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何かをせずにはいられない私たち

1日の中で、何もしていない時間が一体どれだけあるだろう?

ほとんどの人が、1日のうち大半を何かをすることに費やしているのではないか。普段は仕事や学業などの”やるべきこと”に追われ、暇ができればスマホをいじったり、お菓子を食べたりと暇つぶしをする。一見何もしていないように見える時ですら、頭の中は考え事でいっぱいだ。

スキマ時間にビジネス系Youtubeを見たり、読書をしたりしている人たちは「私を暇な時間にゲームをしているやつと一緒にしないでくれ。私は彼らと違って時間を有意義に使っているのだ。」と主張するかもしれない。あるいは「私はスキマ時間を使って、重要なことについて考えている。何も考えないのは愚か者だけだ。」と言う人もいるだろう。しかし、いわゆる”高尚”なことをしている場合でも、何かをしているという点では同じである。行為に対する評価に差はあれ、彼らもまた、何かをしないではいられないのだ。

私も含め、大半の人が「何もしない」ことに耐えられない。何もしないでいるとソワソワと落ち着かない気持ちになり、すぐ「次に何をするか」を考えてしまう。「何もしない」というのは端から選択肢になく、「何もしない」という選択肢があることに気づいている人は極めて稀だろう。また無意識に、「何もしないこと」や「何も考えないこと」は時間の無駄で、怠け者のすることだと思い込んでしまっているのではないか。それほどまでに、何かをせずにはいられないのだ。

だけど、そのせいでかえって失ってしまったもの、逆に何もしないからこそ得られるものもあるのではないだろうか。

何かをせずにはいられないことの代償として、ここでは3つの事柄を取り上げる。まず、今この瞬間がものすごく味気ない時間になるだろう。何もしない時間に耐えられないと、何をしたとしても、すぐにその次にやることについて考えてしまう。例えば、友人とレストランで美味しいご飯を食べたとしても、料理のおいしさやその時間に満足するのではなく、ご飯を食べた後何をしようかと考えてしまう。その結果、目の前の出来事に対して注意が向かなくなり、本来味わえたはずの料理のおいしさ、友人との素晴らしい時間を味わえなくなる。

また、常に何かをしていることによって、脳は情報でいっぱいになり疲れ果ててしまう。何もせずにぼーっとしている時には、一見脳が休んでいるように見えるかもしれない。だからこそ、多くの人は何もしていない時間を無駄だと思うのだろう。しかし実際には、何もしていない時でも脳は働いている。ただし、何かに集中して取り組む時とは異なったネットワークが機能しているのだ。

スタンフォードオンラインハイスクールの星校長によると、脳には
1. デフォルトモードネットワーク(DMN)
2. セントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)
3. サリエンスネットワーク(SN)
という3つのネットワークがある。何かに集中して取り組んでいる時に働いているのはCENだ。一方で、何もしていない時にはDMNが活発になり、脳内で情報の整理や統合を行なってくれている。一見何もしていないようで、実は集中している時とは別の仕方で、脳は働いているのだ。だから休みなく何かを行い続けると、脳内が雑然とし疲れ果て、さらには創造性を発揮できなくなる。

さらに、これが何よりも重要な事なのだが、「何もしない時間に耐えられない」というただそれだけの理由で、本当は自分にとってどうでもいいことをしてしまう。つまり、限られた人生という極めて貴重な資源を食い潰しているのだ。何もしないことは時間の無駄だという人がいるが、こちらの方がより一層時間を無駄にしているのではないか。もちろん、暇つぶしの全てが悪いと言っているわけではない。しかし、暇ができたからといって、とりあえずスマホをいじることは、果たしてあなたの人生にとって重要なのか?
もう一度考え直してみて欲しい。

ひょっとすると、「忙しくて、何もしない時間なんてとれない」と言う人もいるかもしれない。だけど、そんなことはない。何もしない時間とは、丸一日休暇のような大きなものでなくていいのだ。信号の待ち時間、休憩中に飲み物を飲んで一息つく瞬間、日常の至る所に何もしない時間は溢れている。ただ、何かをすることが普通になってしまい、その時間を気づかぬ間に、自ら埋めてしまっているだけなのだ。

日々の生活の中に埋もれてしまっている「何もしない時間」を再発見し、あえて何もしない事を味わってみよう。ひょっとすると、初めのうちは何もしていない時間が無駄に感じられ、罪悪感を感じるかもしれない。だけどそれは、何かをする事が普通になりすぎて、何もしないことは無駄なことだと思い込んでいるからにすぎない。何もしないことの価値をどれだけ説明しても、きっと理解できないだろう。頭で理解するものではなく、体で体感するものだからだ。だからこそ、思い切って何もしないことを自分に許可してみてはいかがだろうか。


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