王安石 「吾心」
吾心童稚時 おさなきころの
わがこころには
不見一物好 まだなにひとつ
みえてなかった
意言有妙理 よのことわりを
かんじながらも
獨恨知不早 それをつかめず
じれったかった
初聞守善死 ただしきことを
まもりぬくため
頗復吝肝腦 みをきるような
こともなかった
中稍歷艱危 としなかごろは
もがきくるしみ
悟身非所保 まもれるものは
ないとさとった
猶然謂俗學 それでもいまだ
あきらめきれず
有指當窮討 なっとくできる
みちをさがした
晚知童稚心 いまとしをとり
こどもごころは
自足可忘老 おいもわすれる
ものだとしった
「吾が心」
*最晩年の作。自らの一生を順に振り返り、この回顧の末に「童稚心」というものの掛け替えのなさに初めて気づく。そう思えたのはきっと、童心の灯が彼の中に、いまだ消えずにあったからだろう。
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