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バナナの放流
木曜日。表面に黒い斑点が見られることがありますが品質には問題ございません、としか袋に書かれていないので、精巧な切子文様の黒線が張り巡ったバナナを食べていいのか分からない。
「バナナの皮ね、軸ごと背中側にめろっとむいて、手前に残ったやつは左右にむくの」
同じく菊繋ぎ模様の浮かびあがるバナナを三等分にむいたサトウさんが、軸のついた皮を白い果実にかぶせ直して「ほら。イルカに見えるでしょ」にっこりと笑い手を離す。リビングの床に落ちたバナナが水面の細かに砕け散る音を上げて、沈み込んだり跳ね出たりしながら、フローリングを泳いでゆく。