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かもしれない

一体あの子は、どれだけのやりたいことがあるだろう。体が元気だったら。動けたら。歩けたら。病気じゃなかったら。やりたいこと遣り尽くして、めちゃめちゃにがんばってきっと誰より笑って人を笑顔に元気にするんだろう。でも、それは現実で今そうだ。誰より笑ってたぶん見せないけれどきっと泣いてる。泪が出ていなくたって、人は泣いてることがあるでしょう。そう見えないかもしれないけど。誰も気づいてないかもしれないけど。

思う存分、駆け抜けられたらどれだけいいだろう。笑ってるうしろでどれだけの闘っている時間や痛みや症状に心を殺しているのだろう。殺さずにいれたらと殺してきた心がどれだけあっただろう。この先も。かなしいかなもう戻れない。生きて変化している限り知らない前には戻れない。純真は純真だから純真なんじゃない、自分で選び灯した光がきらきら光って純真に見えるんだ。人に光を感じさせるんだ。何もしないで光っていられたらどんなにか。どの道そちらへは進めないし、私には選べなかった。闇に足元から浸り、巣食われ、歩いた先は闇だった。でもだから、自分の中の小さな光にも気づけたのかもしれない。螢のような。弱々しい小さな揺れる緑と黄色と透明の光。色が合わさったように光って揺れる頼り無い耀があることを。これはきっと、光だね。泪が零れそうになった。この光を内に潜ませて、希望の光を作ってきたんだろう。無理やりきらきらと光らせた部分もあるよ、掲げる光にしたいから。強がりなのか引くに引けなくなった意地なのかそういう癖なのかそうでありたいからなのか私は光を掲げたかった。光を掲げて光りたかった。光になりたかった。自分そのものが、眩しいくらいに光って消えるならそれは本望だ。そうさせてくれるのなら。歩いてる、笑ってる、走ってる、泣いてる、慈しんでいる、微笑んでいる、怒っている、どうしようもなくやるせなく立ち尽くしている、立つことができないでいる、言葉を失っている、光を見ている、希望と呼ばれる灯が灯った。暗闇にいる、ぬくもりを感じる、哀しみを感じる、笑顔でいたいけど泣きそうだ。

さよならを告げる。

一体、何にさよならを告げると思う?私は私にさよならを告げ、また私に会いたい。私に会いたい。「一秒ずつ死んで生まれるね」あの人そう言ってた。「ほんとは動いてる、今しかないんだ」って。「あとは全部死骸と化石と破片と欠片と飛び散った血。生き様なんて言葉で言う人もいるみたいだけど、そんな三文字で言えるものじゃないね」彼は続ける。「死んで生まれてまた死んで、生まれて死んでまた生まれる。君から生まれた無数の感情が毎秒生まれて、ちゃんと死んでる。死んだそばからまた生まれていて、ちゃんとまた死んで君からまた生まれる」ね、そうでしょ?って私に表情で語りかける。あの人の光はまぶしい。なんて美しいんだろう。やさしい目をしていた。

「ちゃんと、死んでちゃんと、生まれてる。」私はつぶやく。なんだか安心してしまった。安心なんて味わったことがない。どうすればいいのだろう、こんなに胸がほっとする安心をしてしまって。うっかり涙がこぼれそうだ。「ちゃんと死んでちゃんと生まれてるのか」つぶやくように繰り返しながら、私は解ったような、わからないような不思議な感覚になる。不思議だけど、悪くはないような気がする。あの人を思い出す。ちょっと下を向いて横を見て私から視線を逸らし、そのあと照れくさそうに笑って「ね」ってこっちを見て笑ったあの笑顔を思い出す。あの顔は照れているのかもしれない。かわいいと思った。私はひとりちいさく笑った。

photo by クマキチ


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