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「必要なのは自己プロデュース力だ」新しい芸術の楽しみ方を模索する大学生たち。【寺前有海さん、福嶋望実さん】

/知りたいあの人/
東京藝術大学では美術学部と音楽学部が一本の道路で隔てられている。各分野で素晴らしい才能を持った学生はいるものの、交流は少ない。両者の境界を超え「新しい芸術の楽しみ方」を模索する藝大生がいる。大学生主導のプロジェクト「うたをみる」の代表、寺前有海(以下、寺前)さんと福嶋希実(以下、福嶋)さんだ。コロナ禍を芸術とともに生きる代表2人の素顔に迫る。


展示会場でポーズを飾る寺前さん(左)と福嶋さん(右)(提供:福嶋望実さん)

偶然が重なって生まれた美術と音楽のコラボレーション。

「うたをみる」は東京藝術大学(以下、藝大)の美術部と音楽部の学生がタッグを組んだ展示会だ。同じテーマの元、各生徒が専攻分野の作品を作り上げ同一空間に展示することにより新たな芸術の形を目指す。

「うたをみる」のきっかけは、共同代表であり美術専攻の寺前有海さんが、借りようとしていた展示場所に、ピアノが置いてあったことがきっかけだ。「音楽部と美術部がコラボしたら面白そう」と考えた寺前さんが、同じく共同代表で音楽専攻の福嶋望実さんに案を持ちかけたことから始まった。

2回目となった今回の展示では、日本の自然が持つ美しい光景「春夏秋冬」、誰しもが持つ感情の機微「喜怒哀楽」を掛け合わせた日本の詩を取り上げ、QRコードで読み取って音楽を聞きながら読み取った音楽を流しながら、美術作品を見ることで完成するという作品だ。

各アーティストが取り組む作品は、くじ引きで決めた。そうした偶発性も利用して、道路を一本挟んで分かれている美術学部生と音楽学部生の繋がりをつくろうと試みた。

作品搬入の様子 (提供:福嶋望実さん)

「うたをみる」で仲間に届けたいもの。

共同代表の二人はアーティストとして作品づくりに励みながらも、運営として奔走した。
「うたをみる」の経験を通じ、藝大で芸を極める一方、自己プロデュースやマネジメントに関しても学ぶ必要があると話す。自分の芸術のクオリティだけで評価されるのは、難しいと感じるからだ。また、作品を作るだけではなく、作品を見せる場を作ることも「社会で芸術をやっていく」ためには大切だと学んだそうだ。

芸術一筋の学生が「うたをみる」を通じて、協働して創り上げることの難しさや楽しさを感じたり、自分たちの売り出し方を考えたりする機会になったらという想いもあった。二人とも来年以降は第一線は退こうと考えているものの、プロジェクトが続いていって欲しいと考えている。

たくましく、そしてしなやかに。コロナ禍を生きる大学生として。

「うたをみる」のプロジェクトが立ち上がったのは新型コロナウイルス感染症拡大前。感染拡大により「音楽(芸術)の必要性」に対して社会は以前よりも厳しくなった。「緊急事態下での音楽(芸術)は必要なのか」という問いに対して、福嶋さんは自分なりの答えを話してくれた。

「音楽は常に生活の中で隣合わせ、人の生活と切っても切り離せない存在。何気なく過ぎていく日常を豊かにしていくものだと思う。辛い状況で自分が音楽に励まされてきた。」

また、「『技術を磨いて、憧れのミュージカルの舞台に立つ』という自分のための夢で終わりにしたくない。」という想いから、福嶋さんチャリティ発祥の地であるイギリスで音楽を学ぶ展望があるそうだ。

寺前さんは「うたをみる」プロジェクトにはソニー社会連携講座 Ignite Your Ambitionに参加したことでできた縁が活きているという。

寺前さんは藝大生、フリーとして活動している卒業生に光が当たらないと感じている。他分野の人と繋がることに楽しさを感じる寺前さんは「芸術家に光をあてたい」「そして芸術家が集まるコミュニティをつくりたい」という思いからデザイン会社を設立した。「自分のテリトリ―外の人の話を聞くことは楽しいし、色々な人とつながってみたいと思う」

最後に一歩を踏み出すことを躊躇う学生に寺前さんはこう話す。

「やりたいならやればいいのにって思っちゃいます。しんどくなりそうならしんどくならないように工夫すればいいし、1人で無理なら人を募ればいい。私は何も1人でできないから」

少し開き直っているとも受け取れるその言葉が寺前さんの強みだ。「うたをみる」に協力者が集まってきた理由なのかもしれない。

コンサートのリハーサルの様子。(提供:福嶋望実さん)

執筆者:森青花/Aoka Mori
編集者:原野百々恵/Momoe Harano、三井滉大/Kodai Mitsui

インタビューを受けてくれた方
寺前有海さん:「うたをみる」美術代表。東京藝術大学美術研究科工芸専攻修士課程1年。代表取締役として株式会社TEMPRONTを設立。
福嶋望実さん:「うたをみる」音楽代表。2021年、 東京藝術大学音楽学部声楽科ソプラノ専攻修了。2022年6月よりイギリス留学を予定。


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