不二家で壺焼
金曜日。予約したケーキを取りに行くと「苺が手に入らず申し訳なく存じます」パティシエが遠慮がちに見せてきたショートケーキの中央に大ぶりの栄螺があしらわれている。
朝獲れだと言うのですぐにでも食べたい。持ち歩き時間を尋ねてきたパティシエに「0分で」と手を合わせると、ショーケースの上に皿と竹串が並べられケーキに火がつけられた。正方形の箱の中で生クリームがメラメラと燃えて、栄螺のしんとしていた蓋の端からふつふつとあぶくが立ち始める。
レジ横に立つペコちゃんの頭を撫でながら香ばしい磯の香りを胸いっぱいに吸い込んで「さいこうの誕生日です」心を込めて伝えると「とんでもないことでございます」パティシエがケーキ用トングで挟んだ栄螺に、うやうやしく醤油をさしてくれる。