道路と駐車場の使い方が変わることでまちがどのように変わるのか、QURUWAシンポジウム「暮らしを豊かにするまちの使い方最前線」が開催されました
2018年9月17日に岡崎市図書館交流プラザ・りぶらホールにて、乙川リバーフロントQURUWAシンポジウム「暮らしを豊かにするまちの使い方最前線」が開催されました。
11月12日から18日まで康生通りで「グッとくるわ社会実験」が行われます。今回のシンポジウムでは、康生通りの社会実験に向けて、国内外の先進事例や国の制度、具体的に岡崎で行うにはどういったやり方があるのか、道路と駐車場の使い方が変わることでまちがどのように変わるのか、専門家を交えてパネルディスカッションが行われました。
第1部では、康生通りの社会実験について、準備を進めている株式会社まちづくり岡崎より社会実験のねらいについて発表がありました。社会実験のテーマは道路空間を活用した「まち歩きが楽しいまち」と駐車場を活用した「魅力ある来やすいまち」の2つです。
「まち歩きが楽しいまち」というテーマでは、通りにベンチやテーブルを置いて、休憩したりおしゃべりできるコミュニケーションスペースの設置。まちを歩いている人に楽しんでもらえるような専門店ならではの体験スペースや商品陳列などが路面店の軒先で行われます。
「魅力ある来やすいまち」というテーマでは、康生には駐車場が少ないというイメージを払拭することを目指し、週末に駐車場を無料で開放して、康生に訪れる人に利用してもらう取り組みが行われます。
30年前の康生通りはとてもにぎわいをみせていた場所だったそうです。康生通りがどのように変わろうとしているのか、ぜひ見に来ていただけたらと思います。
第2部では、おとがわプロジェクトデザインコーディネーターで建築家の藤村龍至さんがモデレーターとなり、横浜国立大学大学院の三浦詩乃さん、国土交通省の橋口真依さん、乙川リバーフロント地区まちづくりデザインアドバイザーで建築家の西村浩さんによるパネルディスカッションが行われました。
道路と駐車場をどう使いこなしたら「車」優先で考えられていた通りから、歩いて楽しい「人」ための通りになるのか、それはどのように暮らしを豊かにするのか、具体的なアイデアも交えながら、それぞれの視点で議論が交わされました。
まず、三浦詩乃さんに研究者の視点からストリート・デザインについてお話しいただきました。
ストリート・デザインとは、車がとおりすぎる道路からまちの人たちが多様な活動をする場を作るためのデザインだそうです。具体的には、通行以外の使い方やニーズを実験を交えながら沿道のみんなと考える。次にそのニーズに沿ったハード整備を行い、そのハード整備を生かして、どのように使うか継続的に運用するというプロセスで行うそうです。特に運用という面で、「これ使っていいのかな?」と定着していかないことがあるそうで、「こんな使い方があるんだ!」と馴染ませていくことが不可欠だそうです。
ストリートデザインは通りと沿道の建物を一体に考えていくことが重要という話から、事例紹介として「ロンドンのための健康なストリート」という、まちのメインストリートを公園のようにする計画や、ドイツのライプツィヒの公共交通の整備と民間による建物のリノベーションを同時に行う取り組みなどを紹介していただきました。ちなみに、ロンドンの事例は、メインストリートを公園のようにすることで、歩いて気持ちよく、活動量を増やして健康になってもらうことがねらいとなっているそうです。
国内からも木を使った落ち着く空間として、新宿大通りの「SHINJUKU STREET SEATS」や神田警察通り社会実験、車線を減少させて通りでマルシェが行われている事例として「松山市花園町通り」など、今回の康生通りの社会実験のイメージに近い参考になる事例も教えていただきました。
三浦さんは岡崎のまちを歩いてみてとても魅力を感じたそうで、このまちらしさの引き出しとこのまちに今足りていない部分を掛け合わせていくことで、笑顔が広がるオンリーワンのまちになるのではと話されていました。
続いて西村浩さんより、建築家として通りを具体的にどのように使うといいかという視点でお話しいただきました。
昨年QURUWA戦略が取りまとめられたのですが、二七市通り、連尺通り、康生通りの3本の通りは、籠田公園からりぶらまでをつなぐ大事な場所として位置付けられています。康生通りは3本の通りの中で、車やバスなどからこのまちにアクセスする玄関口として、どのような商店街にしていくのかを考えていく必要があり、道路をみんなの力を合わせて楽しい道にしていくことで、沿道の不動産の価値を上げていくことが大事であると話されていました。
ただ道路の難しいところは、「道路法(国土交通省・地方自治体)」「道路交通法(警察庁)」「建築基準法(国土交通省・地方自治体)」など複数の法律によって厳しい制約を受けること。そこで道路のうち建物側の用途を帯状の「広場」とすることで、道路交通法の規制を外し、活用しやすくするアイデアを紹介していただきました。
事例として紹介していただいたのが、オランダのユトレヒトです。通りにテーブルが出ていて、おしゃべりをしたり楽しそうにしたり、市民一人ひとりが思い思いの時間を過ごしている様子でした。このユトレヒトと康生通りの写真を見比べながら、康生通りでもできそうではないかと、将来的なイメージをわかりやすく教えていただきました。軒先を使ってどんな魅力的なまちにするか、社会実験はイベントではなく、持続可能な「無理をしない日常」をどう使るかを考えることが大事であると話されていました。
そして、国土交通省の橋口真依さんより国は市町村とどう連携しようとしているのか、という制度的な視点でお話いただきました。
民の力やエリアの再生を後押しするまちづくり制度として、立地誘導促進施設協定(通称:コモンズ協定)と都市再生推進法人という2つの制度について紹介していただきました。
特にコモンズ協定の事例として、別々に管理されている駐車場を集約し、大きな1つの駐車場を共同運営する事例が紹介されていました。
別々に管理されている駐車場の場合は、敷地の形が整わない場合があり効率的に駐車できない状況が生まれるようです。また駐車場の出入口は駐車場の数だけ存在し、まわりを歩く人にとってはそれだけ危険であるとも言えます。
そこで駐車場を集約化し、効率的に車を止めることができれば、駐車台数を維持したまま収益を落とさずに、空いたスペースを作ることができます。その空いたスペースのメインストリートに面した場所では、お店を開くなどし駐車場周辺のエリアの価値を上げて、利用者にも使いやすい駐車場にすることができるそうです。駐車場を集約化することで、出入口もメインストリートの裏側に1つ設ければ良くなり、メインストリートを通る人にとっては車の出入がない安全な通りとなります。
また駐車場の共同運営について、西村さんからは、ハードルは高いがまちの周辺に作られるフリンジ駐車場とまちなかの民間の駐車場の利用権を交換して、まちなかの駐車場を公共的に使える民地とし広場化することで、安全で暮らしやすいまちにするというアイデアも紹介していただきました。
今回は「道路」や「駐車場」といったより暮らしに近いテーマで、その身近さのためか、多くの方の関心を集めているなと改めて感じました。特に駐車場の話題は会場に訪れた人の注目度も高かったです、(今年は駐車場の集約化に向けて、タイムシェアの取り組みが社会実験で行われます)。
道路と駐車場を使いこなすことで、「車」優先だった通りから歩いて楽しい「人」のための通りになりそうな予感は感じてもらえたでしょうか。暮らしを豊かにするまちの将来像をイメージしながら、康生通りの社会実験を体験していただけたらと思います。
写真:©️奇天烈写真館