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【背伸びして~】 乞うご期待!を気付かないふりして。:2
この恋愛の始まりを切り取るとしたらどこだろう。それはいまだにわからない。それじゃ世界を愛で埋め尽くせないじゃない。
Tと出会って2週間程経った。アルバイトが終わる時間になった時にSから飲みに行こうと誘われた。Sはとてもフレンドリーでアルバイト達のお兄さん的存在だった。翌日は講義が無いし行くか。20歳になってお酒も飲めるようになった私は、飲み会というとフットワーク軽めで行くようにしていた。何か楽しい事が落ちてるかもしれないから。
Sとアルバイト先のマネージャー、アルバイトの先輩と居酒屋に向かった。席に案内されそこに居たのはTだった。
「なんでTちゃんがいるの?」
心の言葉が漏れでる。まさかこんなにすぐまた会えるなんて思ってなかったから。ああ。かなり嬉しそうな声が出たな。自分でもそう気付く位だった。話を聞くとマネージャーや先輩もよく顔を見知った仲らしい。なんとなくTの隣に座った。意識しないようにしても右肩がソワソワする。それを気付かないふりをして覚えたてのハイボールで飲み込んだ。またTとツッコミあいながらゲラゲラ笑って、皆とも楽しく飲んで喋ってお開きの時間。
タクシー代ここからいくらになるかな。学生の身だ。タクシー代は正直痛い。少し酔い醒ましに歩いてからタクシー拾おうかな。なんて考えていたら、
「よると俺方向一緒だから送るわ!」
はい??なんて??でもタクシー代半分になるのはありがたい。行為に甘えよう。
狭いタクシーの中。微かに触れる右肩の熱。なんとなく恥ずかしくなって意味も無く下を向いた。好きになるのかわからない。でも少し期待をしているむず痒さ。またそれを気付かないふりをした無言の車内。唐突にTが言った。
「そろそろ連絡先教えてよ」
思わず驚いてTを見る。連絡先を聞くのにこんなに誠実だった人に初めて出会ったのだ。その場で連絡先を交換して、遠回りになるのに私の家まで送ってくれた。
「ご飯とか誘っていいか?」
別れ際にTは目線を下にしてぼそっと言った。
「しゃーなしやで?」
笑いながら冗談で返す私に、普段ならツッコミをいれるTが少し嬉しそうに笑った。みんなといる時と2人でいる時のギャップに驚きながらその日は帰宅した。
シャワーを浴びてベッドに横になりながらTにお礼のメールを送る。すぐに、またご飯行こなー。と返事が来た。もしかして私を気になってくれているのだろうか。でもこんな年下の小娘なんて相手にされないか。...じゃあ私の気持ちはどうなんだろう。そんな事を瞼の裏で落書きのようにデタラメに書いていく。ぼやけた頭の中では答えなんて出ないし、こんな気持ちは落書きだし捨てようかと思ったけど、一応。一応ね?名前を付けて頭のフォルダに新規保存をした。
恋が始まるかもしれない。この特有のうわずった気持ちは、右肩の熱で自分でもはっきりと感じていた。過去を乗り越え無くても、気持ちの整理が出来ていなくても恋愛をしていいのか。そんな生真面目な自分の少し残った純粋な部分が、チクチクと右肩を刺して「それでいいの?」と耳元で囁く。それを気付かないふりをして目を瞑った。
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