ジョージ・オーウェルの記念硬貨
ウェールズの私の家から車で(飛ばして)十分のところにイギリス唯一の王立造幣局(Royal Mint)があります。「mint」には、あの植物のミントだけでなく、「造幣局」という意味もあるんです。「(貨幣)を鋳造する」という動詞でもあります。ちなみにそこからの派生だと思いますが、「in mint condition (中古品が)新品同然の状態」や「be minted(お金持ち)」といった表現もあります。
先日、そのロイヤル・ミントがイギリス人作家のジョージ・オーウェルの記念2ポンド硬貨を発売したというニュースを目にして、早速、ホームページに見に行きました。小説『1984』がモチーフですごくかっこいいんですよ!
ざっと『1984』を紹介しておきますと、舞台はビッグブラザーと呼ばれる独裁政権の監視・統制下に置かれた近未来(小説の発表が1949年で、舞台設定が1984年)の国。家の中も外も監視カメラで見張られ、歴史は改竄され、ニュースだけでなく娯楽も何もかも統制されている。それだけでなく、複雑で論理的なな思考ができないように言語の改変や簡略化まで行われている。徹底的な思想コントロールのおかげで国の言うことを信じ込んで幸せに生活している庶民も多い、そんな世界。でも、そういう世界でもやっぱり「ん? 何かおかしいぞ」と思う人間というものは出てくるもの。本書の主人公もそんな一人で、体制に不審を抱き始め、徐々に反体制的な地下活動を始めていく……というお話。(うろ覚えです)
今回、鋳造された硬貨はビッグブラザーの監視カメラがデザインされていて、レンズ部分には有名な作中の文句「Big Brother is watching you.」が刻まれています。
ちなみに『1984』はテクノロジーを駆使した監視社会をいち早く予見したディストピア小説の傑作として評価が高いですが、ある調査によると、「読んだことがないのに読んだと嘘をついたことがある本」というアンケートで一位になったんだそうです。わかる気がします。教養人の必読書みたいな扱いだと、読んでないと言いづらいですよね。
でも、別の調査では『不思議の国のアリス』が一位だったそう。日本でアンケートを取ったら何が一位になるんでしょうね?
ところで、このオーウェルの記念コインの話を知人にしたところ、「この本あげるよ」とオーウェルの『Animal Farm(動物農場)』の小説の本をくれました。
こちらはSFではなく動物たちが主人公の寓話。農家で飼われている豚二頭が、他の家畜や犬やニワトリなどの動物たちを「同胞たちよ、自分たちは何も生産しないのに、我々が生産するものを搾取するだけの人間を追い出そう!」と煽動して革命を起こしたはいいけれど、人間を追い出した後は、リーダーだった豚たちが今度は独裁者になるというお話らしい。オーウェルはこの作品について、基本的にはロシア革命とその後のスターリン独裁を風刺した作品だけれど、他の同種の革命にも当てはまることだと述べ、次のように続けています。
目を光らせていないと、自分たちの代弁者・救済者として出てきたはずの英雄が独裁者に変貌するのは大いにありうるーーポピュリズムがはらむ危険ですね。
オーウェルにはスペイン内戦で外国人義勇軍として人民戦線側で戦った経験を綴った『Homage to Catalonia(カタロニア讃歌)』という作品もあって、そちらもそのうちに読みたいなと思っています。
(こっそり報告:ミルの本もトクヴィルの本も両方まだ読了できていません。計画倒れになりました。)