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エッセイ『憧れの靴』

 中学1年生のころから、憧れていた靴がある。メゾン・マルジェラのタビブーツだ。タビブーツを履いている人を街中で目撃した瞬間、私はどきっとして、その靴に魅了されてしまった。いつか私も、あのブーツを履いて街を歩いてみたい。あの靴にふさわしい自分になれたら、買いに行こう。私は、タビブーツを買うための貯金をはじめた。

 19歳の春、私は進路を変更した。大きな転機だった。めまぐるしく変化する環境のなかで、私はふとあの靴のことを思い出す。「あの靴にふさわしくなれたかどうかはわからないけれど、今の私にはあの靴が必要だ」。思い立ったが吉日。私は“タビブーツ貯金”を抱え、銀座シックスのメゾン・マルジェラへ足を運んだ。

 なんといっても、長年恋焦がれていたあの靴だ。お店に一歩足を踏み入れるだけで心臓がばくばくする。私はおそるおそる店員さんに話しかけ、ブーツを試着した。今、私の足に、あの靴が。私は背筋を伸ばして、鏡の前で数歩、歩いてみた。

 後日、ソールが傷つかないように靴屋さんで裏張りをしてもらい、勝負の日やとっておきの日にその靴を履くようになった。9センチヒールのブーツを履けば、気持ちまでちょっとだけ大人になれたような気がした。

 嬉しさのあまりタビブーツの写真を撮り、募らせてきた長年の思いとともにSNSへ投稿した夜、思わぬ反応があった。中学時代の旧友からメッセージが届いたのだ。

「ブーツの投稿見たよ。あの投稿、すごく好き」

 その名前を目にしたのは数年ぶりだった。彼は昔からファッションが好きで、中学時代はお互いが目新しい服や靴を纏っていると「それいいね」なんて言い合ったものだ。

 憧れの靴が手繰り寄せてくれた縁。彼とのやり取りは続く。翌年の春、私はタビブーツを履いて彼と再会した。背が伸びた彼は、相変わらずおしゃれだ。私たちは町田の大衆酒場でハイボールを飲みながら、閉店時間がくるまで、好きな服や靴について語り合った。


前作に引き続き、こちらも大学の授業の際に書いたエッセイです。小説風の物語チックなエッセイが書きたい!と思いながら書きました。ファッションについて書くことがとても楽しかったので、今後も好きな服や靴について書けたらいいなと思っています。お読みいただきありがとうございました!

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