固まらないアングレーズ

ケーキ作りの中で欠かせない要素になってくるのがアングレーズ
カスタードクリームは出来上がった時点でクリームのように保形性があるのに対してアングレーズはソースのような流動性があります。
一般的には牛乳とバニラビーンズを沸かしてそこに砂糖をすり混ぜた卵黄を入れて炊き上げるという手法で作られます。
これをベースにしてお菓子作りではフルーツのピューレやチョコレートを加えてムースケーキやケーキにトッピングするソース、バニラアイスなんかもアングレーズから作られたりと非常に基本的な配合になってます。

もちろん自分も何度も炊いたことがあって慣れてます。
しかしあるとき事件が起きました。

出来上がったムースのケーキがなぜか少し潰れてたのです。
それは抹茶の味でドーム型のケーキのちょうど真上にあずきを飾っているものでしたがなぜかあずきの真下が少しだけへこんでいる...
まるでいつもよりあずきが重たくてそこだけ潰れているようでしたがとにかくおかしいということで潰れているケーキの断面を切って確かめてみました。
するとどうやら中身のセンターの部分がいつもより緩いようなきがしたのです。
そのセンターはシンプルに黒糖を入れたアングレーズを炊いてゼラチンで補強して固めるといった配合でした。
確認のためにセンターだけを解凍してちゃんと固まっているかをみてみることに。
するとやはりセンターがしっかり固まっておらずに潰れてきてしまいました。

なんてことだど。そのセンターを仕込んだのは自分だったのです。
ゼラチン以外は自分で軽量したのですが簡単な配合だったのでミスしたとは思えませんし、そんな記憶もありませんでした。
じゃあゼラチンがいつもより少なかったのか?
確かにそのセンターを仕込もうとしてた時は急に仕込むことになって時間もなかったのでかなり急いでました。なのでいつもゼラチンを軽量するときは計った人とそれを確認する人との二重チェックをしているのですがその時はしていなかったようなのです。
じゃあゼラチンが原因なのかとも思ったのですが自分の脳裏にはあることが浮かんでいました。

それは実際にアングレーズを炊いているときに、通常アングレーズは配合にもよりますが82℃ぐらいまで温度を上げます。これは卵を殺菌する目的があるのと卵の凝固力を利用するためです。
卵は火を加えていくと凝固していって最終的には卵焼きになってしまいます。82℃付近というのはその凝固はさせるけどそれ以上あげて卵焼きにしないための目安の温度でもあるわけです。
もちろん配合によって卵以外の水分量が多い場合であったり、あるいは卵の割合が多い場合は炊き上がり温度が変わったり、お店によっては状態だけみて判断するお店もあります。
うちのお店のそのルセット(レシピのフランス語です)では棒温度軽で82℃まであげることになっているのですが、その時は80℃まであげてから予熱であげようと思ったのでその時点で火を止めてしまったのです。
しかも予熱では81℃までしか上がりませんでした。
しかしその時は時間がなかったのと焦りもあったのでそのままあげてしまったのです。配合的にゼラチンも入っていたし卵の凝固力も補助的な要素で
たった1℃くらい違くても何も変わらないだろうと思っていました。

しかし実際はセンターは緩い状態で上がりました。
改めてルセットをみてみると他のアングレーズの配合と比べてゼラチンの割合が少ないことがわかりました。
「もしかしたらこの配合はゼラチンをできるだけ減らして卵の凝固力をメインで固める配合だったのかも」
たった一つの手順、82℃まで温度をあげなかったというだけでいつもと違うものが出来上がってしまった。
改めてお菓子の世界は非常にシビアな関係で成り立ってるんだなと実感しました。
しかし、そのシビアな世界を追求していくことがお菓子作りの楽しさでもあります。

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