ヨックモック社員も知らなかった!?缶デザインの裏側。デザイナー大森幸代さんインタビュー。
皆さん、ヨックモックの缶に描かれている不思議な模様について、思いを馳せたことはありますか?
えぇ…きっと…ありますよね(笑)?
今回は定番のシガール缶をはじめ、ヨックモックの缶の数多くをデザインし続けてこられたグラフィックデザイナーの大森幸代さんにお話をお伺いしました。
グラフィックデザイナー人生=ヨックモックとの仕事歴
1991年のリニューアル以来愛され続けている定番缶や、今秋販売開始される新しい缶、大森さんはどんな思いを込めてデザインされたのでしょう?
― 大森さんは、グラフィックデザイナーとして活躍されていますが、ヨックモックとはいつ頃からご一緒しているんですか?
大森:ヨックモックさんとお仕事を始めたのは1980年代中盤、デザイン事務所に新卒入社して以来ずっとご一緒しています。なので、私のグラフィックデザイナー人生=ヨックモックさんと関わっている年数(笑)。すごく成長させていただきまして、感謝しています。
― そうなんですね!
大森:カタログやディスプレイなど、本当に色々と関わらせていただきました。1991年に缶のデザインをリニューアルするプロジェクトに関わったのが一番大きなお仕事だったと思います。それ以来、缶を中心にパッケージデザインを多く手掛けさせていただきました。
― 今日は、缶のデザインについて色々とお話をお聞きできればと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!
大森:お願いいたします。
1991年のリニューアル。現在まで愛される定番缶の誕生秘話。
― まずは、1991年のリニューアルのお話からお聞きしたいと思います。
大森:それまでの麻柄缶・木蓮缶といった定番を含めて、缶のデザイン・規格・商品名などを一新するプロジェクトだったんですが、最初は6社のコンペが開催されたんです。
― 大森さんの所属されていた会社も、その中の1社だったんですよね。
大森:えぇ。なんですが、コンペが終わったところで当時の藤縄利康社長(現会長)が「みんなでやろうよ」とおっしゃられて(笑)。
― なんでですか!?(笑)
大森:きっと感性だったんじゃないかと思います。なんにしても、コンペした会社で力を合わせてモノ作りをするのは、長いデザイナー人生で、後にも先にもその時だけです(笑)。
ベースカラーを描く、パターンやモチーフを描く、全体のバランスをとり缶にする。全て別の会社、別の人が手がけているんです。3社の具体的な提案を上手に融合してできた缶なんですよ。
― なんか、版画や映画みたいな作り方ですね。
大森:すごく先鋭的な組み方で、みんな驚いちゃって(笑)。プロジェクトは「やさしく、やわらかく、あたたかく、光を発する」というコンセプトを作ることからはじまりました。みんなの意識を言語化して、共有したのは、すごく大事なことだったと思います。
― コンセプトから作られることで、共同作業がうまくいったんですね!
定番缶の色は、職人さんと工芸品を作るように。
― 大森さんが担当されたパートは?
大森:私の会社の師匠が缶に仕上げる工程と全体ディレクションを担当していて、私は主に色を担当していました。
― ちなみに、当時はまだデジタルでの処理が一般的ではなかったですよね?
大森:そうなんです!今はデジタルでさまざまなシミュレーションができますけど、当時は全部膨大なカラーチップを並べながら、全てのパッケージを手掛けました。大変でしたけど、すっごい面白かったですよ。
― 色はどのような想いで選ばれたのですか?
大森:ヨックモックさんをデザインでワンランクアップできるように意識していましたね。特にシガールの缶は、”深み”を出すのに苦労しました。
― “深み”ってどうやって出すんですか?
大森:例えば、現在のシガール缶の地色をよく見るとわかると思いますが、ブルーの奥にオレンジを重ねているんです。
― へー!知りませんでした!
大森:こういった色を重ねていく作業は、現在のPCでシミュレーションすると、よくわかるんですが、地色にオレンジを引かないだけでも全然深みがなかったりするんです。当時は、印刷の工程で6~8色、特色を重ねていくことで、色に深みを出していきました。
― え?6色以上、全部特色を重ねているんですか?
大森:そうなんです!印刷所の職人さんと二人三脚で、色を組み立てていきます。印刷所の皆さんも、他のメーカーと全く違う初体験の印刷工程なので、全て手探りの中、理想に近づけていく作業でした。
― すごく特殊な作業だったんですね。
大森:職人さんは、経験と感覚でその場でインクの色を絶妙に調整してくれたりします。印刷の現場、すごく大好きで張り付いて見ているうちに、私も少しずつ学ばせていただきました。
― 当時は、いくつもの缶をリニューアルされたので、膨大な作業でしたよね。
大森:1つの缶だけでなく、全ての缶が並んだ時のバランスにもすごく配慮したので大変でしたね。
― なんか、お菓子の缶というよりは芸術品・工芸品を作るようなイメージですね。
大森:まさにそうです!藤縄社長(現会長)はアートが大好きな方ですし、ヨックモックさんの求める理想をカタチにできるよう、関わる全ての人が熱意を持って臨んでいたんです。
― そういう熱意の塊なんですね。
定番缶グラフィックデザインは手仕事に導かれて。
― 缶のグラフィックデザインはどうやって作られているんですか?
