「原っぱのわすれもの」 木村研
原っぱに、花もようのハンカチが落ちています。
「あの子が忘れたんだわ」
そばで咲いていたタンポポがいいました。
さっきまで、おままごとをしていた女の子を思いだしたのです。
「いまごろ、探しているだろうな」
そう思うと気がきではありません。
そのとき、いぬがきました。
いぬは、はなをくんくん、ハンカチのにおいをかいでいます。
「だめよ。それ、あなたのじゃないでしょう」
タンポポがおこると、いぬは、プイと横をむいて、どこかにいってしまいました。
しばらくすると、ちょうちょが飛んできました。
ちょうちょは、一ぴきや二ひきではありません。後からあとからとんできます。
「あんたたち、それって、ほんとうの花じゃないんだから。早く、あっちにいきなさい」
タンポポがおこっても、ちょうちょは知らん顔。ひとやすみをして、どこかに飛んでいってしまいました。
「あーよかった」
たんぽぽがそう思ったとき、
「あーよかった」
と、だれかがいいました。女の子です。
あの女の子が、立っていたのです。
女の子は、
「ありがとう。わたしのハンカチを、みはっていてくれたのね」
と、タンポポにお礼をいって、お母さんの待っている土手のほうに走って行きました。
あたたかい春のことでした。
(作者のことば)
うちの前の土手にすわっているだけでも、花や虫とお話できますよ。友達と遊ぶのは、もう少し待ってね。