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【カオリ】海辺のカンバス

遠くから聞こえる笑う声

徐々に近づいてくるそれと

風を感じながら

はたと頭をひね

道に迷ったのだろうか

ここは一体

ボクは一体

沢山の声はボクを楽しそうに通り抜け

駆けて行く

わすことのない視線に

ボクはただただ透明のよう

道を訪ねることも出来やしない

いいさ 帰るつもりもなかったボクだ

眼前に広がる海でも楽しむさ

柔らかくほほを撫でる風は感じれるくせに

しおの匂いは感じれない

なのに潮を知っている

こんなボクにお似合いの色を見つけよう


途切れる波


一瞬の静寂に慌て振り向くと

ひたすら足元に視線を落とし

歩き慣れたであろう道を踏みしめ

ボクの横を通り過ぎる

キミを見つけたよ

幼さを含む笑い声達の視線は

しっかりとキミを捉えているのに

ボクと同じにするものだから

ボクはこの場で生まれた

ドロリとしたそれを浴びせたくなったんだ

なあ いいだろう

なのにキミは

ひたすら海を見つめてる

笑い声もボクも放ったらかし

同じ歩幅で砂浜へ

慌てて追う 砂のあと

心地良い水と砂の音

ピタと砂の音が消えたんだ

グシャと鈍い音を一つ鳴らし

皮革の黒は砂まみれ

やっと顔が見えたのに

そんな苦しそうにしないでおくれよ

ねえ 一緒に水際で戯れようか

全て忘れて

望むなら

あの夕日の麓も目指そうよ

うずくまるキミに

無理矢理作った見えない笑顔

途方に暮れる水平線は

いつかの夢を呼び起こす

そうか ボクは

キミを見護みまもる透明か

キミのとなり 腰を下ろし

大丈夫 守る

ささやきながら

ふわりとした髪をいつくしもうと

ぎこちなく手を伸ばす


現れるまんまる黒曜石こくようせき

刹那せつなボクに色をつける


立ち上がり

光を灯す そのひとみ

もうボクが分からない

触れ合うこともやっぱり無理で

それでもキミも思うことがあるのでしょう

砂まみれから

ノート取り出し描き紡ぐ

キミの紡ぐものも見えないボク

話し相手すらなれないボク

音にならない音を作り

波打ち際に現れた彼女

気付いては

「迎えに来たの?」

言った自分に頭を捻り

彼女の名を口にする

「カオリ」








ミーン ミーン

五月蝿うるさい鳴き声に汗ばむ室内

ボクのとなりに

見慣れた寝顔

手を握ってやらないと寝付けない

ボクの可愛い

そうだ

ここが濃彩のうさいなボクの世界

ボクが僕である世界

だけど湧き出る色は


「帰りたい」


あの透明な世界に

帰りたい 連れてって

声を噛み殺し

塞いだ夢と選んだ道

忘れた絵の具はキミにめぐるから

今は静かに


嘆かせて

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