「さみしいと感じたことはない」アイスランドの自然の中で一人。孤独を題材にする現代アーティストのロニ・ホーン
孤独を題材に制作するロニ・ホーン
ロニ・ホーンは1955年生まれで、アメリカの現代アーティストとして有名だ。ドローイングから彫刻、写真まで幅広く作品を制作している。日本では2021年に神奈川のポーラ美術館で、展覧会「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」も行われた。
展覧会が終了した現在も、作品の1つ《鳥葬(箱根)》が、美術館内の「森の散歩道」に展示されている。
水が入っているようにも見えるこのガラス彫刻。ガラスは硬い感触ながら、物理的には液体という曖昧さを持つ。また、ガラスは天気や光の角度によって見え方も変わる。このガラス彫刻作品は、時間や近くの曖昧さ、アイデンティティの揺らぎが表現されている。
他にはアイスランドの温泉で6週間にわたり、女性の表情を撮影した《あなたは天気》という作品も有名だ。作品タイトルのように、変化する女性の表情を天気に例えた作品である。
こうした自然のモチーフは、ロニ・ホーン自身がアイスランドを頻繁に訪れていることが影響している。ロニ・ホーンは飛び級し、19歳でイェール大学を卒業した。この1975年に、仲間と卒業旅行でアイスランドを初めて訪れた。その後、現在に至るまで頻繁にアイスランドを訪れるようになる。
ロニ・ホーンは、アイスランドの気候や風景、そして自然の中での孤独に大きな影響を受けた。「アイスランドを誰かと旅することは好きではない」「さみしいと感じたことはほとんどない」と過去にインタビューで語ったこともある。ロニ・ホーンは孤独であることをネガティブには捉えず、孤独を楽しんでいる。ロニ・ホーンが非社交的な性格だからではない。1人になりたがる理由があるというのだ。
孤独は井戸のようなもの
ロニ・ホーンは孤独に拘る理由の1つとして、複数のマイノリティを抱えていることを過去のインタビューで挙げていた。
著名人が〇〇キャラのように表向きの人格を作ることがある。会社のマーケティングでは理想的な顧客を想定する。こうした造られた人物像は、「ペルソナ」と呼ばれ、自分を売り込むため、またはターゲット層を明確にするために重要となるものだ。
アーティストも同様に、ペルソナがあると強みとなる。自分のマイノリティをペルソナに、自身や作品のブランドにし、自分を売り込むこともできるだろう。
しかし、マイノリティであることだけがその人の全てではない。また、複数のマイノリティがあり、自己を分かりやすく定義することに限界を感じる人もいる。
マイノリティなアイデンティティを複数持つロニ・ホーンは、そうした分かりやすいペルソナを作らない。孤独を楽しむことで、大衆からの視点や目線には拘らずいる。ロニ・ホーンの作品は、アイスランドの環境に大きく影響を受けつつも、一定した制作スタイルにとらわれることなく、ジェンダーや色彩、言語などを幅広く作品に取り入れる。
ジェンダーについては“When I was young, I decided that my sex, my gender, was nobody’s business”(「若いときに、自分の性やジェンダーは人のしったことじゃないと決めた」)とも過去に話していた。
「何かをしよう」という静かな無言の決まり
しかし、ロニ・ホーン自身も、孤独を選択することが難しいことは過去に話している。
「予定ある?」と聞かれ、「このあと出かける」「終わっていない仕事がある」などは言えても、「1人でゆっくりする」「1人になる」とは言いにくいかもしれない。
しかし、「孤独」は、英語では2単語ある。“loneliness”と“solitude”。どちらも日本語では「孤独」と訳されるが、「寂しさ」の意を持つ“loneliness”と異なり、“solitude”は「1人の自由を楽しむ」という意味を持つ。
ロニ・ホーンは「アクティブになったり、何かをする必要はない」と話す。アイスランドの1人の時間の中で、気候や景色、その変化を見逃さず感じ取ってきたからだろう。
ロニ・ホーンのように“solitude”を楽しみ、自分にじっくり向き合うことで、新たな発見をすることも楽しい時間になるはずだ。
執筆者:石田高大/Takahiro Ishida
編集者:清野紗奈/Sana Kiyono、河辺泰知/Taichi Kawabe