死にたい夜に効く話【18冊目】『動物たちは何をしゃべっているのか?』山極寿一、鈴木俊貴著
以前読んだ新聞記事のことが、ずっと気になって仕方がなかった。それが、鳥の鳴き声に文法があることが発見された!っていう内容。
ちなみにわたしは学生の頃、文法というものが実に好きではなかった。
現国も古文も英語も文法絡みの話は全てなんとなくでやってきた。なんとなくでやって、なんとかなってしまった。
考えるな、感じろのスタイルである。
そんなわたし、どうやら鳥業界の文法なら勉強する気が起きるらしい。
『動物たちは何をしゃべっているのか?』
ゴリラと2年間森で暮らしてきたゴリラ研究の第一人者である山極先生と、一年の半分以上を長野の山で過ごして、シジュウカラの鳴き声に文法があることを発見した鈴木先生による対談本。
シジュウカラが文法を持っていることを証明した実験内容や、動物たちの言葉・コミュニケーションについて、動物からわかってくるわたしたち人間の問題など、話は盛りだくさんだ。
動物を研究している人っていうのは、どこか研究対象の動物とドライな距離感を保ってるようなイメージがあったけど全然違った。
お二人のお話は、動物たちへの愛が爆発していた。
自分は動物あんまり詳しくないからなぁ、って気分で読みだしたけど、動物の知識がどうとかそれ以前に、これまで大半の人類が抱き続けてきたであろう考え方そのものをひっくり返された。
人間の方が動物より賢いっていう先入観。
考えてみたこともなかったけど、言われてみればたしかにおかしな話だ。
昔飼ってた犬は、誰に教えられたわけでもないのに、空気を読むのが異常に上手かった。家庭という名の集団生活の中で上手く立ち回っていく様子を見て、コミュ障だった学生時代のわたしは、世渡りの術を学んだのである。
人間の世界の見方を基準に考えてしまうと、都合のいい解釈をしているだけになってしまう。
動物によって、世界の見え方はまるで違う。
山極先生はゴリラになって、
鈴木先生はシジュウカラになって、
同じ世界を共有しようとする。ていうか、すでに共有しちゃってる。
そうして、動物と人間の持つの能力の違いを明らかにすることによって、人間ってのがどういうものなのかが見えてくるっていうのは面白い。
鈴木先生は動物言語学という新たな分野を拓いて、東京大学に研究所を立ち上げたということだけど、後を追いかける若者たちがこれから出てくるのかと思うと胸熱だ。
ゆる言語学ラジオでは、この本のことについてもたくさん触れている。パワーワード頻出。
最近、久々に体調を崩して寝込んだ。安静にしている間、この本や動画を見ていたわけだけど、これが意外と悪くない。ていうのも、動物の世界の話を聞いていると、人間の世界だけで完結してしまっていた自分が、なんて頭ガチガチになってたんだろうと気づいたから。
世の中、暗いニュースばかりで気が滅入ってしまっていたけれど、まだまだ知らないワクワクする世界があるのだと思うと、体力も消耗して弱々になっていたメンタルも、ちょっとだけ元気になった。
病み上がりの仕事初日。うわーん、仕事行きたくないよぉ、と一人プチ絶望しながら玄関を開けたら鳥の声がして、「シジュウカラ!!」と思わず当たりを見回してしまった。
ついにわたしもシジュウカラの声がわかるようになってしまったか…!!(あんだけ動画見てたらな)
謎の満足感とちょいと爽やかな気分になれた。
サンキューシジュウカラ…なんて言ってるかはわからんけど。
〈参考文献〉
山極寿一、鈴木俊貴『動物たちは何をしゃべっているのか?』集英社、2023年