とにかく家に帰りたい話~津村記久子『とにかくうちに帰ります』
やすこさんへ
いよいよ梅雨だね。この間、「ま、大丈夫かな?」と自転車で出かけたら、読みが外れてまんまと雨に降られ、全身ずぶ濡れになってしまいました。
濡れた服が肌に貼りつくあの感じ、不快だし、なんかちょっと惨めな気持ちになるよね。家に着いて乾いた服に着替えたときの爽快感と安心感たるや。「乾いた服ってすばらしい!」と叫びたいくらいだったよ。
今日はそんな雨の日に思い出す本、津村記久子の『とにかく家に帰ります』について書きます。
これ、何度も読んでる大好きな話なの。
災害級の大雨でバスが夕方から運休になってしまって、仕方なく最寄り駅まで歩いて帰るっていう、まあ地味な話なんだけどね。
豪雨の中を歩いて帰ることになった不運な人たちは2人×2組。
一組目、ハラとオニキリは会社の先輩後輩だけど全く親しくないし、何ならハラはちょっとオニキリのことが嫌い。
二組目のサカキとミツグは、サラリーマンと塾帰りの小学生。途中のコンビニで偶然会っただけの初対面。
普通はしゃべることのない二人が、大雨で、バスにも乗れなくて、でもとにかく家に帰りたい、という共通項をもって、とりとめのない会話を続けながらひたすら歩いていくの。
屋根を考えた人は偉いとか、無印良品のおやつの『部屋でくつろぐ』ってコピーは秀逸だとか、台風中継で女子アナのレインコートが肌に貼りつくのはエロいだとかのどうでもいい話、または家庭の話だとかを訥々と話して、だんだんそれぞれの人となりがわかってくるんだけど、そのうち暗くなってきて、冷えて体力は奪われるし呂律が回らなくなるし、雨が長靴の中にまで入ってくるし、「家に帰りたい」という欲求はどんどん切実になっていく。駅はそこまで遠くないはずなのになかなかたどり着かなくて、ほとんど遭難みたいな心持ち。
「なんでこんな目に…!」と思いながら大雨の中を歩いた経験、一度はあるでしょう?そういう時って状況が最悪なほど、偶々一緒になった人と連帯感が生まれて一瞬仲良くなったり、後から思い出すとその最悪の状況が笑えたりするよね。この本を読んでいると、そういう感覚がリアルに蘇ってくる感じなの。
レインコートとか、途中のコンビニで買った飲み物とか、それぞれに自分の持ち物を融通し合ってなんとか助け合いながら駅にたどり着くころには雨の勢いも少しましになってきて、少し安心したハラが、<家にかえってしばらくするまでは(雨が)勢いを保っていてほしい。そうでなければ『部屋でくつろぐ』ことの手ごたえが減るから>と考えるのも、凄くわかる。
雨に濡れない部屋で、くつろいで読むのが最高。これからの季節にぜひ。
2024年6月21日
かおりより
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