【映画】ゾンビーワールドへようこそ
ゾンビものの作品って、だいたいシリアスな印象が強いんですが。
『ゾンビ―ワールドへようこそ』は、コメディ多め。
ちゃんとシリアスしているのに、5分も息を呑んでいなければならないようなガチなシーンはごくわずか。
むしろ5分にも満たないかもしれません。
コミックリリーフ(緊張を和らげるための人物や場面)の絶妙さ加減が上手いな、と。
例えば、最初のシーン。
物語の始まり。
ゾンビが世に解き放たれるきっかけのシーン。
コメディを織り交ぜたシリアスを見せながら、この作品の世界観や雰囲気をしっかり提示してくれます。
舞台はどこぞの研究所。
ヘッドフォンをつけて音楽を聴きながら掃除に勤しむ(?)清掃員が、やらかします。
「なにも触るなよ」と研究員に言われつつ、安置してある被検体らしき人物を覗き込んだら一瞬動いて、驚いた拍子に近くの機器にぶつかってしまって。
心臓の動きや血流を見るためのエコーが、「ピー」と心音停止の電子音を鳴らして、さらにパニクる清掃員。
慌てて心臓マッサージに取りかかろうと馬乗りに。
人工呼吸をしようとして、息がめちゃくちゃ臭いからとミントタブレットをドバドバ放り込んで、むしろとどめを刺しにかかる始末。
挙句、人工呼吸を諦めて心臓マッサージを再開したら、みぞおちあたりが破れて両手がドボン。
ここでいよいよ、ゾンビが覚醒。
「なにも触るなよ」と言った研究員は、清掃員と入れ違いに研究室の外へ。
やらかした清掃員があたふたやっている間、自販機が紙幣を突き返すわ、品を落とさないわで、どうにかしようとひたすら格闘。
研究室はガラス窓がついているため、外から中が見えるものの、音が通らないほど分厚いか、そんな構造をしているかで、清掃員の様子にはまったく気づかない。
とにかく騒がしい清掃員と、自販機と格闘する研究員の視点でお互いを見る光景は、なかなかシュールでした。
被検体がゾンビとして覚醒した後、逃げる清掃員を追いかけるんですが。
後ろで惨事が繰り広げられていても、まったく気づかない研究員。
結果、ゾンビとなった清掃員にやられて、同じくゾンビに。
と、清掃員がコミックリリーフとして機能しつつ、カメラワークでもシリアスなシーンをコミカルに見せていて、観客を引き込む構成としては素晴らしかったです。
ここからいよいよ本編へ。
ボーイスカウトの高校1年生3人と、ストリップクラブのウェイトレスという異色のパーティとゾンビの戦いが描かれます。
本作が面白いと感じたのは、コメディ要素が多いから、というだけではありません。
ストーリー構成やキャラクターづくりが分かりやすくて、しっかりしています。
ハリウッド映画の脚本では定番とも言われている、三幕構成。
第一幕、第二幕前半、第二幕後半、第三幕と、大きく分けて4つの展開で構成された脚本術ですが。
本作はこの三幕構成にしっかり当てはめてストーリーが作られていました。
ボーイスカウトの3人の内2人・ベンとカーターがストリップクラブでゾンビとの初遭遇を果たし、ストリップクラブのウェイトレス・デニスと仲間になる第一幕(第1ターニングポイント)。
ベンとカーターが、仲違いをして別れたオーギーと合流する第二幕前半(ミッドポイント)。
ベンが想いを寄せている女性であり、カーターの姉であるケンドルを救出しに向かう第二幕後半(第2ターニングポイント)。
ベン、カーター、オーギーが、この作品のテーマに対する答えを明らかにする第三幕(クライマックス、フィナーレ)。
また、キャラクターづくりについても、各登場人物の属性や特性、対比が際立っていました。
ベン、カーター、オーギーは、みんなにださい、しょぼいと見られていて、興味すら持たれないボーイスカウト。
ただ、長年続けてきたスカウトの経験から、困難を乗り越える、脱するための知識や技術を持ち合わせています。
デニスはストリップクラブでウェイトレスとして働く(働いていた)、気が強くて背の高い、年上お姉さん。
パンプスの底上げを引いても、目線が男子3人と並ぶくらいにすらっとしています。
言葉遣いは荒いし、平気で散弾銃をぶっ放すし、ゾンビを銃で殴るしと、とにかくアグレッシブ。
ベン達とデニスの属性こそ正反対ですが、ふとしたときに息のあった動きを見せて、コミックリリーフとして機能している場面がよくありました。
この作品の、コメディとしての面白さはこれだと思います。
キャラクターとしては対立しているのに、絡むと笑える、みたいな。
映画作品として、三幕構成という基礎にしっかり則りつつ、シリアスにコメディを絶妙に織り交ぜている本作。
明るいホラーとか、笑えるゾンビものという仕上がりなので、そういうのが好きとか、そういうのを観たいという人にオススメのタイトルです。
アマプラでは『18+』表記があるので、気にする方は気をつけていただければ、と。
では。
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