大森:全て筆を使って手で描いてます。やっぱり、なんだろうな…手仕事って偶然性が生まれやすいんですよね。今でもその工程は変えずに、すごく大事にしているんですよ。
― すごくアナログな作業ですね。
大森:にじみを表現するには、そのやり方がいいんですよね。今では、墨汁で書いて、デジタルで取り込み、色を調整しています。書いた後に色を調整していけるのは、便利な時代になったと思います。
― この印象的なペインティングのようなモチーフについてお聞きしたいです。
大森:実はこのモチーフは、それまでの麻柄缶をベースに、抽象度を上げてモダンなテキスタイルにしたんですよ。やっぱりそれまでの伝統からも良いところを引き継ぐことを意識していたんですよね。
― モチーフを引き継ぐ形で3代目の缶が生まれているんですね!
大森:それまでのヨックモックスピリッツみたいなものが引き継げたらいいなって。伝統ってすごく強いものだと思うんですよ。それまでの伝統をガラリと変えるのは、すごく怖いことでもあります。私たちはそういった伝統に敬意を払っていましたし、負けないくらいの思いや熱量を詰め込む作業を大事にしていました。
― だからこそ、1991年のリニューアル以来、30年以上愛されるデザインになったんですね。
大森:あれから30年以上も経っているなんてびっくりですよね(笑)。私たちも、デザインするうえで一番大事にしていたのは、実際に缶を手に取っていただけるお客様が受け入れてくださるかなので、とても嬉しいです。
― こんなに長く愛されているのは、どうしてだと思いますか?
大森:この缶たちは、発表された当時から、新しすぎず、レトロでもない、ちょうどいい普遍的なデザインだったんだと思います。それが、今まで愛されている理由なのかなって。
― ヨックモックの缶って、お菓子を食べた後にもすごく色々とリユースしていただいて、愛されているなぁって。
大森:ロゴや商品名などがサイドに慎ましやかに入っているので、使いやすいんですよね。でも、こういう振り切ったデザインは、やっぱりお菓子の美味しさがあればこそ成り立つんだと思っています。
― どういうことですか?
大森:缶でブランド名や商品名を大きく扱わなくても、お菓子を食べたら、その美味しさで覚えていただけますよね。ヨックモックさんの強みはやっぱりお菓子の美味しさなんです。中身に自信があればこそ、缶は自由度高くデザインできるんです。
秋の新商品!「シスデリス」「セットデリス」缶デザインへの思い。
― この秋に発売される6種詰め合わせの「シスデリス」と7種詰め合わせの「セットデリス」の缶のデザインもとっても素敵です!これはどんなコンセプトでデザインしたんですか?
大森:今回は、定番の5種類詰め合わせ「サンクデリス」のお兄さん・お姉さんみたいなイメージでデザインしました。ファミリーみたいに考えているんですよ(笑)。
― ファミリーって言うとなんだかかわいいですね(笑)。
大森:今回は、そういうイメージの中で、どこまで変えていけるかを模索する作業でした。このモチーフはグラデーションを入れたんですが、ここに使っているカラーは中のお菓子「シガール オゥ ショコラ」「シガール オ テ」のパッケージをイメージして配色しました。
― お菓子のカラーに導かれるようにデザインされたんですね。
大森:素直に作業したらそうなったんです。以前、楕円缶デザインも同じようにお菓子のパッケージのカラーを使ってデザインしたんですよ。
― 今回は、細かなテクスチャーが印象的ですね。
大森:今回も印刷はすっごく難しかったんですよ。もう本当に無謀なくらい(笑)。
― ますます難易度が上がっているんですね(笑)。
大森:元々が特殊な上に、ワンランクアップさせたような缶になっています(笑)。版を重ねることで、微妙なニュアンス、滲みやグラデーションを作っていきました。このモチーフのカラーが、このグラデーションの奥にもうっすらと入っていたり、細かい仕掛けがたくさんあります。
― あ!本当ですね。
大森:缶の色は、刷った後に焼き付けると、元には戻せません。だから、実際に焼き付けたサンプルを何種類も作っていただき、並べて、一番いいものを選んでいくっていう地道な作業でした。
― 今回も、印刷所の職人さんとの二人三脚で作業が進められたんですね!
大森:時間の制約がある中、みなさん面白がってノリノリで挑戦していただけました。今は、職人さんも少なくなってしまったんですが、今回の作業を見ていた印刷会社の若い方がすごく興味を持って、技術を引き継ぎたいとおっしゃっていたのも、すごく嬉しかったですし、安心しました。
― それは、すごく嬉しいですね!今回の缶は、どんなポイントを楽しんで欲しいですか?
大森:私、詰め合わせって楽しくてすごく好きなんです。家族でも楽しめるし、ご贈答にもピッタリ。今回、味が増えたのは、ますます嬉しいです。缶はもちろん大事ですけど、開けた時や驚きや美味しさを楽しんで欲しいですね。
ヨックモックとの思い出。
― ヨックモックとの思い出があれば聞かせてください!
大森:関わりが深すぎて、なかなか難しいですね(笑)。でも、思い出すのは小さい頃に食べたことですね。幼い頃に美味しいなって思っていたお菓子に、大人になってお仕事で関われるのは奇跡みたいなことですよね。今もこれからも、楽しく熱意を忘れずにご一緒できればと思っています。
― 今日はありがとうございました!
大森:もう少しで完成する缶も、すっごい素敵に仕上がると思いますよ(笑)。
― すごく楽しみにしております!
ヨックモックの缶、デザインにまつわるお話いかがでしたか?実際に缶を手に取られた際は、ぜひその色の深さや、デザインの緻密さを楽しんでいただければ嬉しいです。
※取材は商品発売前に実施いたしました。
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(おわり)