オレンジの音色(閉鎖病棟日記⑦)
同室のその人は、いつも泣いていた。
シクシクなんてものではない。
声をあげて、それはもう、おいおいと泣くのだ。
ナースコールを連打し、泣きながら看護師さんに気持ちを吐き出すその声を聞いていると、私も胸が痛んだ。
声を抑えきれないほどの苦しみが、彼女の中には渦巻いていたんだろうと思う。
ある日の夕方、
作業療法室からピアノの音が聴こえてきた。
同室の彼女だった。
クラシックから始まり、合唱曲、アニメの主題歌まで、滑らかに動く指先がその音を奏でていた。
窓から夕陽が差し込み、彼女のことをオレンジ色に照らしていた。
ピアノの音を聴き、自然と他の患者も集まってきた。「すごいね」「上手だね」と言いながら外から見守っていたら、看護師さんが「中に入っていいですよ」と声をかけてくれたので、部屋に入り聴かせてもらった。
曲が終わった時、気が付いたらその場に居た全員が拍手していた。
ずっと泣いていた彼女は、照れくさそうに笑った。あの空間が温かかったのは、窓から差し込む光のせいだけではなかった。
この幸せを、
いつまでも噛み締めていたいと思った。