私たち、読売中高生新聞編集室です!
2014年創刊の「読売中高生新聞」は今年11月、創刊10周年の節目を迎えます。6月14日には記念すべき500号も発行されました。
勢いに乗っている読売中高生新聞は、実は社会部の記者が制作しているって知っていましたか? 第一線で幅広いテーマを取材してきた記者たちが、総合的な知識や経験を踏まえて「10代に今、知ってほしいこと」を届けています。
今回は、中高生新聞編集室から読売中高生新聞を愛してやまない2人の記者を招き、制作の裏側を語ってもらいました。読売新聞本紙とはひと味違ったやりがいがあるようです。聞き手は人事部採用Gの鶴田瑛子です!
旬のニュースをわかりやすく
みなさん、読売中高生新聞を手にしたことありますか? 簡単にご説明すると、読売中高生新聞は「新聞」なのでニュース面を基軸につくられています。全24ページのうち、「巻頭特集」からたっぷり7ページ分がニュース面です。計3面を割いている巻頭特集は、旬のニュースを「そもそも論」からわかりやすく、大きな図表やイラストのほか、専門家の丁寧なコメントで深掘りしています。中高生に関心がありそうなことや、知っておいてほしいことを伝えます。時には同世代が出てきてその活躍ぶりを伝えることもあります。
独自取材でタイムリーに
巻頭特集に続くニュース面(4~7面)を担当しているのが、編集長に次ぐナンバー2の職責を担うデスクの杉浦まりさん。杉浦さん、実は、私が内定者の頃にメンター(内定者を入社までフォローする先輩社員)として大変お世話になった先輩でもあります!
読売中高生新聞は、時の話題が非常にタイムリーに取り上げられています。どうやって作っているのか、早速、杉浦デスクに聞いてみましょう。
「週に1回、デスクと記者全員が集まってニュースのラインアップを決める会議をしています。編集長抜きで記者たちが主体になって、中高生たちに関心がありそうだというニュースを必ず全員が持ち寄ります。会議では、勢いのあるニュースをタイムリーにとらえているなぁと感心する意見がたくさん出てきます」
例えば、6月21日付のニュース面はこんな感じです。
左ページは「全中大会」(全国中学校体育大会)で9競技が廃止されることを説明しています。大会を運営する教員の働き方改革などが背景にあると指摘しています。隣のページでは、人気バンド、Mrs. GREEN APPLEの新曲「コロンブス」のミュージックビデオが批判を受けて公開停止となったことを、とても大きく扱っていますね。
「本紙(読売新聞)では3社のスポット記事(ごく簡単に説明する短い記事)で、公開中止の理由については歴史的な理解に欠けていたという記述だけでした。ミセスは中高生にとても人気のあるアーティストです。歴史的な背景を補足して、なぜ炎上したのか中高生にきちんと理解してもらうべきだと考えました。コロンブスという人物の評価が関わっていることを知れば、学習にも役に立ちます。ニュースの選定会議で、複数の記者からこのニュースを取り上げようという声が上がり、『その通りだ』と思って大きな扱いにしました」
本紙とは別に、独自のニュースを追求している読売中高生新聞。その結果、本紙より早く旬のニュースを扱うこともあるそうです。
オレンジジュースが販売停止になったり、値上げされたりしているというニュース。これは5月17日号ですが、本紙の経済面に載ったのはその4日後でした。
「生活に身近なニュースや中高生に関係するニュースは特に力を入れて独自取材、独自記事でタイムリーにとらえる。これは、巻頭特集を含めたニュース面すべてで常に意識していることです」
学校が教えてくれないことを意識
中高生の関心やニーズを知るため、毎号、読者からアンケートをとり、リサーチをしていることも特長です。最近反響が大きかったという記事が、6月14日号で掲載した「『0歳から選挙権』案 話題に」です。
