろいところは、年一回の旅行以外では会わないこと。グループLINEも旅行のためにモゾモゾと動く以外は、音を立てない。登山旅行のために集合しては解散する、プロジェクト方式を採用している。

那須塩原で現地集合し、1年ぶりに友人たちと顔を合わせた。近況がアップデートされていないので、知らん間にみんな転職やら引越をしていた事実を知る。

「そっか〜言ってなかったね〜」とお互いケラケラ笑い飛ばしながら、今回の旅がスタートした。

まずはレンタカーで「那須ロープウェイ」へ。これで標高1915mを誇る茶臼岳の9合目まで行ける。よって、登頂の負担が劇的に緩和される。もはや登山の達成感すら緩和してしまうものの、「もう学生じゃないんでね」と言い訳してスタスタとロープウェイに乗り込んだ。

スイスイ

ここまでは何の登山装備もいらないので、紅葉を見にきたであろう一般の方が多かった。登山リュックを前に抱え、通勤時のように身を縮める。

ものの数分で展望台に到着。

ちび雲より上にいる

天気が曇り&紅葉がほぼ終わり、という状況により「絶景だ!」とは正直ならなかった。今のところ、何も労力を使っていないのでしょうがない。茶臼岳の山頂に足を向け、歩き出していく。

ちびっ子登山家もちらほら

登り進めるうちに、だんだんと雲がいい仕事をして「高いところにいる」という実感を持たせてくれた。

大河ドラマのオープニング感

ロープウェイを降りてから、45分ほどで茶臼岳の山頂に到着。なんてコスパがよい山でしょう。カップラーメンを食べるため、お湯を沸かす準備をする。

すると、近くにいたおじちゃんが話しかけてきた。

「おい、にいちゃん! 俺のでお湯沸かすか? 俺の早んだよ。1分で沸かせられっから!」

山の上は、平地よりも好意が飛び交いやすい。ありがたいお心遣いだ。というか、「俺のバイクならこの峠は3分で下れる」みたいの、お湯沸かすやつでもあるんだね。

申し訳ないんで大丈夫です、と現代人っぽく断ってしまった。今思えば、ありがたくお願いすればよかった。「どっから来たんですか」とかの会話が起きたかもしれないのに。ほっこりチャンス、逃さないの大事。

腹ごしらえをすませ、続いての目的地へ。流石にこれで下山してしまうと物足りないので、朝日岳に向かう。こちらは茶臼岳近くにある別の山。いったん下ってちょっと登る。

岩岩しいタイプの山

茶臼岳の山頂から1時間ほどで、朝日岳の山頂に到着。ちょうど太陽が出始めて、こちらの方が景色が良かった。

山脈が海の波よう
朝日岳から見た茶臼岳

余計なことを考えず、ただひたむきに登って、景色を眺めて、心を揺らす登山。日常から数センチ離れたところに切り離してくれるほどよい疲労も、いっそ心地よい。心に水のように漂う何かが溜まったところで、下山を始める。

すると、朝日岳を登ってくる3人の女の子たちとすれ違った。ふと先頭の子の服が目に入る。なんと、ぼくが所属していた登山サークルのオリジナルTシャツではないか! 思わず「もしかして〇〇(登山サークルの名前)ですか?」と声をかける。

女の子は状況を飲み込めていないのか、リスのようにビックリした顔をしていた。慌てて自分たちも同じサークルのOBだと説明する。

紐解くように話していくと、自分の5個下の代であることがわかった。かぶってはいないけれど、割と近い。偶然が持つ力に驚くとともに、シンプルに登山を続けている後輩がいるの、なんだか嬉しい。

友人には「よさくが唐突にナンパを始めたのかと思って焦った」と言われた。山で「お姉さんたち、一緒に下山しちゃう?」などとアプローチする山ナンパ、あんのかな。

下山した後は「鹿の湯」へ。ここは1300年前に開湯したと言われる歴史ある温泉。シャンプーなどは禁止で、掛け湯と浸かり湯だけで楽しむトラディショナルなスタイル。

伝統感

4名ほど疲れるサイズのお風呂が6つあり、41度から48度まで、湯の温度が段階的に分かれている。1番低くて41度なの…?

徐々に熱いお風呂にチャレンジしていった。46度までは耐えられたけれど、48度はレベルが違った。10秒入るだけで足がビリビリと痺れ、「人体に何かしら影響が出る」と生命レベルで危機感がよぎった。

しかし、常連と思われるオジちゃんはズンズンと48度の世界に身体を入れていく。砂時計を片手に「3分入れたら大したもんよぉ」とチャレンジャーたちに声をかけていた。ヤンキー漫画に出てくる、最初の試練とかなのかな。

大学生と思われる兄ちゃんたちが続々と熱湯に挑むものの、「あひぃ!」と言いながら退散していた。何年くらい鍛錬を積めばオジちゃんの領域に行けるのか。

お風呂の後は夕食へ。中華屋さんに行った。「パン餃子」なる変わったメニューがあり、頼んでみる。メロンパンよりもデカくてビックリした。

チヂミを肉まんの生地で包んだイメージ

中華は「那須に来たぜい」とは思えないものの、パン餃子が記憶に与えるインパクトが強すぎたのでよかった。旅の食事は頭に残るものに限る。

満腹で宿に向かう。夫婦で営んでいる、4部屋のみの小さなお宿。メガネをかけた上品な奥さまがお出迎えしてくれた。

チェックインを済ませ、2階の部屋へ向かうために階段を上る。すると、後ろから引き止めるような声が聞こえた。

「あのっ…!」

奥さまが少し緊張した面持ちで、何かを伝えようとしている。

「…冷えるので、あたたかくしてくださいね」

言いそびれたこと、それだったんだぁ…! と、そのコメントで体温が2度上昇した。

そこから宿をプチ散策。

10年ぶりの2段ベッド
廊下にあった本棚

本のチョイスから、「この宿、信頼できる〜」という気持ちに。本棚から人の良さが滲み出ている。

ぼくの大好きな絵本『からすのパンやさん』が置いてあり、大興奮。20年振りに読んだけど、案外内容を覚えていてビックリした。パンの新作を並べている見開きのページ、昔も今も大好き。

カメムシにも優しい

お風呂に入ってくつろいでいると、友人がお盆を持って部屋に戻ってきた。

「宿の奥さんがね。『ゼリーがあるのですがいかがですか?ひとくち分だけなんですけど…』って慎ましやかにくれた」

と言い、ブドウとイチジクの手作りゼリーをもらってきた。全然ひとくち分じゃなかった。奥さまの雰囲気のように優しい味わいで、ペロリと食べ尽くしてしまう。

食べ終えたお皿をぼくが返しに行くと、奥さまは驚いた表情を見せた。

「湯冷めしないように、あたたかくなさってくださいね…!」

ぼくが風呂上がりの半袖スタイルで行ったせいで、奥さまに余計な心配をさせてしまった。

夜はとてもあたたかくして寝た。



〜後編へ続く〜

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