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【映画】ドント・ハング・アップ

 ちょっとしたイタズラが、あらゆる人の命を危険にさらす――
 そんな教訓をコンセプトとして感じる、まさに怪作とか奇作なんて呼びたくなる作品で。
 こういうストーリー展開はあまり見ないな、と思った映画でした。

 なかなか際どいネタバレをします。
 それ目的でこれを書こうと思った次第です。
 なので、ネタバレが嫌、苦手という方は、自己責任でぜひ読んでください。

 始まりは、午前3時23分にかかってくる1件の電話。
「こちらは警察です。
 ――その場から動かないでください。
 我々が包囲していますので。
 ――もしその場から動けば、お子さんが危険な目に遭いますよ。
 ――侵入者です。
 おそらく2人。
 あなたの家の中に。
 ――そこから動かないで!」

 ホラー映画で、「動くな」「じっとしていろ」と言われてじっとしているモブキャラはいません。
 家に侵入者がいると言われて、子どもの安否を心配した母親はパニックに。
 部屋から出ようと、スマホを耳に当てたまま慌てふためきます。
 指示に従って、身の安全を確保したところで、電話の向こうで異変が。「……待て、撃つな! 子どもがいた!
 ――容疑者を確保した!
 女の子に医療班を呼べ!」
 不安に駆られた母親は、スマートフォンを放り投げて、部屋の外に。
「……お伝えすることがあるんです。
 残念ですが、これ全部ウソなんだよバァーカ!」

 カメラは切り替わり、「フォーゥ!」「やったな!」と歓喜してハイタッチをする4人の少年に。
 イタズラ電話でした。
 どこの誰とも知らぬ相手の危機感と恐怖感をあおりにあおる、イタズラ電話。
 さらに、その様子を撮影してSNSにアップして楽しんでいる始末。
 胸糞ですね。

 イタズラ電話を仕掛けていた4人の名前は、サム、ブレイディ、イタズラモンキー69(ロイ)、モーズリー。
 その中の2人、サムとブレイディが本作のメインキャラクター。

 ブレイディは本当にイタズラ電話が好きで。
 近所の家宛てにピザのデリバリーを頼む、なんてことも。
 サムは、付き合っている彼女のペイトンとの仲が悪くなっていることに悩んでいて。
 落ち込む彼を見たブレイディが、景気づけにとイタズラ電話をしようと勧めます。
 それに悪乗りするサム。

 やがて、
「楽しんでるか?
 イタズラで恥をかき苦しんでる人を笑って、自分にはすごい力があると感じていたに違いない。
 そろそろ私がそこにいってそのドヤ顔ができないようにする頃だな」
 と、これまでのイタズラ電話の被害者達とは違った反応を見せる男の声が。
 ブレイディが電話を切るものの、少ししてから同じ男から折り返しが。「これから実に刺激的な夜を過ごせるぞ。
 なにがあろうとも……電話は、絶対、切るな」

「電話を切るな」と言われて切らないままにしておくモブキャラはいません。
 ――おっと、今回はメインキャラですが。
 ともあれ、ブレイディはもちろん、またしても電話を切ります。
 その後、さらにしつこく着信が。
 さらにさらに、この男、なぜかブレイディについてよく知っています。
 非通知でかけた電話の番号、フルネーム、住所、自宅の目印、今どこにいるか、近所の家にピザのデリバリーを送りつけたこと。

 男の電話が切れた後から、異様な出来事に見舞われ始める2人。
 頼んでいないピザを届けに来るペイトン。
 ブレイディのスマートフォンに送られてくるメッセージ。

 そして動画。
 そこに映っているのは、椅子に縛られて監禁されているブレイディの両親。
 ノートパソコンの画面に映し出される、サムとブレイディのリアルタイムな盗撮映像。
 突然画面が映り出すテレビ。
 流れ出したのは、謎の男に窒息させられるイタズラモンキー69。
 裏口で見つかる、凄惨な状態のモーズリー。
 車に乗ろうとするペイトンに近づく様子を映した動画。

 2人の身近な人達が襲われて。
 さらに、ブレイディが隠し持っていた、あまりにも残酷な秘密が暴露されて、サムが激昂。
「ずっとダチだ」とビールを乾杯した2人の関係に、大きな亀裂が。
 徐々に、少しずつ、じわじわと、謎の男に追い詰められていくサムとブレイディ。

 さてさて、ネタバレです。

 この先に、救いはありませんでした。
 落ちて、落ちて、ひたすらに、ただひたすらに落ちていく物語でした。
 イタズラ電話を楽しむ少年達が、ひどい目に遭い、やがて取り返しのつかない結末を迎える。

 ヘッダーで『ざまあ系ヒューマンホラー』と書きましたが。
 なんとこの作品、『主人公ざまあ系ヒューマンホラー』でした。

『ざまあ』というのは、割と最近の表現でしょうか。
 ストーリー展開としては昔からありましたが、ここ数年でこの呼び方が認知されてきたような気がします。
 あくまで私見ですが。

 発端は、小説家になろう。
 いわゆる、なろう作品。
『ざまあ系』の傾向としては……
 主人公がパーティやグループ、国を追放されて。
 でも主人公には隠れた才能があったり、追放されたことで開花する能力があって。
 主人公は秘めた才能や開花した能力で成り上がる傍ら、追放した側はどんどん落ちぶれていく。
 というのが主流でしょうか。

 つまり『ざまあ系』は、主人公より高いポジションにいる敵や悪役が落ちぶれていく様を楽しむストーリーですが。
 本作『ドント・ハング・アップ』は、主人公達の落ちぶれていく様を楽しむストーリーなのか、と。

 プライムビデオでの評価は3.3(この記事を執筆当時)と、低すぎず、高くもない、ヒューマンホラーとしてはまあまあよさげな感じ。
 ……にしても、よくこの脚本が通ったな、と思います。
 ゆえに、怪作というか、奇作というか。

 ちなみに、なぜ男がサムやブレイディ、そして2人の身近な人達を襲ったのか。
 いわば因果応報。
 バタフライエフェクトとも私は言いたい。

 男の凶行の理由はなにか。
 そもそも男は何者なのか。
 真相については、ぜひ本作を観てもらえれば、と。

 では。

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