大阪府の吉村洋文知事が0歳児から選挙権を与えることを次の衆院選の公約に盛り込むと発言したことを受けたもの。ネットニュースやSNSでは波紋が広がっていましたね。中高生新聞がこれだけ大きく取り上げていたことに驚きます。
「どんな考え方なのか、狙いや背景は何かを解説しました。一見突拍子もない案と思いきや、意外と海外でも議論されているような投票方式なのです。憲法のハードルはあれどもあり得ない話ではないし、人口減の問題も背景にあるよということを伝えました。本紙にはない読み物になったかなと思います」
アンケートでは、『中学生は投票ができないから、選挙とは無関係と思っていたけど、これからは自分たちも参加してこその選挙になることを願いたい』『親の代理投票は面白いが、1人1票の原則は大切だから、意思が確認できない代理は違う』といった意見が寄せられたそうです。
「自分なりに考えてくれたことがうれしいです。私たちが中高生新聞をつくる上で大切にしているテーマは、『学校では教えてくれないこと』です。学校でも塾でもなく、この新聞からしか得られない学びをどうやって提供するか。ニュースや時事問題を『自分ごと』にして、面白く読んでもらうきっかけ作りをしていきたいと思います」
好きを形にする楽しさ
杉浦さんは記者20年目のキャリアで、中高生新聞の編集室に来るのは2度目です。本紙と比べた面白さはどんなところにあるのでしょうか?
「中高生新聞は、いかに読んでもらえるビジュアルにするか、紙面全体のデザインも考えるので、編集者としての側面も非常に大きいです。イラストを入れたり、様々な写真を組み合わせたり。最初に来た時は、全く違う会社に入ったような衝撃を受けたことをよく覚えています(笑)」
編集室に来るまでは、東京地検特捜部担当など事件取材の経験も豊富でした。
「もちろん特ダネを毎日朝から晩までおいかけて、他社を出し抜いて――というところに達成感はありましたが、それとはまた別にカラーの見開きのページを自分一人で書いたり、全く新しい企画を作ってリアルイベントをやったり――。ダイナミックな仕事をまかせてもらえるのは今までにない経験で、どんどん面白さを感じるようになりました。自分のアイデアや好きを形にする楽しさがここには詰まっているなと思います」
読売中高生新聞の後に、厚労省クラブに行かれました。逆に、ここでの経験がいきたと感じたことはありましたか?
「本紙の記事も読者にわかりやすく書けるようになりました。ニュースを中高生にわかりやすく伝えるということは、難しい言葉で逃げられないということ。一つひとつをかみ砕いて説明する習慣がつきました。また、若い世代や幅広い世代に注目されるニュースは何だろうと常に意識しながら取材したり、日々のニュースを見たりしていたことで、ニュースセンスが研ぎ澄まされていくのを感じました。若者に求められるものは何かを考えていた時間は、その後の記者生活にも大いにいきていると思っています」
「秋の着回しコーデをやって」!?
続いては、編集室で最年少の鈴木経史(すずき・のりひと)記者です。
読売中高生新聞には希望してこられたそうですね。支局時代は事件事故や行政取材を担当し、社会部でも硬派なテーマの取材を多く経験されています。編集室に来てどうでしたか?
「配属して一発目に言われたことが『秋の着回しコーデをやって』でした。『もう僕は完全に転職した』と思いました(笑)。縦書きから横書きになったことも最初は酔いそうになりました」
「中高生新聞では、取材しながら記事の構成だけでなく、レイアウトも考えることが求められます。通常の取材よりも頭を高速回転させるので、最初の1、2か月は本当に大変でした。『ニコラ』や『セブンティーン』といったティーン向けのファッション誌を読んで、レイアウトを勉強することもあるんですよ」
鈴木記者は書評面「ほんのレストラン」も担当されています。どういったコーナーですか?
