星になったあなたと
凍った星をグラスに。ひとり、夜空の星を見上げ、グラスを傾ける。琥珀色の梅酒の中を泳ぎながら、星の形の氷がキンと音を立てる。
ねえ、あなた、覚えてる? 星のゼリーと氷を作ったこと。まだ年少の葵の夏休みの宿題で、「家族でおやつを作りましょう」っていうのがあったじゃない。ゼリーを作って、みんなで星型で抜いて、果物の缶詰めをシロップごとグラスに入れて、サイダーを注いで、星の形のゼリーを浮かべるの。ジュースには星型の製氷機で作った氷を入れて、写真を撮って。ほら、この写真。葵、まだこんなにちっちゃかったのね。あなたも待ちきれない顔をしてる。
アルバムを見返すなんて、懐かしいな。あの子の成長ムービーを作ることになったのよ。ちっちゃい頃のばっかりおんなじような写真がいっぱいあって。私が遅くまで働くようになってからは、両親やお義母さんお義父さんに預けていたから、写真が少ないの。休日も、家事と子育てでいっぱいいっぱいだった。でも、小学校に上がってしばらくして、参観日にきらりちゃんのお母さん、光さんが写真を撮って焼き増ししてくださるようになってから、また写真が増えたの。PTAのお母さんお父さんたちが撮ってくださった写真もあってね。ふふ。見て、これ。校庭のすみれに水やりしてる。こっちは、修学旅行の写真。凛々しくなったでしょう。
きらりちゃんのことで電話をもらったときは心配したけど、そんなきらりちゃんともすっかり仲良くなって、ついに結ばれるなんてね。感慨深いわって、光さんとも話していたの。ふたりで話し合って、仲良くなって、けんかもして、切磋琢磨して。きらりちゃんでよかったと思う。あの子は、あなたに似て、自分より他人を優先する子だから、きらりちゃんみたいに言いたいことをはっきり言ってくれる子がそばにいてくれて、自我を芽生えさせてもらったというか。それで、自分の思いを伝えて、やりたいことにも取り組むようになったでしょう。きらりちゃんにとってもね、葵の存在は特別でありがたいのよって光さんに言ってもらえてね。葵の優しさが、不器用で頑ななきらりちゃんの心を溶かしてくれたんだって。でも、きらりちゃんも、奥底は優しくって、とってもチャーミングなのよ。
写真を選んでほしいって葵から連絡をもらったときは、着々と進んでいるんだなぁって、しみじみしたわ。うれしくもあり、寂しくもあり。光さんとは既に顔馴染みだったけれど、旦那さん、朝陽さんも含めて顔合わせをしたでしょう。あなたも写真で同席してくれたわね。葵の第二の父だと思ってくださいって。ありがたいわね。葵もきらりちゃんも、式の準備で忙しそうだけど、ふたりともいきいきしてて、眩しいわ。
昨日で抱えてた仕事も一段落して、こうしてアルバムをめくってるの。星のゼリーを見つけて、あなたに見せたくなったのよ。そして、久しぶりに作った、この凍った星の溶けた梅酒を、星になったあなたと、分かち合いたくなったの。この星々のどこかにいる藍さん。あなたが採りに行ってくれた梅で浸けたものだから、もう三十年ものになるのね。葵たちの末永い幸せを願って、乾杯。
鳴るはずのないグラスのぶつかる音が、静かな夜に響いた気がした。
⭐🥂
小牧幸助さん、今週も素敵なお題をいただきありがとうございます!本当に、言葉選びが絶妙で、この一言から映像が、音が、温度が想起させられるようで。毎度、感覚を研ぎ澄まして書きたくなります。
これはまた、みなさまの作品を読むのが楽しみです。ただ、今週はちょっと遅くなるかもしれません。というのも、仕事を持ち帰っておりまして。これも振休を取った2日から始まるGWのため。合間合間に気分転換に来られたらいいなと思っております。睡眠はしっかりとっておりますので、ご安心ください。
今回も、葵と茜と藍の物語の続きです。
前作はこちら。
珍しく茜の一人語りになりました。
合間を埋めたいような、埋めると野暮になるかしらと躊躇うような、複雑な気持ちです。
読者のみなさま、今週も読みに来てくださってありがとうございます!
それではまた。