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【日常】魔法使いにはなれないので、願います

 午前零時に近所のスーパー(ありがたいことに24時間営業である)に行ったら品出しの最中で、気分転換にここへ来た私は特に何を買うという目的もなく、気の向くまま店内をウロウロ見て回っていた。

 しばらくすると、突然何かが崩れるザザーっという音が。見るとちょうど視線の先、詰まれた段ボールのひとつが倒れ、卵のパックが雪崩れ落ちている真っ只中だった。
 いくつもの商品の入った箱がある中で、よりにもよって卵とは。10個入りの、しかもあれは普段眺めるだけで私が一度も買ったことのない、少しいいお値段のものに違いなく。
 容赦なく、あっという間に通路を埋めた卵パックを前に立ち尽くすパートさんの背中が凍っていくようで、自分がそれをやってしまったみたいに胸が
ぎゅっとなってしまった。

 魔法使いならよかった。そうしたら浮遊魔法か復元魔法を唱えてなかったことにできたのに。日中いらっしゃる方々もだけど夜勤のパートさんたちも皆さん親切で、車椅子ユーザーの私はいつもとても助けられているから。
 すぐに別のパートさんが駆けつけて片付けをしていたけれど、箱を倒してしまった方の動きがぎこちないように見えたので、凍った背中を溶かす温熱魔法の呪文も追加して、おそらく瞬間的にキンと張り詰めてしまっただろうこころもほぐせたらよかった。

 無事なパックがひとつでも多くありますようにと、せめてそれを願うばかり。失敗から学ぶことはたくさんあるし、やらかしてしまったからこそ気づくこともそりゃあるけれど。
 誰かの背中が凍ってしまう瞬間を初めて目の当たりにした気がして、そのアクシデントは今日どうしても必要だったんですか神様ー! と思わずにいられない。

 私もあなたも、知らない誰かもみんなみんな、今日もお疲れさまでした。布団に入ったら、一分でも深く長く眠れますように。そして目が覚めたら、朝ご飯をおいしく食べられますように。
 

 
 

 


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