呼ばれる小説-『ミトンとふびん』吉本ばなな(2021年)
(1,552文字)
大きな喪失に陥ったとき、吉本ばななの小説がもっともその人を救うと思っている。そんな作家を他にすぐには思いつかない。(村上春樹もか。)
購入したとき今のわたしは吉本ばななしか無理と思った。
『ベル・ジャー』(シルヴィア・プラス/2024年新訳)を読み終えた今、なにを読むべきか考えたとき自然と読みかけのこの本が浮かんだ。
文章講座を課題を0時ちょうどに提出したあと真夜中なのに四つめの短編「カロンテ」を真剣に読み始めた。読み終えるまで眠らないつもりだった。
吉本ばななの小説に呼ばれた。
ある人は母を亡くし、ある人は離婚し、ある人は親友を亡くした。また別の話で母を亡くし、かつて兄弟が自殺した。
傷ついてないときにはサラッと読めてしまう。
配置されている言葉が説明のように感じることに慣れなくて、吉本ばななの小説はそこまで読んだことがなかった。作者の伝えたい意図を、伝えたいままに受け取れていないように感じたから。
しかし、5年ほど前から吉本ばななのエッセイを何冊も何冊も読むようになった。今までしてこなかった方法で自分を取り戻したいと思ったからだ。
そして今、苦手だと思っていた吉本ばななの小説にわたしは戻ってきた。
静かに、根気強く人生の尊さを説く物語。
それはおそらく、吉本ばなながこれを読んだ人たちに生きていてほしいから。
傷ついた人に吉本ばななの本が届きますように。
さりげないのにじわじわと効くって本当にすごい。
吉本ばななの小説が癒す心の一部が確実にある。そこは何かのショックで壊死しかけていて、自分とは関係のないはずの彼女の書いた物語が遠くから鳴る鈴のようにその傷を癒すのだ。
手のひらのサイズの、なにか小さくて大切で慈しむもののように、この文庫本をめくっていった。
この本にはよく死が書かれている。それを読んでいくと、見えていなかった命の大切と奇跡を教えられ、わたしは周囲の人が死なないように願った。
次はどの本に呼ばれるかな。
購入:2024/9/16
読書:9/20〜
再開:10/19〜10/20
note:10/20