これは本格フレンチだと思った話〜内田也哉子『BLANK PAGE』〜
かおりさんへ
こんにちは。
久しぶりに読み終えるのがもったいないと思う本に出会いました。この間ね、あさイチを見てたら内田也哉子さんが出てたの。樹木希林さんと内田裕也さんの一人娘でもっくんの奥さん。もちろん彼女のことは知っていたし、内田裕也さんの喪主挨拶のインパクトといったらなかったから、興味はあったんだよね。
彼女が両親を立て続けに亡くし、その空白を埋めるべく会ってみたいと心から思った人との対談集を出したと言っていて。これはぜひ読みたいと、勢いでぽちっとした本、内田也哉子『BLANK PAGE』について今日は書きたいと思います。
也哉子さんの文章は観念的で一度読んだだけではきちんと理解できたのかよくわからない。たぶん幼いころから一人前の人間として希林さんと対等であることを求められ、孤独のなかでものごとを考える時間がたっぷりあったから、知らず知らずのうちに深い思考力が身についたんだろうと思う。
別居婚だった希林さんはシングルマザー状態だった。だから、也哉子さんはカギっ子で小さいころおもちゃを買ってもらったことがなく、TVを見る習慣もなかったらしい。私も含め、一般的な子どもは好きなものに囲まれ、たくさんの情報に振り回されながら、あまり深く考える必要も時間もないまま大きくなってしまいがちだから、也哉子さんの思考に圧倒されるんだろうな。
也哉子さんが会った15人の方との対談は対談形式になっているものもあれば、会ったあとに也哉子さんが感じたことを書き連ねたものもある。桐島かれんさんやヤマザキマリさんは也哉子さんと同じように個性的で絶対的にすごいお母さんを持ち、それゆえに幼いころから「自立」せざるを得なかった人たち。違う場所で孤独を抱えながら、自分の足でしっかり立ってきた同志との時間はきっと素敵な時間だっただろうと思う。
谷川俊太郎さんや養老先生、坂本龍一さんなど希林さんがつなげてくれた縁もある。大御所といわれる方と対等に心のうちを明かしつつ話ができる也哉子さんは、自分よりも若いけど、すごい人だなあと薄っぺらい感想を持ってしまった。
この本はたとえてみれば本格フレンチみたいな本。ちょっとした前菜もソースも本格的で一口食べただけで「これは違う、本物だ」って思うような複雑で味わい深いもの。ふだんビストロでカジュアルなものを好んで食べている私でも「これはすごいわ」とわかり、ソースの味をゆっくりじっくりと味わってしまうような本なんだ。
あとね、次男の玄兎くんの個性的なイラストがまたいい味出してるの。時に重くなりすぎてしまう内容をホッとさせるそんな絶妙さがある。少し時間を置いて、もう一回読んでみようかな、そんな気持ちになりました。たまたま同じあさイチを見ていたというかおりさんに貸しますね。
2024年3月8日
やすこより