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よる
2023年1月20日 17:05
彼の故郷の家の、目の前にある道の名前を憶えている。覚えていようとしておぼえているのではなくて、ただ、彼の紡いだ言葉が私の体から抜けない、それだけのことだった。もうひとつも気持ちが残っていない、彼自身を思い出しても惨めに思うだけのはずなのに、何故か彼の故郷には、惹かれていってしまうのだった。それはたぶん、彼が私に残した故郷への思慕、嫌悪、そしてそれらとわたしとの間には、越えられることのない隔たりが