うつ病は甘え?うつ病に向き合う17歳、メンタルヘルスで悩む人に伝えたいこと
※以下の文章には虐待、自殺に関する記述があります。
大学受験を控えた高校3年の4月。千葉県の高校に通っていたユイさんは(仮名、【17】)、息苦しさに悩まされていた。通学途中や勉強中、突如として呼吸が浅くなり、「息ができなくなるかもしれない」という焦りに駆られる。過去1年ほど、同じような症状はあったが最近になり悪化している気がしていた。そうした中、ある日の予備校の帰り道、今までにない息苦しさを覚えた。
「これは本当にマズいかもしれない...」。それまで親に相談することを渋っていたが、すぐに病院に連れて行って欲しいと頼んだ。本当は「精神科に連れていって欲しい」と言いたかったが、「精神科」という言葉に抵抗感があった。
受診した内科医の先生から「ストレスが原因」と言われ、精神安定剤を処方された。それならば、きちんと精神科で診てもらいたい。そう思いを固め、親にその旨を伝えた。
「内科で精神安定剤をもらった後、親に『精神科にかかりたい』と伝えたのですが、親からは『甘えだ』と怒られて反対されました。自分がもしかしたら精神的な病気を持っているかもしれない、と言うのはすごくハードルの高いことです。精一杯出した勇気を否定された気持ちになり、大号泣したのを覚えています」。
「その後、親をなんとか説得してやっと精神科に連れていってくれることになりましたが、『じゃあ(病院に連れて行くの)1ヶ月後で良い?』と言われて...。すごく絶望したのを覚えています。自分としては切羽詰まった状態だったので次の日にでも連れて行って欲しかったんです。1ヶ月後ってどういうこと?1ヶ月もの間自分は何をしていれば良いんだろう?どうやって生きていけば良いの?という気持ちになりました。結局、1週間後には連れて行ってもらえたのですが」。
うつ病は「甘え」なのか?
ユイさんが病院で受けた診断は「うつ病」だった。薬を処方されて、週1回のカウンセリングを勧められた。診断を受けた直後、待合室では涙が止まらなかったという。
「頑張って頑張って息をするのも辛くて夜も眠れないけれど、次の日は学校があるから行く。そういう生活を送っていたので、診断を受けた後は受ける前の自分みたいには頑張れない、と思ったんです。その時には大学の推薦入試のための絶対に落とせないテストがあったので、そのテストに向けてどういう風に頑張れば良いのかが分からなくなりました」
「うつ病だと診断される人は『甘えている』と言う人がいると思うけれど、うつ病という診断をもらったからといって生活が楽になるわけではないんです。息が苦しくて夜眠れないのが良くなるわけではありません。学校の定期テストを受けられなかったら推薦入試は落ちるし、一般入試になったら他の人と少ない勉強量でも受かるわけではない。診断を受けた当初は『診断されたから何?』という気持ちでした。精神病を患っている自分に明るい未来はないのだと思い、待合室で涙が止まりませんでした」。
その後、勧められたカウンセリングを受けながら、自分が虐待を受けていたことに気がついた。幼少期から母親に「お前なんていなくなれば良い」「死んでも良いからどっか行って」などという言葉をかけられた時には、感情の拠り所がなく、自傷を繰り返していたことも吐露することができた。
一方で、うつ病は悪化し食欲も睡眠欲もなくなり、「自分が人間なのか分からない生活が続いた」という。命は取り留めたものの、自殺願望が高まり自傷行為も数回行った。学校にも通えなくなり、通信制の高校に移ることになった。
「通信制の学校に転校するという選択にはすごく悩みました。周りから『あー、なんかあったんだろうな』と思われることが怖かった。それまで隠してきた自分がバレてしまうような気持ちになった。自分が結構すぐに落ち込んでしまうこと、病んでしまうことは必死に隠していたので、それがバレることが怖かったです」。
「死にたい」はなくならない
うつ病と診断されてから8ヶ月経った現在(2022年1月時点)は、塾にも通えるようになったという。通信制の学校に移り「辛い時には休める、頑張れる時には頑張れる」環境に移ったことが大きいとユイさんは話す。
それでも時折「死にたい」と思うことがあるという。
「今でもやっぱり、死ぬことを悪いことだと思う考えがよく分からないです。でも、『死なないで欲しい』は言ってる人のエゴであることを自覚した上で、それでも『私はあなたに死んで欲しくない』って伝えることは大切だと思います。私も言われて『じゃあ死なない』と納得するわけではないけれど、そっちの方が嬉しいって言うのは変だけれど、少しだけ生きる価値があるのかもしれないと思えたからです」。
「ただ『周りの人が悲しむから』って言われてた時はブチっときてしまいました。辛い思いから逃げたくて死ぬしかないと思っている時に、周りの人のことを考える余裕はあるわけないし。こっちは生きてるので手一杯なのに、これ以上何かをするなんて無理ってなりましたね(笑)」。
「0か100」ではない
「もし、私のように辛い思いをしている人がいたら病院に行って欲しいと思います。自分もそうでしたが、『精神科』に対して偏見を持っている人が多すぎると思います。病院で自分と同じ世代の人、子供を連れている人、おじいちゃん、自分よりも年下の子が通院しているのを見ると、精神的に悩むことはみんなあることだと言うことが分かると思います。すごく辛い時に、医療の力に頼ることは悪いことではないはずです。だから気軽な気持ちで病院に行って欲しいです」。
「あとは、頑張る必要ないよって声をかけたいですね。私は『ここで学校に行けなかったら終わる』って気持ちになってたし、終わるって思ってるからそれができないと死にたくなってしまう。学校行けなかったら死んだ方がましだと思って、0か100で考えていました。本当に辛いときはまずは少し休んで、例えば1週間でも休んで考えてみると、全然違う答えが出ることがあります。0か100かで考えてしまう人は、まずは50でやってみるとか。でも、辛いときはまずは休むことが大切だと思います」。
※うつ病の感じ方は人それぞれで、同じ病名であっても症状には個人差があり、適切な対処方法も異なります。
執筆者:原野百々恵/Momoe Harano
編集者:ラム音
インタビューに協力してくれた人:通信学校に通う高校三年生(2022年1月時点)のユイさん。2022年4月からは大学生。