『字滑り』永方佑樹(文學界2024.10月号)ー芥川賞候補2
(1,271文字)
『文學界』巻末の執筆者紹介を見ると、作者の永方(ながえ)佑樹さんは詩人だという。最近詩人が小説を書いたり、小説家が短歌を詠んでいる印象がある。
わたしは人見知りではない方だが、知らない小説家にはかなり人見知りする。だから新しい作家が増えない。この永方佑樹さんも初めて読む作者なので、最初は警戒しながら読み進めていた。
書き出しは登場人物をひとりずつ紹介する文章が続く。あまり興味がもてないなあと思っていたが、そこからの展開が、すごく読ませるものだった。だんだんと登場人物に親しみが湧き、しだいに警戒心が溶けていった。
タイトルの “字滑り”とは、ある場所のいる人々が、一定の時間、言葉の表記や発声に制限がかかる現象を指す。
たとえば、その場の人たちは、漢字の音読みができなくなったり、ひらがなが表現できなくなったりする。
いつ、どこで字滑りが起こるかはわからず、原因も解明されていない。
登場人物のひとり骨火(ほねび)の饒舌さは、聞いてもないのに自分語りを高速で繰り出す苦手な知人を彷彿とさせた。でも骨火は小心者で、おそらく年下であろうモネに敬語で話したり、村の人に軽々しく口を滑らすところやブログの文体など、彼のキャラクターを的確に表現している。
モネの喋り方も、アザミの経歴と普段の暮らしぶり(カテゴライズされた“アザミ”らしさと、それと対比して書かれた分類された人々の書き方)も作り込まれていてとても良かった。
伝承を絡めて謎を残しながら描かれる展開がオカルトじみていて面白い。出てくる人がみんな怪しい。不気味さがあり、先が気になって読むのがやめられなくなった。
先入観だが、詩人らしい主題だと思った。言葉のひと音ひと音を注視し、言葉の扱われ方に繊細な感覚をもつ人だからこそ書き表したテーマではないだろうか。
芥川賞候補を読む本来の目的を忘れて、何度も面白いなあと感心した。これを読めてありがとうという気持ちだ。受賞に相応しいかはわからないけれど、オカルトぽさのある作品を芥川賞で見たことがないので、選考委員はどう評価するか気になる。選評がとても楽しみになった。
読む:12/17、12/20〜12/23
note:12/24