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小説、詩、ことば

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よるが描いた世界
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#掌編小説

失格

失格

 体だけの関係を保つのはゆるやかな自傷行為だね、と言われた。いつからか始まった右瞼の痙攣が不規則に続いていた。わたしの自罰的習慣に言及したのは、高校の同級生と再会して4年ものあいだ交際を続けている加奈子だった。加奈子は堅実で頭がよくて柔和でものいいがやさしくて、然るべき時にわたしの道を正してくれる、気高くて美しい女性だった。わたしが彼の存在を口にすると、加奈子は「常に少しずつ傷つきつづけていること

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いつも同じ日

「才能のある人しか、そういうことは言っちゃいけないと思う」
 昼間に投げかけられた言葉を反芻して、陽葵は小さくため息をつく。
 前髪の先から滴る水が、張られた湯に波紋をひろげた。
 突然現れたウイルスのせいで感染症が爆発的に流行し、陽葵たちの代は就職難民と言われた。ただでさえ自分をアピールすることに向いていないのに、この状況になってしまえばお先は真っ暗だと、彼女は確信していた。
 嘘をついているよ

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