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九回裏
木曜日。鼻やらおしりやら隅々まで眺めたのでとっくに気は済んでいるけれど、隣のカップルの別れ話がいよいよ佳境に入ってきたので、ゾウ舎の前から離れたくない。
「女が怒るときってなぁ、たいがい淋しいときやねん。ちなみにな、あたし今な、ぜんぜん怒ってへんから。一ミリも、怒ってへんから」
昔話を読み聞かせるような口ぶりで女が言う。長い鼻を振り回しながら、ゾウがのしのしと歩いている。微動だにしないカップルを横目に見て、男のターンにわくわくしながら、ふたりの邪魔にならないよう、いっそう自分の気配を消す。