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【そもそも~】少し無粋な話をする。:1

人が恋に落ちる瞬間を切り取れば、
世界中の空も海も愛で埋めつくせると思う。

恋に落ちる瞬間は様々だ。好きかもという興味が恋に変わる。本能的に好きだと確信する。今回はシャッターを切るかの様なスピードで恋に落ちた話。


人生でたった数年しかない、大人でも子供でもない時間。私は大学に進学した。地元から離れ、全く知らない土地での新生活。狭い狭い地元から離れた嬉しさは、言葉や空気、その全てが好奇心を擽った。

生活にも慣れた頃、アルバイトをしてみようと思った。アルバイトの求人雑誌から見つけた居酒屋のアルバイト。それがまさか現在に至るまで影響を与える彼に出会うなんて思いもしなかった。そうだな、彼をNとしよう。

Nと出会ったのは初めて入ったアルバイトの日。たまたま早番で一緒だった。三学年上の先輩。無口で無愛想。最初の印象はあまり良くなかった。その時に有線で流れたミスチルの曲を口ずさみながら作業をしていると、急に話しかけてきた。

「ミスチル好きなん?」
「この曲は知ってました」

好きでも嫌いでもない私はこう答えるしかなかった。その日アルバイトが終わった後、

「初日にしては出来てたな」

そう話しかけてきた。私の事気にかけてくれた事に驚いた。無愛想だけど優しいとこあるんだと意外だった。その後に2~3回入った全てにたまたまNは出勤していた。3回目の退勤の時に、

「お前成長してきたやん」

そう微笑みながら私に言って、またなと帰って行った。

この瞬間。私は恋に落ちた。シャッターを切るより早い速度で恋に落ちる瞬間。時が止まったかのような、スローモーションのような。この時の光景は今でも脳内再生できるくらい覚えている。再生回数が表示されるのであれば4桁は行くだろう。この時既に物語のイントロダクションは終わっていたのだ。この瞬間から長い長いNとのぬるく奇縁な物語が始まっていた。


振り返るとこれもひとつの愛だと思う。
この瞬間を切り取って空に投げ飛ばそう。海の奥に錘をつけて沈めてやろう。それで世界が少し愛に満ちるなら、それはそれで意味を持って頭のフォルダに保存できる。

恋愛に意味を見つけるのもまた無粋だけどね。


次のお話はこちらです。

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