見出し画像

【物流】貨物運送事業の遠隔点呼とは?

 トラック運送事業の運行管理上、最も大切な業務といっても過言ではないトラックドライバーの点呼。
 
 2022年4月から遠隔でも実施できるよう法改正があり、さらに2024年4月1日に施行された「貨物自動車運送事業輸送安全規則の改正」に伴い、条件が緩和されトラック事業者の導入ハードルが下がりました。
 本記事では遠隔点呼について説明します。


■そもそも点呼とはなにか

 点呼とは、ドライバーの健康状態などを把握するために義務付けられている、トラック運送事業者が行う輸送の安全に関する取り組みの一つです。
 ドライバーがトラックへ乗務する前に行う乗務前点呼と、と乗務終了後に行う乗務後点呼、乗務中に行う中間点呼があります。
 
 点呼は国家資格の有資格者である運行管理者や所定の要件を満たした運行管理補助者が実施します。

 点呼は原則対面でドライバー、車両、運行管理者が所属する営業所の所定の場所で実施し、運行管理者はドライバーの健康状態、運行の留意点、携行品の確認などを行いその記録(点呼記録簿)を1年間保存しなければなりません。(乗務後点呼は道路状況などの異状があればこれも確認します)

■点呼実施に伴う、事業者の負担

 前項で点呼は原則対面で実施すると記載しましたがトラックの運行は365日昼夜問わず発生していること、営業車と車庫(地域により距離制限はありますが)が離れている事業者も多い実態があります。安全に運行を行う上で大切な業務ではあるものの、運行管理者の確保や点呼を目的とした移動のために事業者や従業員に過大な負担がかかっているといっても過言ではありません。

 貨物運送事業は近年EC界隈が活況なこともあり、取り扱い高は年々右肩上がりの状態です。他方、若者のトラック離れは顕著であり29歳以下の全産業での就業割合は16.6%なのに対し、トラックドライバーの同年齢層の就業率は10.1%(出典:国土交通省「2022我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」)など低い傾向があります。つまり、現役世代のドライバーの引退が進めば業界全体で深刻な人材不足、その結果、物が運べなくなるなど国内輸送量の著しい低下が予想されます。

 そのような背景もあり、安全性は担保しながらも事業の効率化も急務の状態です。

■点呼の救世主 遠隔点呼

 2022年4月1日より、ICT機器を活用した遠隔拠点間での点呼執行が可能となる「遠隔点呼」制度がスタートし、直近では2024年4月1日に施行された「貨物自動車運送事業輸送安全規則の改正」に伴い、その導入条件が緩和されました。これによりそれまで負担であった原則対面の点呼を対面以外で行うことが出来るようになりました。

 これまで似た制度で「IT点呼」という制度も存在しましたがGマーク認定を取得している営業所や輸送の安全の確保に関する取組が優良であると認められる営業所のみで利用できるなど制約も多く、本格的に導入しているトラック事業者はほんの一握りであったのではないでしょうか。特に事業開始から3年経過しないうちはGマーク自体、通常取得できませんので時間的な制約も大きかったように思われます。

 近年実施可能になった「遠隔点呼」は「IT点呼」とその運用方法こそ類似しているものの「IT点呼」がGマーク取得のインセンティブ的な発想から特定の事業者のみ利用できる仕組みであったことに対し、「遠隔点呼」は基本的にすべての事業者に向けて安全性の確実な担保やIT機器を使用するなど要件を満たせば「対面点呼」同等の行為としてみなす判断がされました。

■遠隔点呼とは具体的になにか

2024年4月1日より施行された告示では以下のように定義されています。

告示
運輸規則及び輸送安全規則の規定に基づき、事業者が、機器を用いて、遠隔地にいる運転者等に対して行う点呼をいう。

■遠隔点呼できる場所は

 従前には点呼場所にも制限があり「遠隔の営業所又は車庫」との記載がありましたが今回の告示で削除され点呼場所については緩和されました。

 具体的には同告示内の第4条の3号に新たに条文が加えられたことによりどこでも良いというわけではありませんが営業所、車庫以外の場所でも点呼が可能になりました。

 今回の告示改正で、事業用トラックの車内にいる運転者に対して遠隔点呼が実施できるようになったのは、都市計画上の問題や車庫にIT機器を置かなければいけないこと(点呼場所の建築コストや防犯面)から見ても実情に即して大きな変更だと考えています。


告示 第4条
遠隔点呼は、点呼を行う運行管理者等がいる自社営業所又は自社営業所の車庫と次に掲げるいずれかの場所との間(以下「遠隔点呼実施地点間」という。)において行うことができるものとする。

  1. 自社営業所又は当該営業所の車庫

  2. 完全子会社等の営業所又は当該営業所の車庫

  3. 運転者等が従事する運行の業務に係る事業用自動車内、待合所、宿泊施設その他これらに類する場所

■遠隔点呼で確認・共有が必要な情報

 対面点呼同様ですが運行管理者、ドライバー間で以下の確認、共有が必要です。

  1. 運転者等の日常の健康状態運転者等の労働時間

  2. 運転者等に対する指導監督の記録

  3. 運行に要する携行品

  4. 乗務員等台帳の内容

  5. 運転者等に対する過去の点呼記録

  6. 運行に使用する事業用自動車の整備状況

■遠隔点呼はいきなりはじめてもよいの?

 遠隔点呼を始めるには営業所を管轄する運輸支局長等に「遠隔点呼の実施に係る届出所」を実施の10日前までに届出が必要です。
 
 点呼の実施側、被実施側で管轄が変わる場合は原則両方の運輸支局長へ届出が必要です。

 また、届出以外にも遠隔点呼を行うにあたり機器要件もありますので事前に機器導入や自社にあった運用が可能であるかなどを検討しましょう。

機器要件例

  1. 生体認証

  2. 十分な明るさ

  3. 点呼の様子(ドライバーの全身)が動画でほぼリアルタイムで確認できること

  4. 運行管理者側でも結果が直ちにわかるアルコールチェッカー

まとめ

いかがでしたか。トラック事業者の2024年問題では主に労働時間に付随するドライバーの待遇にフォーカスされていますが一方、所管の国土交通省やトラック協会では持続可能性な物流の実現を行うために近年頻繁に法改正や実証実験を実施しています。安全第一を根幹に引き続き有用な情報のキャッチアップをしていきましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?