「担当記者4人がシェフになったつもりで、おすすめの本をみなさまに召し上がっていただくという趣旨で中高生向けの本を紹介しています。担当者一人ひとりが特に熱い思いで取り組んでいる企画で、創刊時から根強い人気を誇るコーナーです」
結構テーマが渋いですね。どんな観点で本を選んでいるのでしょう。
「中高生にわかりやすいものだけでなく、ちょっと背伸びしているかなというものや、意外性のあるものまでバランスよく紹介します。どういう本が面白いのかって自分も中高生の時に知りたかったので、当時の自分におすすめするような感覚でやっています」
寄席の番人から市場の番人まで
そんな鈴木記者。すでに何本も巻頭特集を手がけています。そのうち、特別な思い入れがあるというのが、落語を特集した「ゆるり のんびり 落語はいかが」(5月10日号)です。
聞くところによると、大学時代は落語研究会に所属していたのですね?
「編集室に来て、編集長や杉浦さんから『落語が好きならやればいいじゃん』と言っていただき、『いいんですか?本当にやりますよ?』という感じでやらせていただきました(笑)。落語について古くさいと思う中高生もいるはずで、下手をすると巻頭企画が全く読まれないという危険性もありました。手にとって読んでもらい、落語の面白さを知ってもらえるよう、編成部やデザイン部の方に相談してイラストをたくさん盛り込みました」
紙面では、落語界のトップランナーの春風亭一之輔さんや、昨年、人間国宝に認定された落語家・五街道雲助さん、4月に「笑点」のメンバーに加わった立川晴の輔さんなどなど豪華な人たちが登場してくれました。
「落語界で一流の人ばかりに登場いただき、ぜいたくな紙面にできました。落語関連ニュース総まとめのようになりましたが、紙面の総合プロデュースみたいなことまでできるのが、中高生新聞の良さです。アンケートのほか、ネットでもすごく反響があり、自分の趣味が仕事に直結した瞬間でした。好きなものをどうしたら伝えられるかということをこの半年間つきつめて考え、ある程度紙面として成立させることができました」
実は落語特集の2週間後には、証券取引等監視委員会を特集する巻頭特集を担当されました。振り幅がすごいですね…。
「『寄席の番人』から『市場の番人』まで。同じ人間がやったとは思えないですよね(笑)。社会部に来て中高生新聞を希望したのは、社会部の中でも中高生新聞の守備範囲は抜群に広いと思ったからです。日頃のニュースから、カルチャー、秋の着回しコーデまでやれますから。これはまさに社会部でないとできないことです」
10周年へ
ニュースを伝えるという媒体を超えて、様々な企画をやってきた読売中高生新聞。例えば、コクヨとタッグを組んで、キャンパスノートの表紙のデザインを中高生から募集したり、ラジオ番組をやったり。杉浦さんは「中高生に様々な価値を提供するということは、中高生新聞がずっとやってきたチャレンジです」と語ります。
10周年に向けてもその姿勢は変わらないといいます。
杉浦デスク:「読者参加型の紙面を作りたいと思っています。日々、一方的にこれが面白いよ、読んでほしいなというものを提供していますが、もっと読者と双方向のページや、読者を巻き込んだ企画をやっていきたいなと思っているので、お楽しみに!!という感じです!」
鈴木記者:「僕も同じです!中高生に直接話を聞くのって面白いなと思っていたので、読者参加型の企画や、中高生自身をもっと取り上げる企画をやってみたいですね。身の回りの生活と世の中が地続きになっていることが感じられる記事が書きたいと思っています」
杉浦デスク:「すばらしいね!!」
取材を終えて
採用活動では、「『読売KODOMO新聞』と『読売中高生新聞』を読んで育ちました!」という学生さんに出会うこともあります。ある学生からは、「記事を通して記者の顔が見えるところが好きなんです」と言われたこともありました。どういうことなのか、2人の仲の良さ、中高生新聞に向き合う姿勢を見て、とても納得しました。10周年の紙面、今からとっても楽しみです!
(取材・文 鶴田瑛子)
※肩書は、公開当時のものです。