ピッカリコニカ!(連載「写真の本」 1 )
アパートメントやシミルボンで文章書いてますが、僕は本来は写真を撮る人です。
これから12回にわたって、僕に影響を与えてくれた写真家や、写真を語る人たちの本について紹介してみたいと思っています。
第1回目は増山たづ子『ありがとう徳山村』。
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まずは11年前、僕が某日記サイトに書いた記事を転載。
この文章書いたのが2006年3月7日。
ちょうどその日、岐阜の病院でその増山たづ子さんがお亡くなりになっていました。
ナフシャのマリさんから連絡をもらって知りました。
僕が増山たづ子さんを知ったのは江坂のクレヨンハウスで見た1冊の写真集でした。
岐阜県・徳山村に日本最大級のダムが建設される話が持ち上がり、ダムの底に沈む故郷の村を写真に残そうと60才を過ぎてから初めてカメラを持った増山たづ子さん。
町のカメラ屋に、素人の自分でも写せるカメラはないかと相談し、「だったら猫が蹴っころがしても写るカメラがあるよ」と教えてくれたピッカリコニカを購入。
ここから、増山さんは猛然と徳山村の姿を写真に記録し始めます。
その数、10万枚!
村の暮らし、人々の笑顔、涙、山、村を去る人、残る人、切り倒される桜の古木・・・。とにかく圧倒的で感動的な、奇跡のような写真たち。
(この文章の最後にIZU PHOTO MUSEUMで開催された回顧展のプレスリリースへのリンクを貼っています。一部写真が紹介されていますのでぜひ御覧ください)
その写真集に感動し、即座に買おうと思ったんですが、そのクレヨンハウスに1冊だけ残っていた本がかなり傷んでいたので、別の本屋で綺麗なのを買おう、と買わずに帰ったのが運のツキ。
以来どこの書店でも見かけず、クレヨンハウスからも消え、「汚くても買っておけばよかった・・・」と猛烈に後悔したのでした。
その『ありがとう徳山村』は当時すでに廃刊だったのでもう入手できなかったのですが、同じ影書房から新編集版として『増山たづ子・徳山村写真全記録』が、しばらくして出版されました。
しかし写真集の編集の良さなど、どう考えても前の『ありがとう徳山村』の方が上に思えるのです。増山さん自身がつけた写真のキャプションも新版では大幅にカットされていたし。
あのキャプションが良かったのに・・・。
『ありがとう徳山村 増山たづ子写真集』
増山 たづ子
影書房
1987
『増山たづ子徳山村写真全記録』
増山 たづ子
影書房
1997
しかし、前のはもう手に入らないのですから仕方ありません。新編集版を買って、それで我慢していたのです。
ところがその旧版の『ありがとう徳山村』が、ナフシャにあったんですよ。自由にお読み下さい、の本棚に。マリさん個人の蔵書です。
もうナフシャに行くたびに、必ず読んでました。
マリさんもこの写真集に出会って、自分も写真を撮ろうと思ったのだとか。
「僕もこの旧版の写真集探してるんやけど、見つからんのですよ」
「私の宝物やからねー。あげへんよー」
「(わかってますって)」
そんなナフシャで、増山さん本人を招いて徳山村の写真展を開くという、夢のような企画が。
会場にいらした増山たづ子さんは、本当にパワフルな、魅力的なお婆さんで、話術も見事で講演は爆笑の渦。
10万枚の徳山村写真を撮ったピッカリコニカも触らせてもらい、おまけにそのピッカリコニカで写真も撮ってもらいました。もう感激、感激。
その後、インターネットの検索で全国の古書店を探し回り、ようやく旧版『ありがとう徳山村』を入手しました。クレヨンハウスにあった本くらいボロいです(笑)。今ならAmazonで簡単に探せるんですがねぇ。
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2006年3月、その増山たづ子さんが亡くなりました。享年88歳でした。
肝心のダムの工事は、徳山村が廃村になり地図から消えたあとも中断放置されていましたが、2008年にようやく工事が完了。
増山さんの10万枚の写真を残して、徳山村は水の底に沈みました。
みなさんも増山さんの写真集をぜひご覧になってください。上記2冊は入手できるかどうかわかりませんが、最近新しく『すべて写真になる日まで』と題された新編集版が発売されています。
『増山たづ子 すべて写真になる日まで』
増山 たづ子/小原 真史/野部 博子
IZU PHOTO MUSEUM
2014
写真って何なのか。頭を殴られるほど衝撃を受けること間違いなしです。
カメラやレンズが何だとか、技術が何だとか、デジタルかフィルムか、とか。
そんなもの、写真には何の関係もないんだ。
増山さんが亡くなり、増山さんにお会いしたナフシャもなくなった11年前。
ものすごく凹んだことを思い出します。
『僕の村の宝物 ダムに沈む徳山村山村生活記』
大西 暢夫
情報センター出版局
1998
https://www.buffet-museum.jp/wp-content/uploads/2023/09/d852528f92187493f92d3af11dc81d33.pdf
( ↑ 2013年に開催された回顧展)
(シミルボン 2017.4.26)
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