心の脆さと美しさ|明石覚一
蝉丸の平安時代から、歴史は鎌倉時代を経て室町時代へと進みます。
盲人の中から、「平家物語」などの合戦譚を琵琶伴奏で語る僧侶が登場しました。この芸能は「平曲」と呼ばれ、武家社会から受け入れられ、さらには室町幕府によって庇護されることとなります。
そしてやがて、平曲を奏でるこれらの芸能僧侶たちは宗教組織から独立し、自治的な職能集団として「当道」を結成します。
この「当道」を組織化したのは明石覚一(あかし・かくいち)。文献上では「最初の検校(当道座の最高位)」として現れます。
そんな明石覚一の短歌を紹介します。
・夜の雨の窓をうつにも砕くれば心はもろきものにぞありける 明石覚一
この歌の意味は「夜の雨が窓を打つ音にも心は驚かされてしまう。人の心とはなんと脆いものであろうか。」という内容です。
この短歌を読むと、窓を打ち付ける雨の音が音が心を砕くほどに強く感じられます。それは視覚に依存しない全盲の人だからこその音の感じ方、音の影響の深さなのでしょう。
しかし、この歌は全盲の人の心象だけを描いているのではありません。我々は何かあるとすぐに驚いたり騒いだりしてしまう。そんな人間の心の脆さへの深い洞察を示しています。
雨は人間の心の弱さを象徴しているのかもしれません。そして、心はその脆さゆえの美しいのかもしれません。普遍的な心の姿が雨とともに描かれた美しい一首だと私は読みました。
明石覚一は平曲の普及に大きく貢献し、平曲の黄金期を築きます。また当道の組織化により、盲人芸能者の地位向上に貢献しました。
作品も功績も、今もなお多くの人々に語り継がれている人物です。