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踊るには理由がある

 ちょっと面白かった話。百貨店の化粧品カウンターでのこと。ちなみに自分のメインの仕事場の真ん前に某百貨店があるので、帰りがけなどにそこによれば一番らくなのだが、あるブランドにおいてはとても信頼している美容部員さんがいる店舗が少し離れたところにある。この数ヶ月、重要任務をあてがわれ多忙を極めていたこともあり、ついついその方の店舗に向かう体力がなく、目の前の店舗で済ませてきてしまっていた。きのう、やっと状況が落ち着いたこともあって、その店舗を目指して自宅のある駅も通過して訪れた。

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 つい少しの間不義理をしていた記憶でいたら、なんと最後に訪れたのが5月だったと言われておののく。時間、さいきん早くないですか?
 ひととおり本題のスキンケアの話をし終えて、ふと見たらその海外オーセンティックなブランドにおいても日本人タレントを起用していることに、ほんの少し意地悪心が働いて口を出した。

「●●●(そのブランド)さんにはやってほしくなかったな~。やっぱりブランドの世界観に合っていることを重視すると外国人のこれまでのイメージでよかったのに~」と言ってふと左のブランドのカウンターを見遣ると、男性アイドルがいた。「わからなくもない反面で、化粧品はやっぱり夢の世界でいてほしいから私は憧れを投影できなくて最近のトレンドはつらいなぁ」とつぶやく。すると、
「わかります。けれどあれば、“推しカツ”なんだそうですよ。つまり、化粧品ブランド云々の前に、いえもちろんそうした観点で人選してはいるはずですが、その前に起用されるブランドをタレントを推す流れで購入する傾向からなんだそうです」と言われハッとした。

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「!!なるほど…!!合点がいったわ。推しカツの一環で買うのか…。背景や理由を理解したとしても、なんだか悲しく思ってしまうのは私が旧いマーケティング観を叩き込まれた人間だからなのね」。
 いやーなるほどでしかない。

 「昔話でしかないんですが、私があるファッション誌の担当だったときに、表紙モデルを外国人から日本人に変えたんですよ。ある理由があって。そんで、ロイヤル読者を集めてグルイン(グループインタビュー)したんですね。私たちはマジックミラーの後ろでその意見を聞いているわけ。そうしたら、読者たちが日本人を表紙に起用したことに激怒していて笑。
 『あんなどこの馬の骨ともわからない!』とかって、要するに名前も知らない外国人モデルの方が、架空というか憧れの世界に自分を投影できたという。でも今は、もうまったく違うセオリーがマーケティングで動いてるってことを痛感できましたよ…」と話した。すると、

 「ネットだけでなくフリマも含めて、欲しいと思った瞬間にモノが手に入って、手に入れ方はどうでもいい、モノが得られれば。となっていくとマーチャンダイジング、特に百貨店の実店舗とかは推しカツの要素を存分に打ち出すことは避けられないでしょうね」と、その方はおっしゃった。

 そして話が戻って、最初に私が指摘したそのブランドの起用タレントにおいては、そのようにしてトレンドのマーケティングから見た場合、消極的な選択肢からすると最高の人選に見えてきたのだった。

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 自分もモノを買うし積極的な消費者であるが、モノを売るためのマーケティングというのはずいぶん前に悲しさしか感じなくなって退いた。本質論以上に、時代にどう選ばれるか、時代とどう足並みをそろえるかってことが「買わせる決め手」になるという世界で、消費者はいつも狂乱のダンスに明け暮れている。

 フォーカスされる世代が移り変わり、ピンスポットを浴びるダンサーが入れ替わる。ダンスに存分に酔いしれることのできる舞台美術は、常に時代の色を反映している。

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